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仙田隆太は自分のベッドに横たわると、頭の後ろで手を組んだ。
今頃、土井尚子は生き返った世界で何を思っているだろう。
部屋に入る直前、花崎は隆太の肩を叩きながらこう言った。
「土井さんのことなら気に病むことはないですよ。彼女はあんなに若いんだから、いくらだってやり直せます」
そうだといい。
そうなら、いい。
隆太は昨日彼女が寝息を立てていた自分の隣を撫でた。
生き返りたくないといっていた美穂と尚子。
自殺したのは彼女たちのいずれかだったのだろうか。
自分ではない。
花崎でもない。
尾山でもない。
隆太はギリッと奥歯を噛んだ。
――尾山。あの野郎……。
涼しい顔しやがって。
ド変態のサイコパス野郎が……!!
花いちもんめのゲーム中、二人きりになった際に花崎は大きく息を吐くと、隆太のピアスだらけの耳に口を寄せた。
「―――この中に犯罪者がいる」
「………犯罪者あ?」
隆太は眉間に皺を寄せながら笑った。
「ああ。殺人犯がいる」
花崎は静かに言った。
「―――まあ、死神ってくらいだからな?大量殺人犯に間違いはないわな」
隆太は、尚子と何やら話し込んでいるアリスを振り返った。
「違う。人が人を殺すから、殺人犯なんだ」
花崎は隆太を睨むようにして言った。
「は!なんだなんだ?コナン君の登場かあ?」
面倒くさい話は苦手だ。
頭を使わなくてはいけない話も嫌いだ。
それならば―――。
わからないままの方がマシだ。
しかし花崎はこちらの気持ちを知る由もなく話を続けた。
「2020年12月から今年の5月にかけて、都内を中心に小中学生の男女4名が誘拐され、性的暴行を加えられた後、殺され遺棄された連続殺人事件があっただろ……?」
「―――え、あ、ああ」
普段ニュースなどほどんと見ない隆太は目を逸らした。
「あれ?でもなんか、犯人捕まったんじゃなかった?」
ありったけの記憶を引っ張り出して言う。
「ーー参考人として警察に呼ばれただけだ……」
花崎は半分馬鹿にしたようにため息混じりに言った。
「都内の精神障がい者が事情聴取で連行された。3人目の被害者と接点があったというだけで、だ。無論彼は犯人じゃなかった」
「―――へえ……」
「代わりに容疑者名簿に浮上したのが、埼玉県の会社員、尾山雅次。―――あの男だ……」
花崎は横目で尾山を睨んだ。
「4人目の被害者の身体から検出された精液と、職場の紙コップについた唾液のDNA鑑定により、本当なら6月19日、彼は逮捕されるはずだった」
「………はあ?ナニソレ……」
隆太は花崎を覗き込んだ。
「てか、それってみんな知ってること?」
聞くと花崎は首を横に振った。
「じゃあなんで、あんたそんなに詳しいの?」
「俺は―――」
花崎は一度3人を振り返った後、より一層声のトーンを落として言った。
「俺は、埼玉県警の刑事だ」
「は……!?」
目を見開いた隆太に、花崎は小さく頷いた。
「あの男は精神異常者だ。逃がしたらまたどこかで犯行を繰り返す」
花崎は小鼻を引くつかせながら言った。
「それならば、ここであいつを殺す。あいつを自殺で、殺す。協力してください……!」
「協力って?」
花崎は言った。
「このゲームで土井さんを負けさせる。そして次のゲームでは仙田さんが負けてほしい。そうしたら」
花崎の拳がグッと握られる。
「その次のゲームで、俺が何としてでも負ける」
「―――つまりあいつを何としてでも勝ち上がらせると」
「そうです」
小中学生4人を誘拐し、
性的暴行を加え、
殺した。
あいつを殺す。
あいつを自殺で、殺す。
花崎の言葉が頭の中を反芻していた。
「―――ん?」
でももしそんな奴なら……
あの男を蘇らせたのは―――誰だ……?
――そもそも、俺を生き返らせようとしているのは誰なんだろう。
親父―――はあり得ない。あの人は俺を愛していないどころか、俺に興味がない。
弟?
んなわけない。結婚して子供ができたばかりなのに。
お袋―――?
あの人にそんな勇気なんてあるだろうか。
あれかな。
かわいがってくれた室蘭の祖父ちゃんか、祖母ちゃん。そうかもしれない。
でも、
いざ、自分が死んで、
急に父親が責任を感じたのかもしれないし、
小さい頃はよく遊んでやった弟が、人肌脱いだのかもしれないし、
いつも父の言うことに意見せず、隆太がグレたときも叱責ひとつできなかった母が、勇気を振り絞ったのかもしれない。
全員に可能性はなくはないがーーー
あいつにだけはない。
あいつだけはあり得ない。
俺の―――嫁だけは……。