道枝side
高3の夏。
夏休みなんて名ばかりで、ほぼ毎日出席して履歴書やら進学先の書類やらを書き続ける受験期の俺たち。
長「みっちーはええなぁ、もう決まったんやろ?」
道「まぁな。来週撮影やねん」
俺は東京のとても有名な芸能事務所に所属した。
みんなよりひと足早く、来週撮影のために向こうへ行く。
長「大変やなぁ、行ったり来たりになるんちゃう?」
道「まぁ…でももうあと少しやし、頑張って両立するわ。」
長「俺はどうしよかなー、進学って言っても難しいなー」
道「長尾は頭ええし、基本どこでもいけるんちゃう?」
長尾はこう見えて頭はいい。
成績はいつも上の方で、その辺だと勿体ない学力だ。
道「ええとこ行けよ、親もどこいってもええって言ってんねやろ?」
長「まぁ…な」
道「…府内なん?」
長「…うん、大阪で進学しよう思ってる」
“一緒に来て”
なんて、言えるはずない。
離れたくない。
一緒に居たい。ずっと傍に居たい。
俺の感情は、いつしか親友を越えて強い恋愛感情に変わっていた。
いつからこんなに彼を好きになったんだろう。
抑えても抑えても溢れてくる好きを、拭えなくなってしまったら
道「…寂しいなぁ、卒業したらあんまし会えへんやん」
こぼれて、一滴でも彼に注いでしまったら
長「そやなぁ、でも…」
長「会いに行くよ、どこにおっても。」
きっと、彼は離れて行くだろう。
道「いっぱい遊び行こな」
長「東京案内してや、観光観光!」
道「ええで。俺が美味しいご飯屋さん見つけたる」
長「わーい!みっちーの奢りやー!」
道「奢るとは言ってへんやろ!?あっおい!」
バタバタと走って、空き教室から自分達の教室まで走る。
こんなふざけた呑気な日々が、いつまでも続けばいいのに。
長「ふふ、じゃあまた放課後な!」
道「…ん、また後で」
長尾が入った教室の組を見て思う。
道「3年間…一緒のクラスなれへんかったなぁ」
教室に居る時の彼は、また別の人の親友や友達なんだろうか。
道「…あかんなぁ」
最近拗れてきて、長尾の前でボロが出そうになる。
取り繕うのもやっとの恋心を、いつどこで発散すればいいのか分からない。
発散なんて、考えない方が良いんだろうか。
女A「あ、道枝くん!」
道「ッ!?え…あぁ、なに?」
女A「ノート出して!提出なのー!」
道「あ、分かった持ってくる」
話しかけて貰えてよかった。我に帰れた。
道「…あった、はい。ごめんギリギリで」
女A「全然いいよー!道枝くん最近教室居ないから探しいこうと思ってたんだけど、ちょうど遭遇できて良かったよー!」
彼女は明るくて、初めて話すけど何となくフワッとただよう空気は長尾に似ていた。
何でも長尾に重ねてしまうのは、好きが増している証拠。
あ、そうだ
道「量多いな、半分持とうか?」
女A「え!?いいよいいよ!私ひとりで行けるから!」
道「ええよ、よっ…どこまで?」
女A「わ…えっと、職員室…まで、」
道「分かった。行こ」
女A「あ、、うん」
この子と話せば、少しは長尾を忘れられるかも。
長尾side
最近、みっちーが1人の女の子と居るところをよく見る。
高3になって初めてみっちーが女の子としっかり接触しているところを見た。
モテモテのみっちーに反して女の子は地味でフワフワとした雰囲気の、、明るい子。
みっちーはあーいう子が好きなんかな…ふわっと明るくてなんやぽわぽわしてる子。
長「…やっぱ女の子やんな」
男の僕は勝ち目無しの勝負。
勝手に失恋した気分になって、今日のお昼が憂鬱。
道「長尾、ごめん遅なった…ってあれ、先食べてて良かったのに」
長「ッ!食欲…あんま無いねん」
さっさと入ってきたみっちーに少し驚いた。
やっぱり顔を合わせると勝手に気まづくなってしまう。
道「大丈夫か?夏バテ?」
長「いや…大丈夫やねんほんま、心配せんといて」
道「そ、?無理すんなや」
長「うん…ありがとう。ところでみっちーお仕事明後日やんな?」
道「急やな、、まぁそうやけど」
とりあえず話を逸らして、みっちーの初モデル仕事について聞く。
長「俺もその日、東京行くねん」
道「グフッ、!? え!?なんで!?はよ言えや!」
長「昨日決まってん。親が東京の大学見てこい言うて、勝手にオープンキャンパス予約してん」
道「え…長尾進学で東京行くん?」
長「ッいや、俺は見に行くだけやで?」
嘘。東京のオープンキャンパスには自分で応募した。
好きをこじらせた僕は、東京まで追いかけるのもアリなのでは?と思ってきていた。
だがここ数日、みっちーが女の子とかなり接触していたので言いずらくこのギリギリのタイミングになってしまった。
道「…そこが良かったらそこ行くん?」
長「まぁ…そやな」
道「なら俺と一緒に行こや!ホテルも2人部屋やけど1人で泊まることなってんけど、会社がお金出してくれるから無料やし、マネージャーは帰るから1人やってん!勿体ないし一緒泊まろや!」
こいつ、東京のホテルで1人なのが寂しいだけだろう。
長「…俺居てええの?芸能人と一般人やし…」
道「男友達やからええの!おねがい!」
長「…ええけど、行きは9時やで?」
道「え…俺7時やわ」
色々話し合った結果、みっちーに合わせる事になってしまった。
長「早いなぁ…」
道「我慢してや、俺と一緒なんやから」
長「どういう事やねん。」
道「嬉しいやろ?」
ここで嬉しいと言ったら、彼はどうするんだろうか。
長「…嬉しいよ。みっちーと一緒におれるの」
道「…俺も」
こうやっていつも “俺も” と返してくるのは鉄板。
なーんも考えてないんやろなぁ。
長「さっさと帰って準備して、明日ははよ寝よなー」
道「ほんまやな、ちゃんとパンツ持ってくるんやで?」
長「忘れへんわ!」
こんなふわふわした2人で大丈夫だろうかと心配してる間に、当日が来た。
長「…ホテル広ない?」
みっちーが仕事の前に特別チェックインをすると言うので、従ってみっちーについて行く。
すると、とんでもなく高級そうなバカでかいホテルに着いた。
道「まぁ俺が居るとこめっちゃ大手芸能事務所やから、こんなんなんやない?分からへんけど。」
長「いや…やばいでこれ…」
あちこち広い部屋を見渡しながら歩いていると、お風呂のドアが見えた。
開けようと手を伸ばした瞬間
道「長尾ー!行くで!」
長「あ、うん!」
みっちーが仕事に行くという事で、俺もホテルを出てオープンキャンパスの会場へと向かった。
移動で、同じ方向だからとついでに俺を大学まで送ってくれたマネージャーさん。めっちゃええ人
道「頑張れ、オープンキャンパス楽しんでや」
長「みっちーも、撮影頑張ってな」
道「終わったら連絡して?夕方やろ?」
長「うん」
そう言って別れて、お互い別行動開始。
オープンキャンパスは無事終了。
いい大学で、ここに行きたいと本気で思える場所だった。
学力的にもちょうどいいし、入った後でもついていけそうだった。
新しい校舎で、バカでかいせいかとても設備が整っている。
長「ここで進学しよかなぁ」
ひっそり心に決めた。
親友のままみっちーに付いていこうと、決めた。
でも、このままでええんやろか。
伝えんままで、一生隠して。
📞prrrrrr
長「うおっ…もしもし?」
道『長尾?今どこ?』
長「えっ今?大学やけど…」
道『オープンキャンパスどうやった?電話出てるってことは終わったんやろ?』
長「あ、、終わったで。いまさっき」
道『おおー、おつかれ。新しい学校やったんやろ?綺麗やった?』
長「めっちゃデカかってん。綺麗し…ホンマにええなと思った。ここも考えてみる。」
道『えっほんま!?ええやん!!そこに行ったらまた一緒に居れんな!』
長「…」
何も考えずに物事を発する彼は、俺の心をグッ押す一言を言う。
きゅっと鳴る心臓と、詰まる息を整える。
道『…長尾?』
長「あぁごめん、そやな!一緒におれんなぁ!ご飯奢りは約束やでー?」
道『ま、まだその話続いてたん!?』
長「当たり前やん!てかみっちー仕事どうやったん?」
道『あぁ、めっちゃ楽しかったで!ホンマに沢山写真撮ってん。雑誌何冊分かくらい撮って貰って、新人モデルで紹介してもらうのに丸々4ページも使って貰えることになってん!』
長「え!?凄すぎやろ!?おめでとう!」
道『ありがとう!あ、ホテル戻るやろ?俺今戻ってて、長尾の大学まで寄ってもらうわ』
長「えっええよ自分で帰るで?」
道『あかんよ、もう6時やで』
長「俺は小学生か」
“ええからええから、待っといて” と言って電話を切ったみっちー。
ホンマにたまに雑になるんなんやねん…
とにかくしばらく待っていると、みっちーを乗せた車がやってきてサッと乗りそのままホテルまで送迎してもらった。
道枝side
道「はぁあ〜疲れたぁ、長尾先風呂はいってええよ」
長「え、ええの?」
道「俺スタジオで1回入ってん。やから大丈夫やで〜まぁ2回目の撮影でまた髪ガチガチにされたからもう一回はいるけど。」
長「そっか…分かった入ってくるわ」
疲れた。
初めての撮影は緊張が凄かった。
表情も硬かったかも。
でもみんな褒めてくれて、ホンマに優しい現場やった。
道「…ずっと一緒」
もし長尾が大学に入ったらずっと一緒かも。
でもそうなったら、伝えないままずっと一緒におれるん?
2年の思いはそんな簡単に埋められへんよ。
そんなことをぼーっと考えていたら、長尾がお風呂から出てきた。
長「みっちー次ええよ」
道「あ、ありがとう」
少し頭を冷やそうと、全身洗い終わったあとに頭から水のシャワーを浴びる。
道「…考えすぎたらあかん」
好きを考えて
近づく方法
触れる方法
ずっと一緒にいる方法を考えて
それで毎日頭が埋まって
疲れて
拗れて
もうダメになりそうなほどの愛を拭って
道「…溢れたらどうしよ」
結局いつも答えは出ないまま、また明日。
長尾side
みっちーがお風呂から戻って、2人で部屋に運ばれてきたご飯を食べながら話す。
高3になって、みっちーは友達が2人出来ていた。
成長やと思う。クールのイメージを打破するのは難しいけど。
道「あ、とおるから連絡来てる」
とおるとは、みっちーの友達のひとり。
ゲーマーで、超うまいから教えて貰ってる。とよくみっちーに話を聞く。
長「なんて来てんの?」
道「…なんや電話できるかって言われたわ」
長「へぇ、急ぎやない?してきや」
道「うん…ごめんちょっと席外すわ」
そう言って、みっちーは部屋から出ていった。
道枝side
道「もしもし?どうしたん?」
と『あーもしもし駿佑?お前が最近仲良くしてる女の子いるだろ?』
道「え?あー…あぁ、高橋さん?」
と『そいつ、お前に気があるらしいけど…』
道「え…?そんなん初めて聞いたわ」
と『お前大事な時期だし、一応気を付けとけよ…あとその子の友達の一ノ瀬さん?』
道「あぁ、ロングで髪くるくるの??」
と『そう。そいつはお前の大好きな長尾くんの元カノらしいぞ』
時が止まった。
元カノ
と言う単語は、一瞬意味をシャットダウンした。
受け付けなかった。
道「…元カノ?」
と『おん、中学んとき付き合ってたってさ〜余談だけどな!じゃ、またなー!ほんとに気をつけろよー?』
道「…うん、ありがとう」
余談 が俺にとっての本編だった。
詳しく聞けなかった。
頭が混乱した。
道「…」
本人に聞くのが一番いい。
長尾side
長「あ、みっちーおかえり」
バタンッ と音がして、みっちーが部屋に戻ってきた。
長「なんやった?電話」
道「…長尾、一ノ瀬さん…知ってる?」
長「…一ノ瀬?」
聞き覚えしか無かった。
一ノ瀬香織 (いちのせかおり)
中学の時、2年間付き合っていた元カノ。
あっちの浮気で破局して、それから恋人という概念は少し苦手だ。
長「あぁ、知ってんで?中学一緒やねん。一ノ瀬さんとなんかあったん?」
道「なんでそんな他人行儀やねん。」
長「…え?」
顔を上げたみっちーは、少し怒っているように見えた。
長「え…いやっ」
道「元カノ…なんやって?」
長「え…なんで?」
なんで知ってるの?
分からない。
さっきの電話はその事?
いやそんな事でどうして…
というかなんでとおるくんが知ってる?
何かのついでに話されたのか
長「…なんや分からんけど、確かに元カノやで。まぁ昔の事やし、別になんも思ってへんけどなぁ」
ヘラッと笑って見せた。
これが今の精一杯だった。
道「…なんで別れちゃったん?」
みっちーに別れた経緯を話して、
少ししんみりした空気になった。
俺は別に気にしてないけど。
長「…ええんよ別に。俺もう忘れた話やし」
道「…なぁ」
長「ん?」
声の聞こえた方に顔を向けると、みっちーの顔が限りなく近くにあった。
くっつきそうな程。
道「…どこまでしたん?一ノ瀬さんと」
長「…へ?」
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