テラーノベル
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拒まれなかった。
逃げられなかった。
受け入れてもらえた。
たったそれだけのことで、張り詰めていたものが少しだけ緩む。
なのに、油断する暇もない。
瑠璃香の小さな手が、少しだけ震えているのが伝わってきたからだ。
(瑠璃香も……緊張してるのか……?)
その事実が、胸を締めつける。
自分が原因でこうなってくれているのだと思うと、嬉しさと同時に、下手を打って嫌われたくないと、自己防衛みたいなものも湧いてくる。
――それでも。
指先にかかる、わずかな力。
逃げるでも、振り払うでもない。
それを大切にしたいと……晴永は、こみ上げる様々な衝動をどうにか飲み込んだ。
(……あんまり深く考えるのはよそう)
自分も心臓が壊れそうなくらいドキドキしているけれど、ここは年上の男として、堂々としていなくては。
瑠璃香をリードするように、「行くか……」と何でもないようにつぶやいて、一歩前に踏み出す。
その動きに合わせて、瑠璃香も歩き出した。
絡めた指が、離れないで繋がったままでいてくれることが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。
晴永は、それだけで幸せだった――。
***
生活雑貨売り場に足を踏み入れると、棚に並ぶマグカップや食器が目に入った。
色も形もさまざまで、見ているだけで生活の輪郭が浮かび上がってくる。
晴永は一度足を止めて、何気ないふうを装いながら瑠璃香を見た。
「……瑠璃香は、どんなマグカップが好きなんだ?」
「え?」
突然振られた質問に、瑠璃香は少し考え込むように視線を彷徨わせた。
「花柄とか、動物柄とか……可愛いのが好きです。あ、でも……柄のないシンプルなのも好きです」
一拍置いて、少しだけ照れたように付け加える。
「小さいころから名前が瑠璃香だから、青とか……瑠璃色を連想させる色ばっかり勧められて、両親からもそういう色のものばかり買われていました……。でも実は、私、暖色系のほうが好きなんです」
確かに瑠璃香の持ち物には、暖かい色合いのものが多い。
……無意識に、そういう色を選ぶようになったのかもしれない。
「そうか」と短く相槌を打ちながら、晴永は棚に並ぶカップを見渡す。
色とりどりのマグカップたち。
無地、花柄、動物柄、幾何学模様……などなど。
(……この中で瑠璃香が好きそうなのは……)
どれがいいかを選ばせるでもなく、晴永は重ね置きができるスタッキングマグシリーズの中から、マットピンクとマットグリーンの二つを手に取った。
このマグ自体のカラー展開は全五種で、棚には晴永が選んだもののほかに、マットベージュ、マットブルー、マットグレーが飾られていた。
晴永としては、もちろんペアのつもりで選んだけれど、もともとの品が五種類あるので、最初から二つセットで並べられたものより、ペアっぽさのハードルがグッと下がる。――気がした。
実際、何食わぬ顔で片手押ししているカート内のカゴへそれらを入れた晴永に、瑠璃香は何も言ってこなかった。
(よし!)
そのことに密かにホッと胸を撫でおろした晴永だったのだが……。
「……あの」
おずおずとした様子で瑠璃香の声が追いかけてきて、
「それ……ペアです、よ、ね?」
ソワソワと落ち着かない様子で、カゴの中を指さしてくる。
コメント
1件
やーん、なんか甘酸っぱい(*´□︎`)
凪川 彩絵
#独占欲