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だけど、まだ親父は黙ったままで。
「会社は・・・オレがなんとかする」
そしてオレは親父にそう一言告げる。
「・・・お前が? 何を言ってるんだ。お前にそんなこと出来るはずないだろ。だから私は」
「オレは麻弥とは結婚出来ない。でもそれだと会社のことを考えると親父としてはそれを受け入れることは出来ない。違う?」
「お前が麻弥ちゃんと結婚するのが一番いいんだよ。お前にとっても私にとっても会社にとっても」
だけど、まだ親父はそこにこだわり続ける。
「だから。麻弥と結婚しなくても若宮グループに助けてもらわなくても、オレが自分の力でこの会社を救うことが出来たらどうする?」
「はぁ・・話にならん。一旦、この話は終わりだ。とにかくお前の勝手な意見は認めん。お前の為にも会社の為にも麻弥ちゃんと結婚しろ。わかったな」
「ちょっ!親父!!」
そう頭ごなしに命令して、親父は怒ってその場を立ち去ってしまう。
「樹!」
親父を引き止めようとするオレを、なぜだか神崎さんが止める。
「なんで!神崎さん」
オレは納得がいかなくて、つい神崎さんに反抗する。
「今はここまでにしとけ。社長にいきなりおまえの都合だけで現状を突きつけて全部わかってもらおうとするな。社長を興奮させて体調を悪化させるな」
「あっ・・・」
神崎さんにそう言われて、親父が静養しなければいけないことを思い出す。
確かにちょっと親父も少し興奮しかけてた。
「とりあえずお前が結婚出来ないという意志は伝えたんだ」
「だけど、結局親父は同じ。オレの言葉なんて聞こうとしないし、気持ちだってわかろうともしない。結局会社さえ助かれば、親父はオレなんてどうでもいんだよ」
自分で言ってて悲しくなる。
ホントは少しはわかってくれるかもしれないって思ってた。
昔のオレとは変わったこと、少しは伝わってると思ってた。
今のオレを見てもらえてるなら、少しは分かり合えるかもしれないって思ってた。
だけど、結局何も変わらない。
親父はオレを見ようともしない。
オレがどれだけ努力して頑張っても、親父には届いてなんかいない。
きっと親父にとってみればそれは全部当たり前で。
でも出来なければまたガッカリされるんだ。
どうしてこの人にはオレが何をしても届かないんだろう。
「いや・・・樹がそれを伝えただけでも今は十分だと思うよ」
「何が?結局親父認めてないじゃん」
「大丈夫だよ。ちゃんと樹の声は届いてる」
「あの親父の反応で?」
「今まで樹があそこまでちゃんと自分の意志を社長に伝えたのは初めてだろ」
「反抗はしてるけどね」
「でも、今までは理由もなく、ただ嫌がって反抗してただけだってきっと社長もわかってる。だけど今回は違うだろ?」
「当然」
「樹の意志をちゃんと伝えたことで、きっと社長は考えてくれるはずだ」
「あの人が・・・?」
神崎さんがそう言ってくれても、結局いつもこんなことの繰り返しでうんざりする。
そう。ずっと昔からこんなことの繰り返し。
だからオレは誰も信じられなくなって、誰も必要としようとしなかった。
求めても受け入れられない。
だけど・・・こんなどうしようもない親父とのこんな関係もオレ自身にも嫌気がさしていたある日、オレは透子に出会って救われたんだ。
透子がいなければ、またオレは昔の自分に戻ってしまう。
親父の言いなりになって、自分の気持ちなんてどこにもない、そんなつまらない人間に、また逆戻りだ。
「今はとりあえず様子を見よう。樹の気持ちを聞いて社長も今すぐには事を進めようとはしないはずだ」
「ならいいけど・・・」
「だからお前は今のままあの計画を進めればいい。それさえ成功すれば絶対説得出来る」
「オレ、自分を信じていいんだよね・・・? 透子のこと、このまま好きでいていいんだよね・・・?」
神崎さんの言葉に力をもらいつつも、同時に急に感じて来た不安をつい口にしてしまう。
「樹らしくないな。お前は自分を信じて目の前のことを頑張ればいい。社長はオレがしばらく様子を伺って、またちゃんと話出来るようにするから」
「わかった・・・」
「お前が頑張らなくてどうする。お前が自分自身を信じて頑張らないと望月さん守れないぞ」
頭ではわかっていても、ついこんな時は自分でもどうしていいかわからなくなってしまう。
つい透子を好きでいることへの自信も無くしそうになる。
オレがこの気持ちを信じていないと、透子との関係は成り立たなくなってしまうのに。
だけど、神崎さんがそんな弱ってるオレを奮い立たせてくれる。
「やっぱ・・思ってた通り手強いわ。ただ好きな人と一緒にいたいだけなのにさ・・・」
ようやくずっと一緒にいたいと思える人と出会えたのに。
その人と一緒にいることさえも許されない。
すべてを決められてしまうこの環境が嫌でたまらなくて、透子と出会えてようやく抜け出せると思ったのに。
だけど、透子と出会ってオレは変われたから。
すべてが投げやりだった昔のオレとはもう違うから。
だから、絶対諦めない。
透子を好きでいることも。
透子と一緒にいることも。
透子と幸せになることも。