スタジオの空気は、今日も重かった。
初兎をめぐって、りうらとIfの微妙な火花が続いている。
初兎は気を遣って笑顔を作るけど、その目の奥は明らかに疲れていた。
そんな中、収録が終わった後。
「ねぇ、しょーちゃん、今日俺と帰ろ?」
りうらが声をかける。
「え、いや……」
そこに割り込むようにIf。
「予定あるんやろ?しょにだ、俺と話すって」
「えっ、そ、それは……」
その瞬間だった。
「……お前ら、ちょっといい?」
静かに、それでいてはっきりと通る声。
ないこだった。
スタジオの空気が、一瞬で凍りついた。
「一旦、全員黙れ」
表情は変わらない。でも声のトーンがいつもと違う。
「今、誰のために揉めてる?」
沈黙が流れる。
「初兎ちゃん、ずっと無理して笑ってただろ。お前ら、気づいてたか?」
Ifとりうらが、ハッと目を見開く。
「……初兎ちゃんのことが好きなら、好きでいい。でもな、それで本人がしんどくなってたら、本末転倒だろ」
ないこの声は優しさもあったけど、はっきりと“叱る”色を含んでいた。
「言葉にしろ。誠意を見せろ。でも、それは“押しつける”ことじゃない。相手をちゃんと見てやれ」
りうらも、Ifも、何も言えなくなる。
そんな中、ないこがふっと初兎のそばにしゃがみ、目線を合わせて聞いた。
「……初兎ちゃんはどうしたい?」
初兎の目に、涙が浮かんでいた。
「……仲良くしててほしい……俺のせいで、二人がケンカしてるの、つらい……」
ないこは、ゆっくりとその頭を撫でてから、他の二人に向き直る。
「聞いたろ?」
「……うん」
「……ごめん」
りうらとIfが、同時にうなずいた。
「しょーちゃん、ほんとごめん。俺、焦ってたんだ」
「俺も……勝手に張り合ってて、ごめん。もう、無理させへんから」
初兎がぽつりと呟く。
「……やっぱ、ないちゃん、かっこいい……」
「は?」
「え、ちょ、お前それ今言う!?!?」
りうらとIfが揃って反応し、ないこは苦笑い。
「はいはい、また争うなら外でやれ。俺の前で初兎ちゃんを泣かすなよ」
そう言って、ないこは初兎の涙をそっと指で拭ってやった。
そしてスタジオには、ようやく穏やかな空気が戻ってきた。
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