(た、高い……。やっぱり竜之介くんはこういう高いホテルに泊まったり、値段の高い料理を食べたりなんて、普通の事……なんだろうな……)
御曹司の彼とは住む世界が違うと思っていたけど、こういう些細なところでさえも違いを思い知らされる。
「亜子さん?」
「え?」
「どうかした?」
「あ、いや、ちょっとボーッとしてただけ」
「朝から動きっぱなしだったから、疲れた?」
「う、うん、そうかも」
「お風呂のお湯張るから、夕飯の前にゆっくり入るといい。凜は後で俺と入ればいいし」
「え? いや、でも……竜之介くんだって疲れてるでしょ? 凜は私が入れるから……」
「俺は平気だから。凜、風呂は後で俺と入ろうな?」
「うん!」
「ほら、凜も俺と入るって言ってるし、亜子さんは一人でゆっくり入りなよ、ね?」
「……ありがとう、それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうね」
結局竜之介くんの厚意に甘えまくりの私。
お風呂に入っている間に料理を注文しておくと言われ、値段が気になって決められなかった私は彼にお任せしたのだけど、いざお風呂から上がると、テーブルに並べられた夕食を見た私は驚き、思わず声を上げた。
「あれ? これって……」
「ああ、一樹に頼んで買って来て貰ったんだ」
だって、並んでいたのは大手チェーン店のお弁当だったから。
「亜子さん、値段気にしてるみたいだったから、これなら気にせずに食べれるかなって」
「竜之介くん……」
しかも、私が値段を気にしていた事に気付いていて、気兼ねなく食べれるようにとの計らいだと知って驚くばかり。
(本当、竜之介くんには隠し事出来ないなぁ……)
気を遣わせてばかりで申し訳ない気持ちになるけど、彼の気遣いは本当に嬉しい。
「俺としては値段なんて気にして欲しくはないけど、一番は楽しく食べる事だから今回はここの弁当にしたんだ」
「ママー、おなかすいた!」
「ほら亜子さん、食べよう」
「うん」
価値観の違いがあって驚きや戸惑いも多いだろうけど、気遣ってくれる竜之介くんとならやっていける。
そして、私も少しずつだけど彼に合わせられるようになれたらいいなと思いながら、私たちは楽しい夕食の時間を過ごす事が出来た。
夕食の後、竜之介くんが凜をお風呂に入れてくれただけでは無く、凜からのリクエストで寝かしつけの絵本読みも竜之介くんにお任せする事になり、私は凜が生まれてから一番楽な夜を過ごしている気がした。
ソファーに座ってベッドにいる二人の姿を眺めていると、凜に読み聞かせをする竜之介くんの優しげな声が聞こえてくる。
それがもの凄く心地良く感じて思わずウトウトしてしまう。
「――亜子さん?」
「……竜之介……くん?」
「凜、眠ったよ」
「あ、ありがとう! ごめんね、私、寝てた!」
「いや、構わないよ。疲れてたんだろうから。眠いならきちんとベッドで寝る方がいいし、今日はもう寝ようか?」
「ううん、大丈夫! それに、色々話したい事もあるから……」
「まあ、大丈夫ならいいけど、眠くなったらすぐ寝る事。いい?」
「うん」
「何か飲む? って言っても、冷蔵庫にあるのは酒とジュースとお茶、ミネラルウォーターくらいだけど」
「竜之介くんってお酒飲める人?」
「まあ、人並み程度には。亜子さんは?」
「私も人並みには飲めるよ」
「それじゃあビールでも飲む?」
「うん、飲みたい! 家じゃ全然飲まないから久しぶり」
「そうなんだ? けどまあ亜子さんってお酒弱そうなイメージだから飲まなくても納得だけどね」
「そうかな? 私はそれなりに強い方だと思ってるよ」
竜之介くんが冷蔵庫から350mlの缶ビールを二つ手にしてソファーへやって来ると、隣に腰を下ろした。
同じタイミングで缶を開け、コツンと缶を当てて『乾杯』と口にした私たちはそれぞれビールを喉へと流し込んだ。
久しぶりに飲むお酒というのは何だか凄く美味しく感じた。
元からまあまあ強い方だと自負していたところはあったけど、飲む量は人並み程度かそれより少し多いくらい。
これまで飲み過ぎた事など無かったし、缶ビールや酎ハイなんかは二本飲んでも少し酔う程度だった筈……なのだけど、久しぶりだった事や、疲れや眠気が原因なのだろうか。
気付けば私は缶ビール一本で既に酔いが回ってしまっていて、何だかやけに頭の中がフワフワする感覚に陥っていた。
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