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「考えてくれないかい? “陛下”じゃなく、“私”としての願いを」


ヴィクトールの低く甘い声に、ハイネは返事ができなかった。


(……冗談で言っているわけではない。目が――本気だ)


口を開こうとした、そのとき。


バンッ!!


「センセー!! さっきの“ちょっと話があるから先に戻っていなさい”って、まさかそんな……!」

「どうせまた父上がハイネに迫っていると思ったぞ!!」

「先生を口説くなんて……父上、酷い……」

「今ここで、決着を!!」


四王子、勢揃いでドアを蹴り破らんばかりに登場。


「…………は?」


「……もう少しだったのに」


王子たちの視線は、ハイネと、それに至近距離で向き合う父・ヴィクトールに一斉に注がれる。


「センセー! 顔赤くない!? やっぱり俺のこと……」

「黙れリヒト! その赤さはきっと、父上のせいだ!」

「父上、師匠に変なこと言ったでしょう……っ!」

「父上……ずるは、だめ……」


―再び、王室争奪戦・開幕。


「ちょ、ちょっと……待ってください……!」

ついに混乱の中心にされてしまったハイネが、珍しく声を荒げた。


「皆さん。まず話を整理しましょう。私は陛下から“願いを考えてほしい”と言われただけであって――」


「その願いが“結婚してくれ”的なアレだったんでしょ!? でしょ!?  センセー!!」

「待て、まだ了承してないんだろ!? 今なら間に合う!!」

「先生、逃げよう……俺が連れてく……」

「自分は断固として反対だ! 父上との交際など断じて認めない!!羨ましい…羨ましいにも程がある…!!」


王子たちはそれぞれの思いを胸に、混沌とした空気のなかでにらみ合う。


そんな中、ハイネは――


「……皆さん、廊下に正座です。今すぐに」


いつものように、静かに・でも一番怖い声で告げた。


「「「「はい……」」」」

「……まったく、ハイネにはみんな敵わないね。」


王族たちの尊厳などどこへやら。

それは、書庫前に整然と並ぶ、五人の男たちの姿で幕を閉じた――。

……異様な光景に、侍女たちが揃って吹き出してしまうのは、また別のお話。

愛され教師、逃げ場なし

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