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巴さんが無茶な要求や理不尽な指摘をしたりするのは育った環境が大きく影響していると思う。
巴さんのお父様は社長として国内外を行き来したりととにかく忙しいらしく、自宅に戻ることのほうが稀だという。
お母様もやり手なようで、店の経営をいくつも任されていて忙しくしているらしく、自宅に戻るのは月に半分くらいとのこと。
そんな中、巴さんは一人息子で兄弟もいなくて、幼い頃から周りに居たのは使用人たちだけ。
当然、甘やかされて育てられ、欲しいものやしたいことは何でも叶い、何か発言をすれば周りはそれに従ってくれる。
そんな環境で育てばそれが普通だと思ってしまうのも当然だろうし、その結果、傲慢で横暴な性格になってしまったのも自然な流れだと思う。
ただ、環境がそうさせたとはいえ、今の自分のままではいけないと、どこかで気づいているのだろうけれど、素直になれない性格だし長年身についた習慣が邪魔をして、つい大きな態度を取っては自分の言動を振り返り、後悔することもきっと多いと思う。
そして、そんな自分ではいけないと分かっているからこそ、どうしたら分かってもらえるのか、もっと真正面から向き合って欲しい、間違いは正して欲しいと願っていたのかもしれない。
だからこそ私が彼の言動に真正面から立ち向かった時、巴さんは戸惑いながらも何かを感じ取ったように思えたし、彼が私に色々と言ってくるのは、きっと“構ってほしい”という不器用な気持ちの表れなのだと私は感じていた。
(でもまさか他のことはしないで側に居ればいいなんて言い出すとは思わなかったから、少し驚いたけど……)
まあ、それだけ心を許してくれつつあるのだと思ったら日々の努力が報われた気がして嬉しいし、もっと巴さんの為に色々してあげようと思えた私は、甘めのコーヒーを用意して再び彼の部屋へ向かって行った。
「お待たせ致しました」
巴さんの元へ戻り、持って来たカップを彼の前に置くと、それを見た彼は、
「コーヒーはブラックだと言ったはずだが」
カップを持ち上げて眉をひそめた。
「はい、いつもならそうですけど、今日はお疲れのようでしたので、少しだけミルクを」
「また勝手なことを」
そう口にする言葉は鋭いのに、その声にはわずかな戸惑いが混じっているように感じた。
「お口に合いませんでしたか?」
「……別に、不味くはない」
「それは良かったです」
「……お前は、本当に変わった奴だ。理解出来ん」
口では文句を言いつつも、結局はそれを飲んでくれる巴さんは素直じゃない。
そんな素直じゃない彼を前にした私は、思わず口元を緩めてしまう。
「何が可笑しい?」
「いえ、その……」
「何だ?」
「巴様は、甘い物の口にすると、子供のように無邪気な表情を浮かべていることが多いと思いまして」
「なっ! 馬鹿なことを言うな! そんな顔はして無い!」
「あ、すみません。それは私の勘違いでしたね。それでは、お仕事のお邪魔にならないよう下がりますね」
すっかり不貞腐れてしまった巴さんは何も答えないけれど、照れ隠しのように無造作に書類を捲る音が静かな部屋に響いていく。
そんな音を背に受けた私は、また一つ巴さんとの距離が縮まったことを確信しながらそっと部屋を後にした。