コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「放課後、話がしたい。視聴覚室に来てくれ。」
君にLINEする。
「わかった」
そう返事がきてもう戻れないとこまで来たのだと思った。
放課後、チャイムと同時に教室を出て急いで視聴覚室に行く。ドアを開けるが、誰もいない。よかった。まだ来ていない。 教室の中に入らないと見えない位置の席に座り、深呼吸をして自分を落ち着ける。そしてこれまでの日々を思い返す。
小学生の頃、人と馴染めずに1人でいた僕の友達になってくれた君。
中学に入っても友達のまま、くだらない話をして笑い合ったこと。
遊びに行った時にみせた、花火がはじけたような笑顔。
僕が自分の悩みを打ち明けた時にした真剣な表情。
僕を慰めてくれた優しくて強い表情。
そして、
「何。」
君の声がした。
「いきなり呼び出して。部活あるんだけど。」
「ごめん。君と話がしたかった。」
「話すことなんてない。言いたいことがあるならさっさとして。」
僕はカバンの中から2つの粉末を取り出す。
「これはトリカブトの毒「アコニチン」とフグの毒「テトロドトキシン」だよ。2つとも猛毒なんだけど、両方摂取すると拮抗作用によって少しの間生きていられるんだ。」
そう言って両方を摂取する。
「ちょっと!何やってるの!」
「これで僕の死は約束された。それでだ。何故あんな事をしたんだ?」
君が僕にしたあの事を問う。すると、君は涙を流した。
「ごめんなさい。」
それだけ言って君は黙った。
あの日、君は僕を裏切った。
8月のその日はとても蒸し暑かった。
君と遊園地に行った帰りだった。夕陽が沈みかけて綺麗な景色の中、僕は君に好きだと伝えた。君は最初、何を冗談を言っているの?というような態度だったが、僕が本気なんだと気づき、真剣な表情になった。
そして、
「ありがとう。少し時間をください。」
と言った。
それ以降の夏休みは早く学校が始まらないかと緊張と興奮と不安でいっぱいだった。
夏休みが終わり、学校に行くと、
「お、来たよ。気持ち悪い。」
と誰かが言った。僕の身には覚えはない。無視して席に着くと、1人の女子が寄ってきた。
普段は僕のことなんて空気同然に扱ってた人間が近寄ってくるのには驚いたが、彼女が言った事に比べれば全然だった。
彼女は、
「お前気持ち悪いんだよ。私のダチに付き纏って。この変態ストーカーが。2度と近づくんじゃなねえぞ。」
といきなり言ってきた。君の方を見ると、申し訳なさそうに俯いていた。
「ストーカー?僕は何もしてないよ。ただ遊んだだけだよ。」
「嘘つけ。本人に聞いたら、『付き纏ってくるからしょうがなくいうこと聞いてただけ。』って言ってたぞ?この陰キャストーカーが。消えろ。」
それは本当なのだろうか。
僕が付き纏っていた?
冗談じゃない。
でも君はそう言っているのか。
もう何がなんだか分からない。
本人にこの耳で聞きたいけれど、これ以上荒波立てると自分の日常が全て崩れそうだから仕方なく
「わかった。もうしない。もう関わらない。」と言って教室をでた。泣きそうだ。なんとか涙がこぼれ落ちないようにするのが精一杯だった。
そうして僕たちは関わらなくなった。
それ以降、心の中の箱の底が抜けたように何もかも空虚になってしまった。生きる意味を見出せず、僕は心を固く閉ざして生きていた。
それが最近になって急に真実を知りたくなった。でも、その真実が良いにせよ悪いにせよ、消えてしまいたいという願望は変わらないんだとわかっていた。
だから、真実を知ってから死んでしまおう。が、真実を知ってしまったら死ぬ気力すらないだろう。ということで予め毒を飲み、残された時間で真実を聞こうと思ったのだ。
「僕はもうすぐ死ぬ。その前に真実を知っておきたいんだ。本当に俺が鬱陶しかったのならそう言ってくれればいい。」
「鬱陶しくなんて、なかった。」
「じゃあなんで。」
「撮られてたの。告白してくれた時、たまたま彼女達が居合わせていて。あなたが告白してくれた日の夜、その動画が送られてきたの。『あの陰キャまじできもいわ。大変だな。あんな奴に付き纏われて。私が追い払ってやるよ。』って言われて、止められなかった。本当にごめんなさい。」
やっぱりそうだったか。君が裏切るはずがなかったんだ。僕は嬉しかった。
そして雑談をして時間を潰した。
ついに薬が効き始めてきた。
だんだんクラクラして、気持ちも悪い。でもよかった。死ぬ前に真実が知ることができて。
薄れていく意識の中で、真実を知ることができた幸福感と、君が好きだという気持ちでいっぱいだった。
そして僕は死んだ。
「あゆか。こんなとこで何してんの。」
ふと声がした。
「田中に呼び出されて。来ないと死んでやるって言われて。」
「は?なにそれw。田中は?」
「そこにいる」 と指を指す。
そこを見ると、僕が死んでいた。 ああ、俺は死んで幽霊になったのか。
「は?死んでんじゃん。どうすんの。ヤバいよ?」
「会話とかは録音してあるし、自分で毒を飲んだことも自供してたから多分大丈夫。」
「とれあえず、先生呼んでくるよ。」
少し混乱した。でも、君の心の中では僕のことをうざいと思っていないということを知っている。だからきっと演技なのだろう。
「はぁ。」
ふと君はため息をついた。
「最後の最後まで面倒なことしやがって。罪に問われたどうすんだよ。キモ陰キャ変態ストーカーが。」
と独り言を言った。
今はもうない毛穴から汗が吹き出るような感覚に陥った。
「善意で少し話しかけてあげたら調子に乗りやがって。」
そこで俺は理解した。彼女のさっきの泣き真似も、あの花火のような笑顔も、全て演技だったのだと。
天に昇る最中、俺は必死に足掻いたが、何も変わらない。
もう物理的に干渉できないはずの僕の目から涙がこぼれ落ちた。
その涙が彼女の袖を濡らし、僕は消えていった。