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薄ピンクのボディに青白い手足。まるで四角い箱を繋げたような見た目だが、ちゃんと人の形になっている。難しい造形は出来ないのか、手足は丸く、頭はドーム状で、よく分からない角が生え、頂上にはドヤ顔になったシャービットの上半身。
遠目に見れば角ばっていて固そうなフォルムだが、近くで見るととってもクリーミーでモコモコしている。原料がメレンゲだけなので当たり前だが。その全長は家の倍程度と、かなり大きい。
そんなメレンゲの塊だが、空から着地をしても全く型崩れしていない。シャービットの力でしっかりと固定されているのだ。
遠くで見ているネフテリアや、何が起こっているのかが分からない町民は、そろって唖然としている。
しかし、経緯も元凶も知っているミューゼ達は、目を点にして呆れていた。
「バカか? アイツはバカなのか!?」
「どうしよっかアレ……」
「とりあえず引きずりおろして、お説教しかないのよ」
何故かやり切った感満載のシャービットだが、身内からの評価は最悪だった。
しかし、そんな中でも1人だけ違う反応を示していた。
「ふあぁ~~~~!!」(うおー! さっき描いた巨大ロボットだ! 昔懐かし単純フォルムになったけど、紛れもない巨大ロボット! しゃーびっと凄い! 乗せてくんないかな!)
「うひぃっ!? ア、アリエッタどうした!?」
少年の心を持った大人…の魂を持ったアリエッタである。前世でも巨大模型の動くロボットは見ていたが、実際に人が乗って動かしている巨大な人型オブジェを見れば、大興奮なのだ。
「しゃーびっとー! しゃーびっとー!」
「やったよアリエッタちゃん! 上手く形に出来たよ!」
「ん?」
大声でやり取りする2人を見て、ピアーニャに疑問が生まれた。どう考えても、アリエッタとシャービットの間に何かがあったとしか思えない。
その疑問を解消する為、確認をする事にした。
「あー…アリエッタ」
「う?」
一瞬アリエッタのキラキラし過ぎた視線に当てられ、思わずたじろぐが、可能な質問はただ1つ。
「これなーに?」
「ロボット! ん~……マツのー」(ちょっと待っててね、たしかポーチに……)
(やっぱりナニかしってるようだな。それに、イイかんじにカイワできはじめてるじゃないか! これで、わちのネンレイをおしえるヒも、ちかいぞ!)
違う期待をするピアーニャだが、信じてもらえるかは別である。
どうやって実年齢を教えるべきか悩む幼女を他所に、アリエッタはポーチの中から1枚の折られた紙を取り出した。
「ぴあーにゃぴあーにゃ、これ!」
「これ? ……これはっ!」
手渡された紙を見て、ピアーニャが驚愕した。
先程からアリエッタとのやり取りを見ていたミューゼ達も、気になって覗き込んだ。
『え゛……』
紙を見た全員が、固まってしまった。そこに書かれていたのは、カッコいいロボットの絵。あまり似ていなくても、その腕の形状を見れば、シャービットが何を作ったのかが分かってしまった。
「アリエッタ、そんな事してたの?」
「なんでそんなに嬉しそうなのよ……可愛いから許すのよ」
「許しちゃうんだね……」
「今はそれよりも、シャービットをどうにかするのよ」
「それもそうですね」
アリエッタを囲む大人達は、シャービットのメレンゲゴーレム『ヴェリーエッター』に向き直った。
「アリエッタの名前を入れるとか、羨ましすぎるのよ。シャービットには10年早いのよ」
「怒りの顔の理由がソレなんだ……っていうか丸腰で何するの?」
今のパフィは武器を持っていない。流石に家にいるのに常時身に付けていないのだ。
だが、質問するパルミラに、不敵な笑みで答えた。
「ふっふっふ、そこは考えてあるのよ。覚悟するのよシャービット」
「勝負なん、お姉ちゃん!」
いくらでも先制攻撃をするチャンスはあったが、シャービットは待っていた。不意打ちでパフィ達を害すれば、確実にアリエッタに嫌われるからである。
アリエッタに好かれつつパフィを負かすにはどうするか。数日そんな事を考えていたシャービットが出した答えは、遊びとして殴り合って倒すという、なんとも言えないパワープレイだったのだ。
巻き込まれたニーニルの町にとっては、完全なる大迷惑である。
「とっとと叩き落として、町のお掃除させてやるのよ」
そう言うと、パフィは自分の頭に手を突っ込んだ。ピアーニャ以外が悲鳴を上げて驚いた。
「パフィ!? 手が! 頭が!」
「ちがうのよっ! これはメレンゲなのよ!」
突っ込んだのは、パフィの頭に乗った青白いメレンゲの塊だった。現在パフィの頭は、緑とピンクと青という、3色のモコモコになっている。
色が違うというのに見分けがつかない一同を放っておいて、パフィはシャービットを睨みつけた。そして足を踏み込み攻撃を仕掛けた!
「【クッキーソーサー】!」
頭から引き千切ったメレンゲを円盤状に固め、うっすらとした焦げ目が美味しそうなクッキーへと変貌させ、投げ放った。
「うおおおおっ!」
「うおおおー!」
シャービットが叫び、テンションが高いアリエッタも一緒に叫び、ヴェリーエッターの腕がクッキーを迎え撃つ。
接触した瞬間、柔らかな音と共に、メレンゲが飛び散った。
ズザァッ
「つっ……まったく、見た目通り強くて困るな」
弾かれたディランとツーファンが着地したまま地面を滑り、止まった所でケインを睨みつけた。その顔からは、普段の変態っぷりが全く伺えない。
「お前達の目的は何だ?」
「それを今更聞きますか……」
「うっ……」
コーアンの呆れた返答に、息を詰まらせた。
大体ツーファンが先走ったせいではあるが、ケイン達の奇行に驚き、攻撃的になってしまったのは事実である。
ケインが正直に話そうとするが、それを阻止する者がいた。
「ここに来たのは──」
「聞いてたまるか! 死ね! 【蛇ヌードル】!」
『ちょっ!?』
ツーファンがケインの口に向かって生地を伸ばした。その先端に光る物がある。
「うぃっ!?」
防御しようとして、ギリギリで身を躱す事に切り替えた。それでも完全に避けきれず、腕に浅い切り傷がついてしまう。
「あぶねっ、何かついてやがる」
「ピックか! ツーファンのヤツ本気だな」
なんと長く伸ばした1本の麺の先端に、金属製のピックを埋め込んで放っていた。手段もそうだが、目にも殺意が溢れている。
ツーファンが前に突き出した腕を戻すと、麺がツーファンの周囲に戻り、漂う。身を守っているのではなく、蛇のような攻撃態勢になっているのだ。
「どーすんですかアレ。ツーファン暴走してますぜ?」
「うむ、怖いな」
「少し離れてましょうか」
ディラン達3人はすっかり怯えている。今手を出せば、ハンバーグにされてしまうかもしれない。
「しかし彼らの目的とは一体……」
「あ~……パルミラから聞いた事があるので、なんとなく知ってはいますが」
アデルはケイン達と直接の関わりは無いが、ヨークスフィルンでの1件の後、パルミラから愚痴を聞いていた。その時の変態については、何度も何度も語られた事があるのだ。
「おそらく服が目的です。今は破れてますが、一応オシャレな人達らしいですし。多分、本人達にとっては」
女装に興味が無いので、その心境については自信無さ気に意見を言ってしまう。しかし、聞いた話と合わせて、どうしても間違っているとは思えない。
そんな微妙なアデルの言葉から、ディランは目的地を推測した。
「オシャレといえば、クラウンスターか?」
クラウンスターはエインデルブルグでも一番大きなファッションショップ。引きこもる事の多いディランも、その名前はよく知っていた。
「たしかー、最近どこかの下について、さらに勢いを伸ばしてきているとかゆー?」
「はい。しかし、それでツーファンがああなる意味がわかりませんが」
そのツーファンは、麺を操り、あらゆる方向からケイン達を攻撃している。その動きは徐々に速く鋭くなっている。
ケインは回避しながら、周囲に注意を向けていた。その目的はもちろん、
「クラウンスターか。ちょいと案内してもらおうか」
「お、聞かれてたか。アデル場所知ってるか?」
「させません!」
ボルクスは案内してさっさと帰ってもらおうと考えているのだが、ツーファンがそれを頑なに拒絶する。
焦ったのか、狙いをケインだけに絞った。そこへ、
「いーかげんにしろツーファン。【トルティーヤ】っ」
「ぐっ!?」
コーアンが生地を薄く広げ、ツーファンに巻き付けた。ついでに硬くしたのか、中のツーファンはもがくだけで動けない。その隙に手に持った生地を取り上げた。
「おのれえっ! このままでは済まさないわ! 出せ! 出せええええ!!」
『猛獣か……』
1人暴れ狂うその姿に、男性陣は揃ってため息をついていた。
ディラン達はいつの間にか、ケイン達に対して抵抗が無くなっていた。女装している時は引いていたが、服が半分弾け散ってしまえば、ただの半裸の筋肉である。ガチガチの筋肉はともかく、上半身裸は別に珍しい光景ではない。ボルクスも、酒を飲んで無駄に脱ぐ事もあるのだ。
「で、アンタらは、クラウンスターって店に行きたいだけなのか?」
「いや違う。そこも無関係ではないのだが、俺様達が行きたいのは別の服屋だ」
男達が普通に会話している時、ツーファンは生地を失った手を、自らの服の中にどうにかしてねじ込んでいた。
「その店の名前はなんです?」
「フラウリージェだ」
ケインが目的の店の名を出したその時、
ガリガリガリッ
『!?』
固い生地を削る音が響いた。
全員がそちらに注目すると、トルティーヤがバラバラになって崩れ落ちた。
「うわぁ……」
「こえぇ……」
そこに立っていたのは、殺気を漲らせたツーファン。目から光は消え、口からは湯気が出ている様に見える。しかもその手には、ギザギザの刃がついた包丁、パン切り包丁が握られている。
「行かせん……貴様ら全員この場で乱切りにしてやる……」
「僕らもか!?」
殺気はディラン達にも向けられていた。どうやら敵味方の区別がつかない程、頭に血が上っているようだ。
アデルは何故こんな事態になったのか気になっているが、今はそれどころではない。
「うおオオオオオオオ!!」
いきなり大声で吠えるツーファン。殺気も空高く立ち昇る。辺りの建物がビリビリと震える。
この事態をどうにかしようと、まずはコーアンが動いた。
「【煎餅手裏剣・固焼き】!!」
煎餅を2枚投げ放った。高速回転をしながら飛ぶ煎餅は、弧を描きながら2方向からツーファンに襲い掛かる!