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【彼女が手を繋ごうとしなかったら】
夜の帰り道。
少し肌寒くなってきた空気の中、亮くんと並んで歩いていた。
けれど今日は、なんとなく手をつなぐタイミングを逃してしまった。
信号待ちの時、彼の視線が横から突き刺さる。
「…なんで、今日はつながないの?」
「え、別に…」
「別にって何」
少し不機嫌そうな声に、私は笑って誤魔化そうとする。
でも、彼は急に立ち止まり、私の手首をそっと掴んだ。
「俺、こういうの気にするんだよ」
その言葉と同時に、彼の手が私の手を包み込み、
そのまま自分のコートのポケットに一緒に入れる。
「…寒いだろ。俺から離れないで」
ポケットの中、彼の指がゆっくり絡んでくる。
指先から、全身にじわりと温もりが広がった。
「亮くん、そんなに気にしてたの?」
「気にする。お前の手は、俺が一番多く握ってたい」
歩きながら、ポケットの中で彼の親指が私の指をなぞる。
その仕草がくすぐったくて、でも胸がいっぱいになった。
マンションのエントランス前、彼はポケットから私の手を引き出し、
そのまま唇をそっと落とした。
「これで、今日つながなかった時間は帳消し」
少し照れくさそうに笑うその顔を見たら、
次は絶対、自分から手をつなごうと決めた。
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