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霞月 つむぎ 🌌🐈⬛🪽
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海が荒れている夜は、何故か姉達はそわそわ落ち着かない様子で、連れ立って沖の方に出掛けて行った。
暫くして戻ってくる時には、皆が頬を上気させて赤い唇をより真っ赤にしていた。
何処に行っていたのかと問うと、艶やかに微笑んで答える。
今夜は、沢山船から海の中に落ちて来たからね。
ニンゲンの魂を喰らいに行ったの。
陸にいるのを誘って奪うよりも簡単でいい。
一番由良を可愛がってくれている、せな姉様が言う。
――由良はまだ子供だから連れて行かないよ。
子供じゃなくなったら、一緒に行かなきゃいけないの?魂を食べて来た後の姉様たちは、何だか怖い。
あんな風になるのが怖い。
(……せな姉様。元気かな)
由良は、海の底にいた頃の夢から覚めた。
隣で布団が動く気配。
由良の上に、瑞基の影が落ちる。そっと手を取られ、指に口づけられた。
(…?何してるんだ)
手を握ったまま、暫く反応を見ているようだった。
瑞基はずっと朝から様子がおかしかった。
この行動もそれと関係あるのかも知れない。
わざわざ寝ているかを確認されるなら、こちらは寝たふりをして様子を伺うことにする。
「……行ってきます」
小さく囁いて、瑞基は蚊帳の外に出て行った。すぐに由良も起き上がる。
(甘く見るなよ)
暗闇でも、由良には瑞基がいる方向を感じることが出来た。彼の首に付けたしるし―― それを頼りに、謂わば『匂いの道』を辿って、追いかける。
途中で、何処に向かっているのかが判った。
赤い鳥居の岩。
由良達人魚が、よく目印などに利用していた場所だ。
人魚は夜目がきく。
鳥居に近付くにつれ、何人も姉達が海中に集まっているのが見えてきた。
そして、背の高い瑞基の影も。
(よかった。みつけた)
姉達の中でも、瑞基の一番近くにいるのは――。
せなだった。
彼女は、由良が瑞基の住む街に行こうとしている時、誰よりも反対していた。最後まで納得はしていなかったと思う。そんな彼女が瑞基の側にいるとは、嫌な予感しかしない。
昼間おかしかったのも、彼女が暗示をかけたせいだったのかも知れない。
ようやく会話が聴こえる距離のところまで来ると、せなの声がまず耳に飛び込んできた。
「生き餌に、なってもらいたいの」
赤い唇の両端を吊り上げて、せなが瑞基に腕を伸ばした。
「ゆらのことを考えれば、私たちの所に戻って来た方がいいと思うでしょう?」
このままだと、せなが瑞基を捕まえて。
喰らってしまう。
由良は多分、生涯で一番の大声を振り絞った。
「思わない!」
いきなり由良が割って入ったことで驚いて、せなの動きが止まる。
「ゆら!」
どこか懐かしむような響きを含んだ呼び方。
別離から七年。せなの姿は全く変わっていないように見えた。
「由良、どうしてここが……」
「忘れたのか?」
自らの鎖骨あたりを人差し指でとんとん、と示す。
「瑞基の匂いを辿って来た」
「ああ……」
瑞基は納得したような、がっかりしたような顔になった。
由良は、せなを見据えて、「ゆらのことを考えれば」の言葉に反論した。勝手に本人がいないところで決めつけないで貰いたい。
「同じくらいで寿命が来るなら、願ったり叶ったりだ。母さんも、父さんが死んだら真夏に父さんの墓の前で融けて消えるつもりだって言ってたし」
むしろ、瑞基がいなくなってからもずっと生きることなど、想像しただけでもおかしくなりそうだ。
本人には絶対に言わないが。
「ここを出るときは、あんまり子供で、はっきりと理由をまとめて言えなかった。だから今、改めて言うよ」
由良は、瑞基の手をぎゅっと握って、姉達を見回した。
「もう、海には戻らない」
コメント
1件
わあ…第16話、読み終わりました。由良が「もう、海には戻らない」って宣言したところ、すごく響きました。本人がいないところで決めつけられたくない、っていう気持ちもわかるし、瑞基と一緒に生きる覚悟がちゃんと伝わってきました。せな姉の「生き餌に」って台詞も、淡々としてて逆に怖かったです…。このふたり、どうなっていくんだろう。続きが気になります🌙