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#幻想郷入り物語
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51
「あの……恐れながら聖皇后陛下、本当にこちらを頂いて宜しいのでしょうか?」
子供たちの間を縫うようにやって来たマルファンに、カレンはもちろんと即答した。
向き合ったマルファンに、リュリュは籠からラッピングした試作品を取り出して渡す。彼はうやうやしく受け取ったかと思えば、目をまん丸にした。
「……これはこれは……すごいです」
「うん、ちょっと頑張ったの」
「さようでございますか。本当にこれは……すごい、すごいです。ところで、これは食べれるのですか?」
「当たり前じゃない。っていうか、子供達が食べてるの見てたよね?」
「え?アレが、コレですか!?」
「そう。アレをラッピングしたらコレになるの」
「すごいです……本当に素晴らしいです。すごいとしか言いようがありません」
試作品を両手で持ち上げて、右に左に首を動かしながらマルファンは絶賛する。
頑張ったら頑張った分だけ褒めてもらえると、また頑張ろうと思える。けれど過剰に褒められるのはちょっとどうかなと思う。
それに今日は、褒められるために来たわけじゃない。目的は別にある。
「なんか聞くまでもないような気がするけど……気に入ってくれました?これ」
「ええ!そりゃあ、もう!こんな芸術的な菓子を目にするのは初めてでございます」
「それちょっと、大袈裟過ぎ……まぁ、いっか。とにかく良かった。じゃあ、これを今度のバザーに出してもいいかな?」
「はい、それはもちろん……え?ええっ!?バザーにですか!?」
ぎょっとしたマルファンは、顔色をなくしてよろめいた。
その驚きたるや、護衛騎士たちが何事かと視線を向けるほどで、カレンは自分の提案が通らないかもと不安になる。
「駄目かな?」
「あ、や……いえ……あの」
「食材のこととか、ラッピングの材料とかは心配しないで。こっちでなんとかするから」
「いえ……や、あ……その……」
「無理そう?」
力になりたい。断られたくない。バザーをどうしても成功させたい。
そんな気持ちから、カレンはあえて強い口調でマルファンに尋ねる。オロオロしていた彼は、今度は泣きそうな顔になった。
「そんな……そんなっ、滅相もございません!……ただ」
強く否定してくれてホッとしたけれど、尻すぼみになってしまったその後が気になる。
「条件付きってことなら言って。できる限り合わせるから」
「とでもありません!そうではなく……」
「なくぅ?」
「恐れ多すぎて、そのような慈悲をこんな孤児院が受け取っていいものかわかりかねまして……」
叱られた子供のような表情を浮かべるマルファンは、別に悪いことなんて言っていない。なのに今にも厄災が降ってきそうな怯えを見せている。
どうしてそんな顔を……と、カレンはそこまで考えて自分が聖皇后だったことを思い出す。
(そっか。この人にとったら私がここに来ることは仕事の一つで、気を掛けて貰えるわけがないと思い込んでいるんだ)
確かに孤児院はここだけじゃない。それに、孤児院が生活を維持することすら厳しい状況になったのは、これまでずっと支援の手が届かなかったから。
それなのに、今頃になって手伝いたいと言われたら、警戒するのも無理はない。ましてその相手が、聖皇后なら、伸ばされた手を掴むのに相当な勇気が必要なのだろう。
そこまで考えて、カレンは申し訳ない気持ちが芽生える。ただこの罪悪感は、誰に向けてのものなのかわからない。
お母さんに?冬馬に?冬馬のお父さんに?……それとも孤児院の子供達に?院長であるマルファンに?
わかることといえば、この孤児院を救いたいと奮闘するのは、心が小休止を求めていたから。そして、参加できなかった文化祭の真似事をしたかったから。
大の大人をこんなにも困らせているというのに、我ながら酷い理由だ。もちろん声に出して言ったりしない。誰も得をしないから。
でも、ここで心の小休止をしたくなった理由を伝えるくらいは、マルファンを傷付けることはないだろう。
「私ね、ここが好きなの。無くなってほしくないの」
──私が元の世界に戻っても、ずっとずっとあり続けてほしい。
最後の言葉は声に出していないはずなのに、マルファンは信じられないようなものを見る目を向ける。
「マルファンさん、これじゃあ納得する理由にはならないかな?」
顔色を伺うような口調になってしまった自分に、マルファンは是とも否とも言わずその場に膝を付いた。
「ありがとうございます」
「うん」
うなじが見えるほど深く頭を下げたマルファンは、自分が頷いたと同時に顔を上げた。
「これ以上無いほどの名誉を与えて下さり光栄です。聖皇后陛下に深い感謝を」
「いいよ、そんなの。それよりも、さ」
中途半端に言葉を止めたカレンは、マルファンに「立って」と命じながら、リュリュが腕に下げている籠から紙の束を取り出した。
「これ、子供達が食べてくれたフルーツ飴のレシピ」
「……レシピでございますか」
「そう。バザーまで日数がないから、これ見ながら頑張って覚えてね」
ぐいっと、レシピを書いた紙を押し付けた途端、マルファンにピキリと固まった。
その表情は「まさか自分が作るのか!?」とありありと語っている。
「さすがに、いきなり一人で作ってなんて言わないよ。私が作り方を見せるから」
こう言えばマルファンは安心してくれると思ったけれど、彼は虚ろな目で、はるか遠くを見るだけだった。
コメント
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うわ、第50話お疲れ様!冒頭のマルファンの「食べれるんですか?」からの大袈裟なリアクション、笑ったわ。でも聖皇后としての立場と、孤児院を救いたいって純粋な気持ちの葛藤がすごく伝わってきてじんわりきた。特に「ここが好きなの。無くなってほしくないの」って本音、めちゃくちゃ刺さった。レシピ押し付けられて固まるマルファンの顔も想像できるし、続き気になる〜🔥