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しばらく時間を置いて会場に戻ると、パーティーが始まり出した。
「皆様。本日はREIジュエリーの創立20周年記念パーティーにお越しくださいまして誠にありがとうございます」
社長が前のステージに立って挨拶を始めるのを会場の後ろからしばらく眺める。
「私はこのブランドを立ち上げる際、ずっと夢だったこの世界でこれから生きて行けることにとても希望を抱いておりました。ですが、最初はなかなかうまく行かず理想どおりの道を歩めない日々が続きました。それと同時に私事で乗り越えなければいけない試練や現実が立ちはだかり、正直その当時はこの夢を諦めそうになりました」
社長が静かに想いを語り始めると、会場全体も聞き入るように見守っている。
オレは一番後ろでずっとその言葉を聞きながら今までのことを思い出す。
REIジュエリーの社長として、ずっと頑張って来たこと。
ずっと夢を諦めず追い続けて叶えたこと。
女性として、デザイナーとして、経営者として、誰よりも輝いていている人。
オレにとってずっと自慢で憧れの母親。
「そんな時、私の夢に力を与えてくれる存在が背中を押してくれました。それからは私自身諦めず夢を叶えるために、まずは自分自身が自信を持ち輝いていないといけないと思い、作品を新たに作り始めました。それからは皆さんもご存知の通り、今となっては皆様に長年愛されるブランドになりました」
母親として、デザイナーとして、社長として、ずっとオレに唯一光を与え続けてくれた人。
「そして今は私のように、たくさんの女性の皆様に自分に自信を持って更に輝いてもらいたいという想いと共にこのジュエリーを届けています。どうぞこれからも皆様の輝きのお手伝いをさせて頂けましたら幸いです。今後もREIジュエリーをどうぞよろしくお願い致します」
そう。
透子に出会うまで、ずっとその存在すべてがオレの支えだった。
だけど、オレがそれまでずっとどんな女性にも本気になれなかったのは・・・。
きっとそんな母親を幸せに出来なかった父親の姿が、自分に重なってしまったのかもしれない。
幼い頃に離婚をした両親。
オレはずっと夢を追いかけている母親が大好きで、そばにいたくて、母親と一緒にいれることになった。
だけど、あっさり母親とオレを見放した父親。
夢を追いかける為、離婚した母親は楽しそうに夢を追いかけ頑張っている中で、時折寂しそうにしていたのを、未だに覚えている。
そして、決して父親を悪く言わない母親。
全部自分が悪いのだとかばう母親。
そんな母親を見て、オレは幼いながらに守ってあげたいと思う反面、気付けば自分も誰かに対してどんな風にすれば、一人の女性を幸せに出来るのかわからなくなっていた。
そんな状況になっても悪く言わない母親は、もしかしたらずっと父親のことを想っていたのかもしれない。
だけど、オレの前では一言もそんなことは口にはしなかった。
だからこそ、目の前で母親一人幸せに出来なかった父親と同じようになりそうで、誰かを自分が大切にするなんて想像出来なかった。
特にそれを意識していたワケではなかったけど。
だけど、今、離婚してずっと頑張り続けて来た母親の姿を見ていると、ふとそんなことを思い出してしまった。
よかった。
今はこんなに幸せそうで。
そしてそんな誰よりも自慢出来る母親のブランドを、透子も好きでいてくれた。
そんな母親に、透子も同じように憧れてくれていた。
それを知った時、ホントにすごく嬉しくて。
あんなに誰かを好きになる気持ちがわからなかったオレが、今こんなにも大切に想える人。
オレの知らないところで、母親が導いてくれていた奇跡。
オレはそれだけで幸せに思えた。
さっ、そろそろそんな奇跡のように大切な愛しい人の元に行くとするかな。
挨拶が落ち着いた頃、様子を見計らってまだ暗転してる会場内を移動し始めて、透子の元まで足を進める。
「透子」
ステージを見つめている透子の後ろ側から名前を呼んで声をかける。
「樹。どこ行ってたの?」
オレの声に気付いて振り返って答える透子。
「透子。一緒に来て」
「えっ?今まだパーティー始まったとこなのに、どこ行くの?」
「いいから」
不思議そうにしている透子をオレはそう言いながら手を取り、会場の後ろにある扉へと急ぐ。
「樹。ねぇ。ちょっとどこ行くの?」
会場の人混みをかき分けてどんどん進んで行くオレに透子がまだ不思議そうに声をかけてくる。
「えっ?パーティーは?」
会場の外へ出て、更に今の状況が把握出来てなさそうに尋ねて来る透子。
「もう透子の用事終わったでしょ?」
「用時って何もしてないよ?」
「社長と話出来たでしょ?」
「あぁ。それは、うん。そうだけど」
「このパーティーは透子が社長と会って話してもらうの目的だったから」
「えっ?そうなの?」
「そうだよ。オレいない方がちゃんと話せたでしょ?」
「えっ?それでいなくなったの?わざと?」
「まぁ。二人で話せた方が透子嬉しいかなと思って」
「あぁ。うん。それは。いろいろ二人だから話せて嬉しかったけど・・」
「なら、よかった」
オレも二人で話してくれることが嬉しかったから。
今日のこのパーティーの前に社長でもある母親に、オレがずっと大切に想っているパートナーを連れて行くと伝えておいた。
そしてその人がこのジュエリーを大切に思ってくれてることも。
透子も、母親も、直接その想いを感じ合ってほしかった。