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赤井、もとい昴は運転席から笑う。「ごめんよ、蘭さん」
「べつにっ。練習ですから仕方ないですよっ…」蘭はふん!と首を振った。
ちくしょ…と前をコナンは見るとすでに見られていて、びく、と肩を跳ねさせた。
「きれいだったから思わず。僕も本気で教えてしまってね、コナンくん…」
くぅ!とコナンは喉を鳴らした。
「そうだね!」ふん!とコナンもそっぽを向く。
お、俺だってな……あれくらい……
蘭の最後のシーン。あれなんて言われたんだ、と。
「ありがとうございました」蘭は頭を車から降りて下げる。
「また練習しようね…」ふ。という笑みが憎い。
「ふっ…」と車が走り去ると蘭が言った。「ふやぁあああーーーっ!!あ、あああーっ!」「ら、蘭ねえちゃん!?」
顔を覆い、ばたばたと足を踏み、わなわなする蘭。
「な…」
「新一!」コナンはびく、とする。顔は見えない。
「へ…?」
っ、ごめんなさい新一!わたし、わたし「きゃああああー!」顔をあげてわなわなする蘭に、コナンはがし、と蘭の足にしがみついた。
「っお、落ち着いてよ…!蘭ねえちゃんってば!」
僕にただーー…屈してくれ。
最後の台詞はそれだった。屈する、って……それってーー
「蘭ねえちゃんってばあっ!」
は!と蘭は揺らされて我に返る。「は、あは…」「大丈夫?」「たぶん…ご、ごめんね!」
とんとん、と階段をあがる。「ん?」
暗闇に誰か座っていて、コナンははっとした。誰かは顔をあげる。
「「追い出されたぁ?」」
蘭とコナンはテーブルの前に座る名前をみた。
「あ、安室さんに?」ちら、とコナンを見る蘭。
「なんか怒らせちゃったみたいで」
もじ、とする姿に蘭は赤くなる。
「だから行く場所がなくて…わたし…日本に来たばかりだから」
どこまで本当なんだ?とコナンは思うが、追い出された、というのは嘘にしては【過激】だなと思う。
「うちはいいですけど…お父さんもうべろんべろんで寝てたし」
あ、と蘭。「カレーしかないかも」「それは大丈夫」名前はすぐ口にする。「食欲も…なくて」
「安室さんひどくない?」こそ、と蘭はコナンに耳打つ。「あ、うん…」
ただの喧嘩……昼間の会話を思い出す。
いままでどこにいた…?
「僕…お風呂沸かすね」コナンは立ち上がった。
「名前さん」コンコン、というノックに名前は振り向く。コナンだった。
「僕たち、おじさんの部屋で寝るから」
「でもここ」
蘭の部屋を見回し、名前はまたコナンを見た。
「うん。でも、蘭ねえちゃんがひとりにしてあげようって」
見たでしょ?と蘭はシャワーの音を指差してコナンに言う。
あれは、泣いてたのよ。と。
名前はふ、と笑う。「優しいのね、蘭さん…」
透とはーーという声に、コナンははっとする。「違って…」
背中に髪の毛が流れた。
「名前さん、はさ…」
どこまで知ってるんだ。安室さんが背負うものを。
そして彼もまた……。
「…こんなにも」するする、と名前はからだを抱く。
震えている降谷の腕がまわったからだを。
あの日、初めて自分自身が……いとおしかった……。
「こんなにも、悲しくなることはもうないと思ってた……」
ロイの血が目に入る。視界が滲む。
「え?」
「コナンくん」
振り向いた目の色が、月明かりでエメラルドみたいに見えた。
「抱かせて…?」
ドクン。と身体中が脈打つ。「っ」「一緒に眠ってほしい。いいでしょ?」
あぁーーとコナンはどっと疲れる。
そうだよな。俺はいまーー「名前さ」柔らかい胸に埋まり、コナンは目を閉じる。「んっ…」ずりっ、とパジャマから顔をそむけた。
なんだよあれ……息できねー……「ごめん」と名前。かっ、と赤くなったのを感じてコナンは「なにが?」とぼけてみせた。
そのまま名前は蘭のベッドに寝転び、腕を伸ばす。
「きて」
コナンは物凄く罪悪感でいっぱいだった。これじゃ、これじゃまるでーー
すうっ、と名前は匂いを嗅ぐ。
「いいにおいね」
「え?」
「蘭ねえちゃん」ふ、とうつ伏せて肩越しに笑う。
ああ、安室さん、あんた……
そこまで思って、コナンはやめた。
もう寝ちまおう。と。
名前にまた抱かれる。彼女の胸元からは、甘いミルクのような匂いがする。
「名前さん…」
「ん…?」
「いつも…こうして眠ってるの?」
「そうよ」と名前が言って、背中に力がこもる。
「彼を抱いてるのは…わたしなのよ、コナンくん。私じゃないーー」
もちろん、裸だけど。と付け加えられて、コナンは言い聞かせた。なにも考えるな、と。
「よく眠れるわ」
「ならよかっ…」
「ちがう」
名前はコナンを見下ろした。「よく眠れるのは、あなたよ。コナンくん」
男はね、と囁く声に意識が遠くなる。
苦しいほど、それは柔らかい。まるで、まるで真綿に包まれているように、からだの力が抜けていく。
安室さん、あんた……コナンは瞼を閉じた。
あんた、もう、この女から逃げられないよーー…と。
「風見刑事…」とパソコンを叩く横から言われ、目だけ向けた。「あの…」と言いづらそうな刑事に、たん、とエンターを押す。
「20603…か?」
刑事はなにも言わない。またキーボードを動かす。
「【解放】したのですか?降谷さん」
「それを知ってどうなる」
カタカタと室内はキーボードの音しか聞こえない。本当に威圧感しかない。この部屋は、と。
あの任以来、風見はスミスにも、降谷にも会っていない。し、連絡も2人ともつかない。
嫌な予感はしないし、ただ待つだけだ。と。「…余計なことを考えるな。我々はただ、待つ。それだけだろ」
「で、でもっ…風見刑事……あのあとぶっ倒れたあとーーずっと…」ちらちら、と周囲を確認した刑事に、ふと指を止める。
「そばにいたのは……あの【協力者】です…」
風見は再び、重い指を動かす。
「じゅっ、16時間近くですよ?風見刑事……眠っていたんです」
「おい」止めるように言う。「やりすぎですよ、降谷さん……それなのに、なにも連絡もないし…」「彼は正しい」
そうでなくちゃ、耐えられない。
「集中しろ」刑事を見ずに風見は言った。
動き出したコピー機に行くため立ち上がる。「忙しくなるぞ」
てっぺんを心から信じなければ、と風見は防衛省、というマークを見る。
「戦争なんぞ……できないーー」
ばあん!と目暮はデスクを叩き、床をみていた所轄の刑事らは肩を縮めた。
「なんという失態をやらかしたんだ!君たちはぁっ……!」
「っも…」
目暮は申し訳ありません、も待たない。
「外の刑事と頭取のspがいたからよかったが、全員警備の我々含む、店内全員ぶっ倒れているなんてあり得るか!!」
いったい何をしていたというんだ!
目暮はついに立ち上がる。椅子が倒れた。
「ですが警部ーーっ」
「過去にももしもはないんだ!」佐藤ははっと息を飲んだ。また勢いよく頭を下げるしかない。「くっ…」「だったら!だったら…!」警部ははぁっ、と苦しそうに座る。
「マトリの彼らは死んでない……!そうだろう!」
座る幽霊が見える。雨とーー
「ですが私たち店内の刑事はっ…」
「あぁーー」警部は頷く。「調べたはずだ!怪しい人物の出入りはない、出される食事さえーー」
「ですが私たちは実際!」佐藤はかぶせるが、腰は曲げたまま。
自分たちでまず口にした食事を再び口にしている。意識が混濁するようなそんなことはあり得なかったーーだが「実際に、何者かが関わったのは事実なんです…!」
もう絞るようにしか言えない。
間違いない、わたしは証拠だ。たしかに幽霊に銃口を向けた……!
「…っ!」床に目を向ける。
ああ、見える、あの男が振り向いて、向こう側へ歩き出すのが……絶対に、絶対にあの女と公安が関わっていてつながっているーー!
「公安は別の指揮系統だーー国を動かすふたりの元にいても、何もおかしな点はない!」
「警部!!」
嫌だ!と言わんばかりの佐藤に、高木は唇を噛む。
全員しらみつぶしに取り調べたが、皆突然意識がないとだけで前後の記憶が曖昧だ。監視カメラにもーー佐藤がいうーー幽霊はいなかった。
当たり前だ。幽霊なんだ……
「上はかんかんだぞ!防衛省の幹部まで気絶させてーー何者かが関わった!?証拠はどこにある!」ばん!と再びデスクは揺れる。
「店内すべて全鑑識を動員させて調べた!何もなかった……!!そうだろう!?」
我々警察はーー
「証拠がなければ……」
緊急ニュース、とテレビの上に出た音がした。
佐藤は警部のデスクからテレビをひっくり返す。
防衛省幹部らが辞任ーー「会合中の警備に当たった警察官らが気絶していては、我々の顔がない」と責任問題を求め、
午後18時よりーー警視庁は官房長官の緊急会見を開く……
がたがた、と高木はよろけた。
はあー、はあ!と佐藤が肩で息をするのがわかる。
「あぁ…」白鳥は思ったが言わない。
歴史が動くときは、いつも恐ろしいほど静かだし、血が流れる。
「なんてことを……」警部はもう、画面を直視しない。
「国捕りを始めるつもり……公安部…都合のいいようにっ……」
ぎり、とテレビを握りしめると、画面は虹色に歪んだ。
「官房長官と防衛省幹部には【親交】があるんだ……」きっ!と佐藤は警部を睨み付ける。
親交?お互いがお互いを裏切らない、という握手だろうが!
「……きみたちは」首を切るしぐさをする。「…責任は私がとる」「警部!!」
「佐藤さんーー!!」飛び出して行った彼女を高木は追った。
「あっ!」佐藤は声を出した。歩いてくる、ぞろぞろした足音の真ん中にカツカツ近づいていく。
佐藤は廊下の真ん中で動かなかった。
「…どいてくれないか」
風見は上を向いたが、目だけは佐藤から離さない。
この男がーー…こいつらが……!
「佐藤さん!!」ぱん!という音に高木はそのまま止まった。
風見が飛んできた佐藤の腕を顔の横で掴んだ音だった。
「痩せたわね…風見刑事……」
ずり、と風見の手から時計が動く。
「…どけと言っている」
「いやよーー!」
ぐぐ、と掴む手に力こもり、しばらくふたりは睨み合う。
誰も動かず、誰も息をしなかった。
「ここから動けば、あなたたちはまた!違法に!何事もなかったようにする!」
「それのなにがいけない?」
「!?」佐藤は動揺したのを隠したくて、手を振りほどいた。
「気高さなどなくて構わないーー真実など、砂嵐の中では見つめられない」
君にはあるのか?
「国民ひとりのために、国を動かす力がーー…」
「ないわ!それでもっ、それでもっ、わたしたちは必ずたどり着かなければならないーー!」
佐藤は腕を払うしぐさをまたして、風見を下から見上げる。「それがわたしたち……」
刑事の、魂の根元じゃないのーー…!?風見刑事ーー…!
「なぜーーなぜわたしたち刑事がいがみ合うのよ…!」
「…やめろ」あぁ、面倒だ。と言いたげな風見に、泣くな。と付け加えられ佐藤はぐうっ、と喉を鳴らし耐える。屈辱的だった。
「泣いてもわめいても……どんなに憎まれても……我々公安は、いや。我々公安が、国を守るーーその為にならば、どんな役にもなるーーこの国に生きる者すべてに……」
「佐藤さん!もうーーっ…!」高木に腕を引かれ、壁によろける。
「敬意を払う」
はっ!と佐藤は目を見開いた。風見をみたら、涙が散る。不覚だった。
人殺しの証拠をーー捏造しておいて…
ずり、と壁に落ちた佐藤が目をかきむしる勢いで隠したので、高木はもう目を閉じてしまった。
「くっそおぉおおっーー…!!」
風見にも、それは背中越しに聞こえていた。
風見は電話をかける。出てなぜか、驚いてしまうが続けた。
「降谷さんーー指示はすべて。後は会見後の動きを……」
なにも聞こえないので、風見は画面をみた。つながっているよな?
「い…」
「は?」風見はまた耳にスマホを強く当てる。
「あぁ…風見……よく…わからない……」ふっ、と息がかかるのがわかる。
「……酔ってるんだ…………」
金遣いの荒いやつーー!
かかっていた音楽で目を半分くらい開ける。なんだか見え方が変だな。と手からグラスがコロコロ転がっていく。
ああ、そうかソファから落ちてるのか、とぼーっとする。天井が見える。
どんな格好でひっくり返っているんだかも、よくわからない。
「あ……」首を横にしたあとずる、と肩をもってくる。
目が悪いとこんな見え方なんだな、風見。と眼鏡をしている相手を思い出す。
曲が変わった。誰だっけ……こいつ…
べちゃ、べちゃ、と顔に嫌なものがついても、払えない。たぶん自分が吐いた跡だ。
「うう」ずりずりと頭を後ろに引きずると、髪にそれが巻き付いた。気持ち悪いとかそれよりーー
頭を振り回す。あちこちぶつかりながらキッチン【らしき】ところに置いてある瓶を傾けた。
お前は危険なところで遊び回ってーー
「んっ…」首から流れ出すーー熱くて
ただの本当にアルコールの味に、まずくてそのまま吹いた。
がたがた、とそのまま倒れる。いろんな引き出しが開いて降谷に降ってきた。
家族も友人も犠牲にしたよなあーー…
どこへいく?ムショじゃない。
消えるだけなのさ、お前と違って…
「は…あぁ……」焦点が合わない。なんだ?誰かいるのか?わからない。誰でもよかった。
ゆっくり弾が貫通するのが見える。右肩、左肩ーー脇腹ーーすね……
がば、と口が開いて血が溢れだす。
1滴ずつ見える。
「風見ーー!」はああー!と胸をのけぞらせて降谷は目を開けた。
「うっえぇっ…」びちゃびちゃした黄色い液体に咳き込む。
「や…」ずり、と降谷は後ずさる。山盛りの捜査官。皆目を開けたまま。
降谷はよじのぼる。行かなければ……そうでなくちゃ、なぜお前たちが死んだのかわからない。
栄光のためにーーいい人生をね。
曲は変わっていた。
「風見!あぁ、いま、いまっ…」
「ふ、るやさ…」
もう
「当たり前だ!お前は、おま……」
すーっ、とからだの後ろから白い腕がまわってくる。「もし、ここに…」カチャ、と自分の手から音がする。「1発しか…弾がないなら……」
「あっ!」風見の上にある足元を掴む。
レディーー君は兵器か?それともーー
「運命が…変わるなら……」
あなたはそれを、どうする?ゼロ……
指が滑る。その山から落ちていく。レディがみている。
あぁ、どこまで落ちても背中に地面がないーー
そうか、そうだよな……
ないんだ。何も。君が兵器でも、女でも俺には何もーー選べない……
だが。と。弾の1発なら……自分に向けられる……と。
「わっ!」風見は驚いて開けたドアをまた閉めた。「ちょっと」スミスが言うのでまたちょっと開ける。
「なんだ!はだっ…」風見は小さく強く言う。裸で!と。
ベッドの上で降谷を抱き締めているスミスが、その頭の向こうから言う。
ぐわ、と降谷の力が抜けてこちらを逆さまに見た。目は合わない。腕がだら、とする。いびきがして、風見はドアを顔をしかめて開けた。
「寝てる間にもこいつゲロ吐くの。仰向けにしておけないの、死ぬじゃない」
「ーーああっ!」
もう!風見はシーツをずっ!と引きスミスの胸元にあげてから、「う」と頬を膨らます降谷に「んぎゃっ!」慌てて頭を下にした。
スミスは遠い目をした風見に、吹き出してしまう。「脱がないからよ。早く洗ってきたら」「脱ぐ?」ひく、と風見が嫌そうにするので、「それよりゲロ片付けたいわけ?」とスミスがベッドから出てきそうになるので、ばっと風見は先に降りてどすどす廊下を行った「うわぎゃああっ…」
そんなに派手に行ったから、廊下にあるやつも踏んだらしい。
「こいつスワローかしら」
スミスが言うシャツを羽織った背中をちら、と見てからパソコンをまた叩く。
すぅ、すぅ、と聞こえる寝息に、落ち着いたのか。と思う。
「【燕】?」
「あぁ、そうじゃなくて」ぶんぶん手を振るスミス。
「スワローは乱交するやつ、って意味。燕は生涯でたくさんの相手と交尾するから……」
風見は振り向かず、手元からミルクをぐい、と飲んで音を立てて置いた。
「だとしても、俺には関係ない。降谷さんの性的志向なんぞ…」
「だってこのベッド、クイーンくらいない?なんでひとりで寝てるのにそんなデカイのがいるの」
ふう、と風見はギイと背もたれによりかかった。
「どうでもいい」
「わたしねぇ、風見」
はっ!とした風見の肩にスミスが手を置いて囁く。「男がねーーデスクに張り付いてるの、大好き」がらっ、と椅子の車輪を動かして風見はスミスから離れる。
「寄るな」
「かーー」
ば、と指を指す。「寄、る、な。と言ってるんだーー」
「なんでかわかる?」スミスはふ、と笑って前髪を垂らす。
「嫌な予感がするし、当たるんだよ」風見は素直に顎を引いた。「ほら」とスミスは顎でさした。「そうやって深く椅子に腰かけて、肘つきに肘を構えて…」
ふふっ!とスミスが爪を噛む。わざとらしい仕草に風見は「いっーー」怖くてのけぞった。
「わたしたち人間のすることはいつも無垢だと知ってる…?」
一瞬でスミスは椅子に片ひざを乗せてきていた。顔を押さえられ、耳を上にされ囁かれる。「【権力】に敵わないと知りたいの」「権力だと?」寝ている降谷が寝返りを打つ。
「同じ理由で…運転してる男も、すき」
「だからなんだ」風見はひとつずつ言う。「でも」ぐっ、と顔を覗きこまれて目を開いた。「結局それに屈するのはあなたたち、男なのーー…」
「ふぅんっーー」ギッ、とベッドが鳴って、スミスは風見の大きな手に口を塞がれてのけぞった。くしゅ!とシーツを握る。「(あまり声をだすんじゃない!)」
あぁ、もう夢でありますように。
隣で眠るーー…
冗談じゃないんだ。
ぷく、と膨らんだ箇所を見つけてずり、と人差し指を動かす。「(ーー!……!)」スミスが足をばたばたさせる。
「よせーー!とっとと……!」強く囁く。とっとと、イッちまえーー!
「あ、んっあ…あぁっーー!」
ぴちゃ、と顔に何かかかった。ぴちゃ、ぴちゃぴちゃ…と小さな噴出音と共にスミスがぐぐ、と力を入れる。
くた、とすべての力が抜けたとき、風見は手首まで濡れていた。
「…気は済んだか」はあっ、と息をつき、降谷を見た。目が合った。ニコ。と笑う。
「かなり」
「っふ、」がた、と風見はデスクにまで下がる。
「…いやらしい夢を見た気がするな」
「えぇ…」スミスは顔を赤らめたまま、胸元から起き上がってくる。
「うなされるほどの……ね」
はら、と目に前髪が下がった。
「よっ」と勢いをつけて起き上がってくる降谷に、「大丈夫ですか…?」尋ねた風見が手を後ろに隠す。追及されたらなんて言うか、ずらずら言い訳を考えたがうまくいかない。
秘密つくりましょうよ、風見刑事……【権力】には……内緒で……
男女の秘密は、守られる。なぜなら、男女関係は密室だからだ。
誰も……入れないし、出られない。
今頃恐ろしくなる。この女、いったい今まで何人のやつに取り憑いてきた?
「ごめん。記憶ないんだ」あいたた、と頭を押さえる。「でもなんか色々やらかした?かい?」ふたりを交互に見て、スミスはシーツを胸元まで引き上げる。
「見てくれば?」顎をくい、と廊下にやる。
廊下から「うわ、ああっ…!踏み、あーっ!」という声にふたりは揃ってぷふ、と笑った。内緒だが。
「歯ブラシ」とぱたぱたする声に、風見はがっ、とスミスに近づいた。「すべて夢で通せよ」「なんで?」「俺はまだ死にたくないし、餓死もピアノもごめんだし!なにより言われたことは守った!」と指差される。珍しい。赤くもならず。ぐぐ!と胸元を人差し指で押されてびっくりした。
「よく眠ってた」
「は」
「あんなに激しくむさぼるみたいに眠ってーー」
あの男になにされたの、風見。
言うな、ということ?スミスは風見を見上げる。
「殺されかけた?」
「あはは…」ぱた、とドアが閉まり入る降谷が水差しで水を持っているのが気になるが、ふれない。「すごい気持ち悪くなるな、あんなに飲んだら」「あなたにはロシアの度数40度より」ぱた、とスミスはまた寝転がる。「マトリョーシカがいい」
ふふっ!と笑う降谷に、風見はデスクから離れた。なんだーー
「なぁ、3人で…秘密、作ろう……」
す、と差し出された手のひらに錠剤が3つ。「コカイン」聞く前に言われ、さっと風見は血の気が引く。
そんなものどこでーーあぁ、別になんでも手に入るけどーー…【うち】は。
「風見」とスミス。「あなた入院したことある?」「は?あるにはあるが」「どんな病気で?」とスミスは顎を引く。「どんなって…」ガタ、とまた壁を鳴らす。「腸炎とか…だが……」
「なら大丈夫」く、とスミスは1錠飲むので、「あーーおいっ、ふーー」またあの男を見る。
「そう、死ぬ薬じゃないんだ。ただ…」
気持ちいいだけ。
降谷とスミスの声が揃う。「飲ましてやろうか?」と簡単に飲んでしまう降谷に言われぶんぶん首を振る。
「わたしのだんな様をあまりいじめないでよ」スミスは1錠を見つめる刑事を見て、降谷に言う。「あなたを介抱したのもわたし。心配でやってきた腹心の協力者……」
なぜ?とスミスは素直に言う。「あなたが気に入らないのはわたしたちじゃないのよね」
「その話はもういい」本当にしたくない。降谷は首を振る。く、と顎を風見にやった。「何が目的?あなた、わたしの薬物耐性を調べたいなら失敗よ。薬漬けには慣れてるからね」
ひく、と降谷は唇を動かした。「1錠じゃなんともないわ。自分の首を絞めたわね、ゼロ……」
ちゃんとイかせてくれるーー
「でも…」ぐ、と風見の額に額をつける。こわい?と囁くスミスに、ごく、と唾を飲んだのがわからないといい。
「大丈夫よ」
「…お前の大丈夫は大丈夫じゃない」
「本当に」ふふ。と首に手をまわすと、ドアから降谷が腕を組んだのが見える。
さっさとしろ、といった感じだった。
ぐい、と降谷に見えない位置に風見の頭をやる。
むしろあんなに大量にアルコールを摂取して、コカしてるほうが危ない。
どうなるかわたしも検討がつかないわよ、と囁く。
「なら……」
むぐ、っと言う風見に水を流し込む。
はやく。
はげしく。
夢中になって。「げほっーー!」「終わらせてーー」
目の前に光がちらちらする。「あ…」「君の名前は?」パチン!と耳で音がしてレディは目を見開いた。はあーっ!と息を吸う。「やだ、やだぁあっ」「お母さん!」はっ!とベッドに顎を乗せてしゃがみこむーー悪魔にーーレディはがたがたしたが、手足が。動かない。
「君の名前は?ん?」
「ス、ミス…」空気しか漏れない。
「ん!」ガチャ、と首輪を捕まれ、ざあっと潮が引くように血が引く。
ああ、怒らせたかもしれない、この…
ボロボロと涙が溢れたが、拭ってくれる人はいないし、拭えない。
「名前だ!名前と!?あぁ!?」
「れ、レディ!レディ…」がたがたしながら叫ぶ。がっ、と唾が大量に溢れた。
「わ、わたしはーーレディ!レディ・スミス……っえ、げほっ…海兵隊員のーーそ…そうさかんです……!せ、先導も…」
誰かを追うこともしないぃっーー!
「エドワード」白衣が言う。「この娘だけ…意識がきちんとあり」肩をすくめる。「標語まで」「あぁ、まるで小さな…」
海兵さんだ…す、と頭を撫でられ、レディは心臓を掴まれた気になる。
「もう1本」
「やーー」ガチャ、と首が鳴り何もできない。「や、エドワード!やだーー」
「ですが…これ以上は」
「やれ。薬物で拷問されたら、人間はひとたまりもない。慣れさせろ」白衣は頷く。ああ、いやだ。いやだいやだーー
点滴の液体が動き出す。
からだをーーまっぷたつにするような痛みがーー
ぎぎぎぎ、とベッドが前に動くほど、レディは目の前に起き上がってくる。唇を噛みすぎて、血が両端から流れ続ける。
白衣を目で捉えると、後ずさった。
だれか……ばた、と倒れる。どこもかしこも痛い。きっと血が出てる、そうだ、手当てしなくちゃ……そうしなくちゃ。
混濁する意識の中でそう口走る。誰の名前も、いない。
「君はーー誰だい?」
「エ、ド、ぉ…」
彼に手を伸ばす。握ってくれるわけもないのに。
「誰だい?」しゅん!とナイフが出た音がする。すぐわかった。あぁ、言わないと。名前を……。なまえ……?
「わ、わ、た……しは……」ぶっ!と鉄の味が溢れる。
わたしって?なに?それ。
「エドワード、心拍が下がっています」
「別にいい。君のーー」
なまえは?
出てきた降谷の顔に、スミスは少し目を下に動かす。「んん!あっ…」
中に感じた精液に、少し自分も顔をあげる。
なんて顔してんの、だんな様……
とろり、と溶けそうな顔を向けて、スミスの胸元にくて、とかしげるように置く。指を鳴らす。だめだ、そろそろ。
「……効きすぎじゃない?」
「ちがう」という降谷も、だいぶ顔が赤いし、寝ないようにしてるのがわかる。
わかる。最初は眠る直前のような、足元がふわふわしたただの心地よさしかない。
「【出し】すぎだ」
「風見」呼んでも「ふふ…」へら、としか反応しない。
腸炎なんかで入院したって、いいとこ生理食塩水しか打たれない。あれは極論、塩と水だ。
「ほんとになんとも…ないね」胸を後ろからもみしだかれる。
「ないわ」スミスは首元にある降谷の頭に手をまわした。はあっ、とされた呼吸はほんとにアルコールの匂いしかしない。
「ちょっと風見、もう硬くしないで」
「レディ」
はっ、とする。する、と足で押して風見をからだから離した。
「苦しい」
「あそこが?」
「ちがう」
苦痛なんだよ……
絞るような声にスミスは黙って、中から溢れてくる精液を見た。
「…麻薬のトレンドはね、零ーーいまやもう、快楽を味わうだけじゃない」
【死】に、なったの……
「ああ……知ってるよ……」
風見のおかげでするーっ、と入っていくペニスに、ふたりとも同じ顔をした。
「……いいとこ中毒になるだけだった」
「だがーー」
「だから、それはーー」
解放してほしいことの現れ……
「あぁーーレディ」
ぐわ、と降谷に倒され、隣に眠る風見の顔があり、ちらと見た。
「お、ねがいだから……」
僕をーー
「零」
はっ、と古谷は目を開いた。「いいわ」スミスは頷く。手を伸ばす。
「あなたの魂はわたしが連れていく」
「レーー」
わたしは……苦痛と安寧を……もたらす…
がっ!と腰に足がまわり、ぐぐ、と勝手に奥まで入るそれに、「んぐっ……」痛い。「レディ、やめ、悪かっーー」まだ奥にいれたくなる本能に気付いて、「ああっーー!」怖くなる。
怖い。苦痛なほどの快楽が。
「コントロールしないで」スミスが囁く。背中にまわる腕に、同じようにしがみついた。腰が止められない。
「怖くない、怖くないからーーただーー零っーーわたしにーーわたしにいっ!」
あああ!とスミスがびくびく痙攣する。
わたしに屈して。零……!
本能と理性の間にいるのがわかる。そうか、こうやって君は、君たち女は……
「ぐっ…ふうううっーー」
同じようにびくびくした降谷に、スミスはしがみついたままだった。
ちぎれそうなくらいお互いに力が入っていた。
「あ……」つ、と涙が一筋つたったのがわかり、降谷は顔をスミスの首に埋める。見られたくなかった。
「うっ…ふ……っーー」
「大丈夫よ」ふー、とスミスは言う。
「あんまり気持ちいいと人間って泣くしかないから。コカの反応だから……」
ふるふると首を振られ、「零?」スミスは頭に手をやる。
降谷には本当に恐ろしかった。
彼女は……「ならまだ…」「れ」「よかったのにな……」
だって、そうじゃないかーーこんなに彼女にしがみついてーー懇願している。
その1発の弾が、撃たれたら……
きみに、スミス。当たったら。
僕はそれでも、君をーー離さない。君が兵器で、爆発しても。
#二次創作