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時々珍妙な雰囲気になりながら、ピアーニャ一行は空中を進んでいく。
しかし行けども行けども枝葉ばかり。
「そういえば、この木って、幹はどこにあるの? 中心の根から伸びてるなら、どこかにでっかいのがあると思うけど」
枝葉を眺めていたミューゼが、ネマーチェオンの生態について気になってきたのか、木として必ず存在する筈の幹を探し始めた。
葉柄(枝と葉の間にある細い部分の事)ですら家を置けそうな幅があり、枝はさらに大きな屋敷を敷地ごと置ける程太い。枝の分かれ目であれば小さな町程度の広さがあるかもしれない。それを考えるだけで、幹の太さはもはや壁にしか見えない筈と、想像に難くない。
「根かラ伸びテいる幹は、根を中心ニ渦を巻いテ広がっていマす。コこかラ一番近い場所でアれば、あチらの方向に1000日程進ンだ場所に見えますヨ」
「せんっ……なんかキョリカンがおかしくなりそうだ……」
わざわざ雲の進行速度で計算してくれるキュロゼーラには感謝したいが、教えてくれる距離が膨大な為、複雑な気持ちになるピアーニャ。それ程離れていれば、例え障害物が無くても空にしか見えないだろう。霞んでいても目に見える距離であれば、躊躇なく向かうのだが。
「いつか幹を見てみたいものねー」
「じみちにテンイのトウを、おくしかないな……」
他のリージョンと同じく、転移の塔を使って行き来出来るようにするのは、最初から決定事項である。その為に来たのだから。しかし、キュロゼーラから言いたい事があるようだ。
「塔の設置は構ワないのですガ、ミューゼさんノ魔法デ作った方が良いデすよ」
「え゛っ?」
「なぜだ?」
仕事が大幅に増える予感がして、ミューゼの顔が凄い事になっている。
「異物はネマーチェオンに養分トして吸収されてシまいます。石でもなんでモ」
「そりゃまたやりにくいな」
キュロゼーラによると、ネマーチェオンは他の物を時間をかけて吸収するという。それが異界の物質であろうと、自身から剥がれた葉や皮であろうと、全てである。
だからこそ、ミューゼの魔法でネマーチェオンの枝を増やす感じで建築すると良い、というアドバイスをした。
「なにその『自分以外の存在はゆるさーん』みたいな木……」
「と言ってモ、そノ場に留まっていル物の吸収ガ始まルまで数十日、ヒト1人なら200日程かケてじっくりユっくり吸収しマす」
『例えが怖いよ!』
自分が養分化するのを想像してしまい、またまた恐怖に満ちる雲の上。石すら吸収されると聞いて、ラッチも大いに震えている。
「あ、停止さえしテいれば生きてイても吸収ハ出来るのデ、ご安心くダさい」
「それは完全に不安要素でしょ!?」
「えっ、生きていてもアウトなの!?」
「おちつけオマエら。うごいていればモンダイないっていってるんだ。しかもスウジュウニチな」
とはいえ、やっている事は生きたままの捕食なので、想像すると怖くなる。その証拠に、ピアーニャの顔も少し引きつっている。
この後、テンションが下がったまま探索を続けたが、特に新しい事は何も見つからず、最初の拠点に帰る事になるのだった。
「いやー、本っ当に何も無いね、このリージョン」
「ひろさのせいもあるな。ファナリアでもマチどうしのあいだは、ナニもないからな」
「つまりこのリージョンで何か探すなら、もっと探索範囲を広げないと、ちょっと違う葉っぱすらみつからないって事ですね」
「あの動物っぽい葉っぱが近くにあっただけでも奇跡だったのよ」
「もう絶望的なくらい、誤差!って感じですねー」
1日の探索では結果がほとんど無く、小屋の中でダラけていたりする
小屋の外でも、何の成果も無いシーカー達が、ボヤキながら休んでいる。夜は夜で調べる事は多いのだが、暗いと危険な上に、昼の状態をしっかり把握しないと、変化があっても分からないのだ。
「つまリ、皆さんはコのネマーチェオンで特異点を探していルというわけでスか?」
「うーん、それもあるのだが、キホンはなんでもしりたい。ただ、キとハしかないから、ほかにナニかないと、メジルシにもならなくてな……」
「……ミューゼ、理解してなかったの?」
「ぅえっ? あたし!?」
「だって、キュロゼーラってミューゼの記憶で動いてるんだし、ミューゼの知っている事をそのまま知っているって事なんじゃ」
「うっ……」
ピアーニャからの鋭い視線を感じ、ミューゼが即座にあさっての方向を向く。勉強不足ではあるが、ミューゼはまだ新人なので、深く追求する事はしないようだ。
「いまのうちに、オマエたちゼンインに、カダイでもだすか」
『え~……』
どちらかと言うと、要点をしっかり教えていないと思われるパフィ達先輩側に問題があると判断。パフィとムームーが顔をしかめ、よく分かっていないシーカー見習いのラッチは首を傾げるのだった。
「ソトのやつらぜんいんにも、ぬきうちでカダイだしてやるか。おーいバルドルー」
他の罪の無いシーカー達も、ついでに巻き込まれる事になった。ご愁傷様である。
そんな感じで総長と組合長以外が凹む中、アリエッタは真剣な顔で悩んでいた。
(小さい『れいく』がいっぱい。種族名が『きゅろぜーら』らしいというのは分かった。ここはそういう植物系人種の世界なんだろう。となると……)
アリエッタはマンドレイクちゃんの事を、『れいく』という名前で認識している。そしてパフィによる説明で、キュロゼーラの事も理解した。
手に入れた情報を自分の中でしっかり整理し、今の自分に出来る事を模索する。中身だけが大人なアリエッタが、ミューゼ達の為に出来る最善を尽くし、女神としての彩の力で、みんなを助けるのだ。そのせいでピアーニャやネフテリアが頭を抱える事を、少女はまだ知らない。
「ん」(大事な物がある。全員分……は無いか。むーむーの分は仕方ない。1人でいいか。なんか大事な話してそうだし)
そう考えて、シーカー達の話の邪魔にならないよう、コッソリと立ち上がり、そして……しばらくした後、ミューゼがアリエッタの不在に気づいた。
「……あ、あれ? アリエッタは?」
「へ? いないのよ!?」
「なにぃっ!?」
大きくない小屋の中で、出口は1つ。いくら話に集中していても、外に行こうとする姿は見逃しようが無い。ここにはピアーニャやバルドルもいるし、外には女性シーカー達も変質者対策に固まっている。
しかし、小屋から出られる場所は、今は出口だけではない。
「って、こっちにもドアがあったんだった! アリエッタ! アリエッター!」
アリエッタの描いた開きっぱなしのドアである。先程までくぐる事すら出来なかったのだが、アリエッタが姿を消すとしたら、このドアしかあり得ない。
「まさかアリエッタが、このドアをどこかにつないだってコトか?」
「だと思うのよ。追うしか無いのよ」
ドアの中は光っていて、向こう側がどうなっているのか、くぐるまで分からない。少しの躊躇いの後、アリエッタを探す為にパフィが飛び込もうとした、その時だった。
「ぱひー?」
ドアの向こうからアリエッタが顔を出した。
「うわ可愛いのよ…じゃなかった、どこ行ってたのよアリエッタ。大丈夫なのよ?」
(……心配させちゃったかな? やっぱり一緒に来てもらうべきだったかな)「ごめんさない……だいじょうぶ」
迂闊な行動を反省したアリエッタがその姿を現した。
『……なんで?』
全員が呆けた顔で同じ疑問を口にした。
「それって、ノエラさんが作ってた……服?」
原因はアリエッタの恰好である。
「なんでマンドレイクちゃんのスタガなんだよっ!」
バルドルがなんとかツッコミを絞り出した。それもその筈、リージョンシーカーのニーニル支部で散々見せられていた『マンドレイクちゃん』、その着ぐるみを着ているのだ。
「この服は、マンドレイクちゃんを気に入ったのか、アリエッタが描いちゃって。それでノエラさんが悪ノリして作ってたんですけど……」
「なんでだよ……」
巨大なニンジンの着ぐるみは、まだお披露目していない。リリにバレたら何やらされるか分からないという事で、ネフテリアが封印していたのである。
「んしょ……みゅーぜ、ぱひー、ぴあーにゃ、らっち」
『えっ……』
その着ぐるみを、引き摺ってきた袋の中から取り出し、4人に手渡した。ミューゼ達は無意識で受け取ったが、理解が追い付かない。
これを着ろと?……という疑問はもちろんだが、それ以上に気になる事があるのだ。
「これって、家に置いてきたハズ…なのよ?」
「うん、物置に……」
「まさかっ!」
その信じられない疑問を確かめるべく、ピアーニャ達が一斉にドアに殺到した。
ファナリア、ニーニルの町にあるミューゼの家の裏。
ミューゼの家とエルトフェリアを繋ぐ渡り廊下の隣にある小屋の前で、ネフテリアが茫然としながら佇んでいた。
「え、アリエッタちゃん? このドア……あれぇ? ちょっとまってぇ……」
先程アリエッタが突然やってきて、『れいく! ふく! みんな!』と叫び倒して、マンドレイクちゃんの服の事を指していると気付き、封印した場所である新しい物置へとやってきた。
ここにはミューゼ達の部屋に入りきらない服を、大切に保管している。しかも凄い勢いで増えていくので、早くも増築予定である。
アリエッタが何をしようとしているかは分からないが、質問が通じない以上、言う通りにして反応を見るしかない。そして着ぐるみを渡すと満足そうにうなずいて、お礼を言ってからドアを覗き、中へと入っていった。少し色の薄い幻のようなドアの中へ。
理解が追い付かず停止していたネフテリアがなんとか復活し、アリエッタを追って確かめようとしたその時、ドアの光の中から6つの顔が突然にょきっと浮かんできた!
「っぎゃああああああ!?」
「やっぱりファナリアだああああああ!!」
「テリア様ああああ!?」
「どうなってんだよこれわあああああ!!」
いきなり恐ろしい物を見たネフテリアが叫ぶ。
何処に出たのか確認したピアーニャが叫ぶ。
目の前にいる人物に驚いてミューゼが叫ぶ。
訳が分からないバルドルが叫ぶ。
そして、何事かと見に来たノエラが、この後追加で叫ぶのだった。