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13話 「夜の宿の小騒動」
村の宿は二階建ての木造で、暖炉の火が心地よい温もりを与えてくれる。
夕食を終え、俺とミリアは椅子に腰掛けて旅の疲れをほぐしていた。
ルーラはテーブルの端で小さな編み物をしている。
妙に器用な手つきだ。
その時、玄関の方で怒鳴り声が響いた。
「誰か、俺の財布を盗んだな!」
顔を真っ赤にした商人風の男が宿に飛び込んできた。
周囲の客もざわめき、宿の主人が必死になだめている。
「……ややこしいことになりそうだな」
「行くの?」
「こういう時に動かないと、後で面倒が増える」
事情を聞くと、男は夕食前に財布を部屋に置き、そのまま食堂に来たらしい。
部屋に戻ると、金貨入りの財布が消えていたという。
ミリアと手分けして廊下や窓の様子を見て回る。
その間、ルーラは何やら静かに廊下の床を見つめていた。
「どうした?」
「……これ」
彼女が指差したのは、小さな泥の足跡だった。
しかも人間のものではなく、小動物のものに近い。
足跡をたどっていくと、裏口の木箱の隙間に、小さな茶色い影が隠れていた。
捕まえてみれば、それは村の子どもが飼っているフェレットだった。
首輪の袋から、問題の財布がぽろりと出てくる。
「……まさか動物が犯人とは」
商人は苦笑し、財布を受け取って謝罪してきた。
宿の空気も少しずつ元通りに戻っていく。
その夜、寝る前にルーラがぽつりと言った。
「……気づかない人が多い。だから、私が見る」
それが何を意味しているのか、俺はまだ深くは聞かなかった。
ただ、暖炉の火のように、少しずつ彼女の存在がこの日常に溶け込んでいくのを感じていた。