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14話 「帰り道の寄り道」
翌朝、俺たちは村を後にした。
依頼の荷馬車はすでに荷下ろしを終えており、帰りは徒歩だ。
空は快晴で、鳥のさえずりと麦畑のざわめきが耳に心地よい。
「王都に戻ったら、まず何をする?」
「昼寝」
「……せめて依頼の報告が先でしょ」
ミリアの呆れ声に笑いながら歩く。
ルーラは静かに俺たちの後ろをついてきて、時折足元の草花を摘んでいた。
昼過ぎ、森の入り口に差し掛かった時だった。
道端で老人が腰を下ろし、何やら困った顔をしている。
「どうしました?」
「いやぁ……薬草を採りに来たんじゃが、森の奥に変な獣がおっての」
事情を聞くと、老人は村の薬師で、森の奥にしかない草を取りに行こうとしていたらしい。
それなら、と俺たちは荷物を預かり、代わりに薬草を採ってくることにした。
森の中は薄暗く、湿った土の匂いが濃い。
しばらく進むと、確かに「変な獣」が現れた。
体高は大人の腰ほど、熊とイノシシを足したような魔物だ。
鼻息荒く突進してくるが――。
「よっと」
俺は槍の石突で地面を叩き、跳ね上がった土で魔物の視界を奪う。
ミリアが横から剣で牽制し、その隙に俺が柄で首筋を叩きつける。
魔物は呻き声を上げ、よろよろと森の奥へ退いていった。
薬草を摘み終えて森を出ると、老人は深く礼をしてくれた。
「王都に行くなら、これを持っていきなされ」
差し出されたのは、小さな革袋に入った不思議な香草だった。
老人曰く「害獣避け」らしいが、何かそれ以上の用途がありそうな気もする。
その日の夕暮れ、俺たちは王都の城壁を遠くに望みながら歩き続けた。
穏やかな日常の中に、ほんの小さな違和感が混ざり始めている――そんな感覚が胸に残っていた。