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🖤💙*〜 花明かりの君〜
午前8時、朝の支度中
遠く離れた故郷にいる恋しい人から写真が届いた
向こうは夜も深まった午前1時くらいのはずだ
開いて確認してみれば、夜空の下で満開に咲く桜の写真だった
『今、桜見てるの?』
『うん、人がいない公園見つけた
1本だけだけど背が低めだから、桜に包まれてるみたい』
『それはすごく綺麗そうだね』
『映してやろうか?』
『いいの?』
返事の代わりに通話画面が表示される
画面いっぱいに桜が映る
こちらは映すものもないからインカメだ
「見える?」
「うん、見える。綺麗だね」
「だろ?」
声の調子で嬉しそうに笑うところが想像できる
その顔がすごく見たい
「ねぇ?」
「うん?」
「翔太くんの顔も見たい」
「えぇ〜、すっぴんなんだけどぉ〜」
「翔太くんはすっぴんでも綺麗でしょう」
「お前…………ほんと、そういうことさらっと言うよな」
「ほんとのことだから。ね、いいでしょ?」
「わかったよ……」
翔太くんが操作している間に、こっそりと画面録画のボタンを押す
一瞬、画面が暗くなった後、インカメに切り替わって、眩い白肌を輝かせる想い人の顔が映る
ビデオ通話なんて普段はしないから、なんだかんだと日本を出た振りの対面だ
満開の桜たちがレフ板代わりになっているのか、翔太くんの周りはほんのりと明るく照らされている
花明かりの中、優美で儚げな雰囲気を纏う翔太くんが柔らかく笑う
少し照れてるのを隠すようにちょいちょいと前髪を直している
そんな様が愛らしい
「……よ、久しぶり」
「うん、顔見るのは久しぶりだね
………翔太くん、桜に照らされてるみたい」
「確かに、なんか夜の桜の下ってちょっと明るいよな
公園自体はそんなに明るいところでもないんだけどな」
そう言って辺りをくるくると見渡す
時折少し風が吹くのか、後ろで花びらがひらひらと舞っている
(花の妖精みたい)
「翔太くん」
「んー?なにー?」
きゅるんとした瞳に少し上がった口角で、よく手入れさせた肌を輝かせながら画面越しに目が合う
「本当に、綺麗だよ」
「っな…っ………………ありがと」
反論しかけて、それでも何かを思い直したのか、素直にお礼が返ってくる
「お前も」
「うん?」
「元気そうでよかった」
「うん」
優しく笑いかけられて、心がきゅっと締め付けられる
「あぁー、今ものすごく抱きしめたい」
「ふは笑 来れるもんなら来てみろよ
そしたら、抱きしめられてやらないこともない」
「なにそれ笑」
ちょっと強がりを言う、そんなところに可愛さが詰まっている
「あ、人来た。そろそろ帰らなきゃ」
外していたマスクをつけて帽子を深めに被る
「ありがとうね、桜見せてくれて」
「ううん、じゃあな」
「切っちゃうの?電話しながら帰ろうよ」
「お前、仕事大丈夫なの?」
「まだ時間あるから」
「じゃあ、画面は切るぞ」
「うん」
ひらひらと手を振る翔太くんから通話画面に切り替わる
近況の話なんかをしながら、翔太くんが家に着くまで電話した
久々に聞いた耳触りのいい滑らかな声が、愛しさと寂しさを募らせる
それでもその日は満たされた気持ちで仕事ができた
こっそり撮った数分間の動画
花明かりの中で笑う君を見て、俺は今日も仕事に向かう
あれから雨も降って、だいぶ散ってしまったと聞いたけれど、俺の心の中は君の笑顔で満開だ
コメント
9件

抱きしめられてやらないこともない 😭😭😭😭🤯🤯🤯🤯💙💙 好きなセリフに追加です!
素敵なお話😊😊
