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私が言い切るとティニは、軽蔑するように睨みつけてくる。
「ええ、リエンはチタニーの言うことも、私の言うことも信じないものね」
「そういうことじゃ…」
私は何も言えなかった。この話を信じるか否かではないんだ。私が言いたいことは、そういうことではない。
「信じるとかではなくて…」
ティニは私の言葉に覆い被さるように、割り込んでくる。
「ねえ、何か勘違いしてるでしょ」
ティニは怒っていた。いつものような不満でいっぱいの余裕のない表情。私は彼女の口から、自分の嫌味が吐かれると分かっていた。
しかしティニは、私の先読みに気付いたのか、大きなため息を吐く。まるでそれは、彼女自身が気持ちにブレーキをかけたようにも思えた。
「いい?私だって、貴方を言い負かしたり、チタニーのせいにしたいわけじゃないの。ただ、区別が必要なの」
私は、彼女の真意を探るように見つめる。この一瞬に心を許せば、ティニの嫌味は鋭利な刃物となる。だから私は、それを悟られないように静かに言葉を聞いていた。
「リエン、貴方が子供と大人を分けるように、被害者と加害者に分けているだけなの。何もかも同じ土俵というわけにはいかないのよ」
ティニは襟首を掴んだ手を緩める。彼女の強がりが、言葉の壁が解けるように思えた。でも私は沈黙を守った。
そんな私を見て、ティニは緊張でもしているのか息を飲み込む。今の私はとても冷たい表情をしていると、自分でも分かっていた。
しかし、彼女は言葉を続ける。
「区別するのは何のため?理解するためでしょ。全てが分からないままで、誰が納得できるの」
ティニは人を区別している。だから、彼女は嫌な言葉を心に刺していく時がある。でもそれは、異端者に故郷を奪われた悲しみから、彼女が探し出した答えだった。闇雲に叫んだり、嘆いたりするのではなく、異端者の行動を彼女なりに認めて生きるための努力なのだ。異端者へ燃やす復讐心よりも、彼女は自分を相手を区別したのだ。今の言葉は、彼女自身の心の声なのかもしれない。私は黙って、彼女の言葉を受け入れる。
「このままチタニーを普通の子供として考えたままで、貴方の失われた記憶はいつか戻ってくるの?」
それは彼女の言葉通りだった。
「考えたくない未来なのは分かるわよ。でも、私とチタニーの言う事は信じて欲しいの。悪いけど、これはチタニーがしたことなの」
ティニは真剣だった。けれど、彼女の言葉を受けても尚、私の心への負債や責務が晴れることはなかった。チタニーが私を利用した。それは既に事実なのだと、本当は理解していたからかもしれない。
「分かった。君の言う通りに考えてみようか」
力無く吐いた言葉を受け取るように、ティニは私の手をとる。
「そういうことでいいのかな、チタニー?」
私はティニに隠れていた小さな彼女の答えを待った。
地面へ俯かれていた瞳が私を見つけた時、彼女は首を縦にする。ただ、それが私には悲しかった。