「そういうことでいいのかな、チタニー?」
私はティニに隠れていた小さな彼女の答えを待った。
地面へ俯かれていた瞳が私を見つけた時、彼女は首を縦にする。ただ、それが私には悲しかった。
ティニの言うことも、チタニーのしたことも理解している。事実上、避けては通れなかった不思議な彼女の力。見ようとしなかったというのもあるが、気付かないままで、事実じゃないままでいたかった。
幼い彼女に自身の罪を露呈させたようで、心が苦しかった。彼女もまた、辛い顔をしていたから。
「でも、それが分かったところでどうしようもないんだけどね…」
「どういうことかしら?」
私は写真を指さして説明をする。
「私の罪はそれが証拠だ。彼らを殺したのは私であって、それ以外のことは黒服の人達には関係の無いことなんだよ」
私の言葉は沈黙が包み込んだ。今までの会話など初めからなかったような静けさ、そう、いくら言葉を重ねて真相を探しても、これだけは動かないものなんだ。写真には、私が松明を持ち、なぎ払う姿が写っている。
チタニーは私を見つめている。彼女にはきっと 私がこれからどうしていくのか、どうなっていくのか。全てお見通しなのだろう。私は心密かに呟いた。
「さっき、森でも襲われたんだ。今回は助けがあったけど次いつ、どこで襲われるか分からないから」
だから、私は覚悟を決めないといけない。
「助けって何かしら?」
何も知らないティニは、不安な顔で私を見つめる。
「それがよく分からないんだ。黒服達の仲間だと思っていた人が助けてくれたんだ」
あれは一体、なんだったのか。裏切りなのか、手助けなのか。彼の目的が分からなかった。
「でも…一度目があるならまた次だって助けてくれるかもしれないわ。そうよね、チタニー?」
ティ二と私は彼女の言葉を待った。しかし、言葉を返したのは彼女ではなかった。
「そんな不確かで淡い期待を持つから、人は神に見捨てられるんじゃないですかね」
彼はその場にいた。
「ドル…」
思わず口にしていた彼の名。けれど、私と彼の目が交わることは無い。
「ティニ。少し僕と来てくれませんか」
ドルはティニに向かって話す。
「どうしたのよドル。私を呼ぶなんて珍しいじゃない」
ティ二は困惑しているようだった。
「そんな。僕はそんなに君と話すことを避けていましたか?」
「ううん、避けてたとかじゃないけど…」
ティニは私を見つめたかと思うと、彼に悟られぬよう言葉を続けた。
「ほら、ドルはいつも妹さんにご執心みたいだったから…」
彼女の言葉を聞くと、彼は笑った。
「なんだ、そんなことか。大丈夫ですよ、それは以前までの話で結構だ」
彼の言葉に誰も口を挟むものも、笑うものも、相槌すら打つものもいなかった。彼は、自分だけ笑い終えたと気付くとため息をついた。
「そんな、気まずい反応は辞めてください。君達が気遣ってくれているのは分かりますが、それが僕にとっては意味の無いものです」
私は何もいえなかった。彼にとって意味の無いこと。それが私には分からなかったから。
「気を遣うのは当たり前よ。人を大事に思う気持ちを、誰も笑いものにはしないわ」
ティニは彼の言葉を包み込むようだった。私も出来れば、彼に思うことを伝えたい。なにも意味の無い気持ちなんてないと。それは、私自身が彼を止めた理由を伝えたいからのような気がした。
「それは干渉なんですよ。どうせ君たちは僕ではないから、絶対に気持ちなんて分かるはずがない。だから、僕が不要だというものにいらぬ労力はさかないで下さい」
彼は真剣な目をしていた。そうだ、彼はまだ怒っているのだ。ドルが避けているのも、私を許せないからではないか。だから、こんなにも踏み込ませないという強い意思に私は口をつぐんでしまう。
「まさか、そんな事を語るために私を呼びに来たわけじゃないんでしょ?」
ティニはドルの気迫に負けることなく、言葉を続ける。
「ええ、もちろんです。ですが今のは冗談みたいなものですよ。といっても、無駄な事をしましたね」
彼は振り返りざま、私を見た気がした。その目には何の感情も写っていなかった。それに少しでも怒りが見えていれば、私は変な期待を持たなかったかもしれないに……。
「ティニ。行きましょうか」
彼の目が、私の事を受け入れているような気がして…。
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