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桃said
正直に言うと、
最近の紫と赤は、ちょっと変だ。
でもそれを「おかしい」と口に出すほどじゃない。
ただ——少し、息が詰まる。
俺は最年長だから、自然と家のことをやっている。
二人は放っておくと色々忘れるし。
それが当たり前だった。
紫が冷蔵庫の中身を勝手に整理して、
赤が俺の予定を先に把握していることも。
「助かるな」って思ってた。
最初は。
ーーーー
ある日、仕事で帰りが少し遅くなった。
帰ると、部屋の電気が全部ついていた。
紫:おかえり。
赤:遅かったな。
声は普通。
でも、視線が刺さる。
桃:ごめん、ちょっと話し込んで。
紫:誰と?
桃:え?ああ、同僚。
赤:男?女?
俺は一瞬、言葉に詰まる。
桃:……そこまで聞く?
紫は笑った。
紫:心配しただけ。
赤:桃は無防備だから。
その言い方が、少しだけ怖かった。
それから、遅くなる日は必ず連絡が来る。
「今どこ?」
「何時に帰る?」
「迎えに行こうか?」
断ると、空気が重くなる。
だから最近は、早く帰る。
——三人でいるほうが、楽だから。
ーーーー
俺のスマホは、いつの間にか二人に筒抜けだった。
赤:通知切れてたから、設定戻しといた。
紫:危ないし。
桃:……勝手に?
紫:だめだった?
責める声じゃない。
ただ、逃げ道を塞ぐ声。
桃:……助かる。
そう言った自分に、後から少し嫌気がさした。
ーーーー
夜は、三人で同じ部屋。
紫:真ん中、空いてるよ。
赤:そこが一番安全。
桃:また?
赤:嫌?
一瞬でも躊躇すると、
二人の視線が鋭くなる。
桃:……いや。
布団に入ると、
左右から体温が迫ってくる。
近い。
逃げられない距離。
紫が俺の髪を撫でる。
紫:桃はさ。
紫:俺たちがいないとだめだよ。
桃:……そんなことないよ。
赤:ある。
即答だった。
赤:自覚ないだけ。
胸が、きゅっと縮む。
桃:二人とも、大げさだって。
紫:大げさでもいい。
紫:失うより。
その言葉が、頭に残った。
——失う?
最近、外で誰かと話すと、
罪悪感を覚える。
「早く帰らなきゃ」
「心配させるかも」
それに気づいたとき、少し怖くなった。
桃: 「(……俺、こんなだったっけ)」
ーーーー
ある夜、思い切って言った。
桃:なあ。
桃:俺、一人の時間も欲しい。
赤の動きが止まる。
紫は、ゆっくり息を吸った。
紫:どうして?
桃:いや……普通に。
赤:俺たちといるの、嫌?
桃:そうじゃなくて——
紫:じゃあ、必要だよね。
言葉が、噛み合わない。
桃:……必要だけど。
紫:ならいい。
それで話は終わった。
——終わらされた。
その日から、
「一人」が存在しなくなった。
外出は必ずどちらかが一緒。
予定は共有。
帰宅時間は管理。
赤:守ってるだけ。
紫:愛情だよ。
そう言われると、
否定するのが怖くなる。
最近、考えることが減った。
「どうしたい?」より先に、
「こうしよう」が出てくる。
楽だ。
怖いくらいに。
桃:……二人が決めてくれるなら。
紫の目が、嬉しそうに細くなる。
紫:うん。
紫:そのほうがいい。
赤:桃は、考えすぎるから。
ーーーー
ある夜、紫が聞いた。
紫:桃。
紫:俺たちがいなくなったら、どうする?
胸がざわつく。
でも、答えが出ない。
桃:……わからない。
赤は、満足そうに頷いた。
赤:それでいい。
その瞬間、
「一人で生きる自分」が
頭からすっと抜け落ちた。
布団の中。
俺は二人に挟まれて、天井を見る。
近い。
重い。
でも、温かい。
桃: 「(……ただの同居人、だよな)」
紫:大丈夫。
紫:俺たちが全部やる。
赤:桃は、ここにいればいい。
逃げたい気持ちは、
「三人でいられなくなる恐怖」に上書きされる。
——それだけは、嫌だった。
俺は目を閉じる。
今日も、
考えるのをやめる。
三人でいるために。
,,,,Thank you for reading,,,,
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