サイド ルネ
その日はとても暑かった。なのに天気は悪くて白銀の雲が空を覆っていた。蒸し暑い。
「……なんでこの暑さでパーカー着てるの?」
「え、赤いパーカーって、カッコ良くね?!」
聞いた俺が馬鹿だった。
「ルネこそ制服じゃねぇか。私服は?」
「べつに要らないかなって。必要性を感じないし」
「よくない!!」
俺が反論する暇もなく、ダイチは俺を服屋に引っ張り込まれた。
「うーん、ルネはなんでもいけそうだな。比較的シンプルなここら辺の……」
ダイチが次々に服を選んだから、あっという間にカゴの中に服の山が出来た。ざっと見十着以上はありそうだった。
これは面倒なことになりかねない。
「これでいいよ」
俺は慌ててカゴの上にあったオレンジ色のTシャツと黒いハーフパンツのセットを取った。
「えー!そんなんでいいのか?どうせならパーっと全部買えよ!」
ダイチはカゴを指差す。
「全部って……いくらすると思ってんのさ」
「ヴグッ」
ダイチは財布の中を見て必死に計算しているようだった。いくらやっても結果が変わることはないのに、ねぇ?
「はぁ……じゃあ、一着選んでよ。そのかわり今日一日付き合うからさ」
「マジ?!んじゃその服買ってさっさと遊ぼうぜ!!」
変わり身が早い。そして、さっきのは“選んだ”うちに入るのか?
ツッコミたいことはいろいろあった。けど、レジに向かって走るダイチを追いかけるので精一杯だった。
「あ、タグ切ってください!コイツ、直ぐ着たいそうなので!!」
「そんなこと、一言も言ってない!あ、すみません、うるさくて……」
結局、俺は制服のままで一日遊び倒した。
「あー!楽しかったー!!」
「そりゃあんなに遊べばね……」
あの後、卓球やらエアホッケーやらリズムゲームやら……とにかくいろいろやった。遊び尽くした。
楽しかった。嫌なことを全部忘れられるくらいに真剣に遊んだよ。俺が心から笑えたのはこの日が最初で…………最後だった。
「これで天気が良ければなー」
そう言って笑うダイチの顔は、どことなく寂しそうだった。
そこで、ふと思い出した。
「そういえば、今日じゃなきゃいけない用事ってなんだったの?」
「あー、これ。昨日の夜完成したんだ」
そう言い、ダイチはパーカーのポケットから茶色の封筒を取り出した。
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