耳に聞こえてくる誰かの鼻歌。
聞いたことないメロディー。
なのにも関わらずどこか懐かしさを感じる。
鳥のさえずりを聴きながら起きる目覚めの良い朝のように心地良い雰囲気に囲まれながら無意識的に瞑っていた瞼を開く。
目の前には薄黄緑の景色が映った。
ド田舎出身の僕から見たら珍しいものでは無いけれど、見覚えのある景色では無かった。
「ここは…?」
日の光で温かくなっている地面に手を付き、
仰向けで寝ていた体を起き上がらせる。
目の前には真っ青な海というか水面というかが目に映った。
いや、違う。
これは水面じゃない。
近づけば近づくほど正体が明かされていく。
「確かこれって…ネモフィラ、?」
そう。
僕が真っ青な水面だと思っていたものは青い花、ネモフィラの花畑だった。
そんな時、また誰かの鼻歌が聞こえた。
少し遠くに誰かが舞い踊っているような姿が見え、恐る恐る近づいた。
そこには目を瞑りながら舞い踊る水色のスカートの少女が居た。
「君は────」
そんな声を漏らすが、少女の鼻歌に上書きされてしまう。
少女の水色のスカートが太陽に反射してキラキラ光っている。
まるでクラゲの傘のようで───
そう思っていると少女が舞い踊りながらネモフィラの花々に足を着いたと同時に次々と波紋が広がった。
その波紋は僕の足元にまで広がっては消えてを繰り返していた。
そして水面に変わったネモフィラの花々から、
いや地面からだろうか。
少女の足元から大小様々なクラゲが浮き出るように現れた。
少女は変わらず鼻歌を歌い、
スカートを舞い、
楽しげにスカートを揺らしている。
それに合わせてクラゲも踊っているかのように漂い、少女のスカートに映える傘をふわふわとさせていた。
それに見とれていると
「あ、こんにちは!!」
「私はミューエ!!あなたは…」
「里玖にぃね!!」
『里玖にぃ』なんで僕の名前を知っているんだろうか。
前に会ったことがあるとか?
いや、絶対に無い。
断言出来るほどこの少女は僕には知らぬ人間だった。
「君は…目が見えてないの、?」
ふと失礼と思いながらもそんなことを聞いてしまう。
「見えてるけど見えてないよ〜!!」
そう言いながら少女、
ミューエはクラゲの傘に乗り、
ふわふわと漂う。
ミューエのスカートとクラゲの傘が太陽で反射してキラキラ光り、僕の目に刺激を与えてくる。
「あ!言うの忘れてた…!!」
急にそんな声を上げるミューエ。
「里玖にぃがここに居る理由は使命を果たして貰うため!!」
「使命…?」
「里玖にぃの使命は『蝶』を集めること!!」
「それじゃあ、ばいばい!!」
そうミューエは僕に告げた後、僕の目の前から消えた。
辺りにはキラキラとした何かが散らばっていた。
まるで幻想の粉光が落ちてしまったかのように。
てか結局僕は何をすればいいんだっけ?
蝶を集めるって言ってたけど…
「どこに向かえばいいんだか…」
そう1人で頭を抱えていると急に後ろから引っ張られ、思わず尻もちを着いてしまう。
「何、誰…」
そんな苛立ちの声を零しながら振り返るとそこには狐と梟のような生き物が居た。
なのに僕の知っている姿ではなかった。
狐は全身が水で出来ているかのようで歩く度に水滴があっちゃこっちゃに飛び散る。
梟は体の下半分が幽霊のように仄かに消えていて、命を持った生物とは言えないような姿をしていた。
だが、梟もまた狐と同じように全身が水で出来ているかのような姿をしていた。
「ねぇ、君たち…」
「蝶の居場所って知ってる?」
「僕、蝶を集める使命みたいで…」
まさかと思いながらも水狐と水梟に話しかける。
が、水梟は首を傾げるのみだった。
頭が上下逆さまになってしまうほどに。
しかも水狐は鼻で笑うだけ。
水梟の方は良いとして水狐の態度は鼻につく。
腹立たしい。
「自分で探すしか無いか〜…」
そんな声と共に見知らぬ地を歩き始める。
ある程度歩いた時だろうか。
しばらく経ったそんな時に何やら鳥居のようなものが姿を顕にした。
鳥居には青々とした若葉が巻き付いており、
緑の匂いがする。
これは潜ることを促している鳥居なのか。
それとも入ったら結界が割れるとかそんなファンタジーな鳥居なのか。
色々な考察が頭を駆け巡って足は進めないでいると、ふとさっきまで隣にいた水梟と水狐の姿が見当たらないことに気がついた。
だが、すぐ見つけた。
水狐と水梟は鳥居の前にある2つの台座の上に座っていた。
よく神社で見るような狛犬の像のように。
そして同時に鳴いた。
たった1度だけ。
そんな鳴き声が僕の頭の中で響き渡る。
まるで歓迎しているように感じて、僕は鳥居を潜った。
気づいた時には僕は鳥居を潜ってある程度進んだ場所に居て。
目の前には葉っぱで遊んでいる男の子が居て。
「いーち、にーい、….ろく!」
急に数が飛んで六の数を声に出す男の子。
男の子は僕に気づきもせず、
ただ水面上に浮かぶ葉っぱを数えていた。
その葉っぱは2つしか無かったが、
男の子が『ろく!』と言ったと同時に葉っぱが従うようにして4つに増えるた。
つまり合計6つ。
そんな不思議な光景を僕は声を出すことも忘れてただ眺めていた。
コメント
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やっぱり表現とか全て上手ですね✨️流石こむぎさん💫💫★ 楽しみ〜〜〜っ(*˘︶˘*)