しばらくしてから男の子が僕に気づいた。
少しじっと見つめた後、
「ねぇねぇ!草笛作れる?」
と聞いてくる。
「草笛?」
『草笛』またの名を笹笛、葉笛。
名前の通り葉っぱで作る笛のこと。
昔では多くの人に知られていたのにも関わらず、今では知る人ぞ少ないという。
「草笛…作れないかな、僕は」
そう。
僕は知っているが、作れはしなかった。
そういえば昔、誰かと一緒に作ったような気がする。
でも何度記憶を巡り巡らせても思い出すことは出来なかった。
「じゃあ僕が教えてあげる!!」
しばらくしてから男の子はそんなことを言う。
「あ、でもその前に…」
「自己紹介しよ!」
そう言って僕の手を掴んできた。
「僕の名前は蒼葉!みどり遊びが好きで〜、███が好き!!」
元気そうな言葉に紛れてノイズ音が辺りに響き渡る。
「えっと…何が好きだって?」
「ん?みどり遊びと███だよ?」
不思議そうな顔をしながら答えてくるが、
やっぱり聞こえない。
「お兄ちゃんの名前は?」
そう聞かれ、反射的に
「佐葉 里玖」
と答える。
が、先程呼ばれた『お兄ちゃん』という単語が聞こえた時、何故か頭痛がした。
なぜ?
分からない。
でもなんだか『お兄ちゃん』という単語は何かが引っかかる。
そう自問自答と共に考え込んでいると
「じゃあ里玖にぃ!僕と一緒に『みどり遊び』しよ!!」
そう蒼葉くんが言ったと同時に辺りの景色は草原へと変わった。
いや、草原であるが草原じゃない。
花畑の場所もあれば、
若葉の木々が生えている。
でも先程の場所だと言えば先程の場所にも見える。
そんな不思議な感覚に包まれた。
「そういえば…みどり遊びって何?」
『みどり遊び』多分名前からして『草遊び』のことだろう。
「里玖にぃはしたことないの?」
「花冠作ったり草笛吹いたりとか!」
いや草遊びじゃん。
1人心の中でツッコミを入れる。
てか…
「なんで男なのに草遊びすんの?花冠作るのって女の子がすることじゃん」
「蒼葉くんって男の子でしょ?男ならサッカー遊びとかでしょ」
心で思ったことがそのまま口に出てしまう。
そんな僕の言葉を聞いた蒼葉くんは驚いたように目を丸くした。
「…好きなことしたらダメなの?」
震え声で少し俯いた蒼葉くんが聞いてくる。
「好きなことしちゃダメとかそういうんじゃなくて…」
「『男なのになんで女みたいなことするの?』っていう意味であって…」
男はカッコイイのが好きで、
青色が好きで、
それでいて女は可愛いのが好きで、
桃色が好き。
それが普通だと思う。
なのに今僕の目の前にいる蒼葉くんは男の子なのに女の子みたいな遊びを僕に誘ってる。
とても変なことだと思う。
「────僕は!」
急に蒼葉くんが声を荒らげ、
僕は驚いて蒼葉くんを見ると、
蒼葉くんの目は涙で潤んでいた。
「僕は…」
「可愛いのが好きだから……」
「否定されたら悲しいよ…」
「里玖にぃだって」
「今まで皆が皆、男の子は男の子らしくカッコイイものが好きで、女の子は女の子らしく可愛いものが好きだった?」
そう言いながら少しずつ僕に近づき、
距離を縮めてくる。
「男の子でも可愛いものが好きで、女の子でもカッコイイものが好きじゃなかった?」
分かった。
分かったから。
いいからそういう話はやめてくれ。
前にも聞いたことがあるような言葉。
声。
でも誰から聞いたのかは思い出せない。
「男の子でも女の子でも────」
「もう分かったってば!!」
蒼葉くんの声を遮り、大声を上げる。
自分でも驚くような声量。
そして我に返ったときにはもう遅かった。
蒼葉くんは怯えたような目を僕に向け、
一滴一滴と涙を流していた。
「ごめ───」
「…里玖にぃはそんな人だったんだね」
「見損なったよ」
「だから██████だよ」
そんな冷たい声とノイズ音が聞こえたと同時に蒼葉くんの姿は僕の前から消えた。
綺麗な若木の木々の景色、
草原の景色、
少しの花畑の景色も共に。
そして気づいたら僕は最初の青々とした若葉が巻き付いた鳥居の前に突っ立っていた。
相変わらず水梟と水狐は台座の上で動かない。
「は…」
「どういうこと…?」
そんな戸惑いの声を漏らしながら、
先程と同じように鳥居を潜る。
が、
見えない壁のようなものに阻まれ、
進めなくなっていた。
「ぇ…?」
もしかして僕が進むことを『拒絶』してるってこと…?
何か間違ったとか?
どれだ?
どれを間違った?
態度?
言葉?
僕はどれを間違った?
「ねぇ、僕はどれを間違ったの?」
「教えてよ…」
そう独り言のような呟きを吐きながら、
台座から動こうとしない水梟と水狐に言葉をかける。
が、石像のように反応を返してはくれなかった。
そんな時、僕の視界が若葉の舞う景色で埋め尽くされた。
木々なんて周りには無い。
あるのは石像のように動かない水梟と水狐。
それと…
青々とした若葉が巻き付いた鳥居のみ。
そんな不可思議な現象が起きたと同時に声が聞こえた気がした。
【里玖。】
たった一言、僕の名前を呼ぶ誰かの声。
そんな言葉、声を聞いた僕の心は謎の温かさに包まれた。
だが、
その︎︎︎︎温かさは心地よくて、
どこか懐かしくて。
涙が勝手に溢れてしまう。
そんな声だった。
必死に涙を止めようとしても涙は溢れ出るばかり。
思い出さなければいけない。
だけど思い出せない。
そんな苦痛の中、
僕の景色はずっと舞う若葉の景色で埋め尽くされているばかりだった。
コメント
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急に辛い展開で悲しい……(/_;) この後どうなるのかめっちゃ気になる‼️✨️✨️ こむぎさんの作品は いつも謎で、不思議で、凄く面白い🔥 こんな作品作れるの凄いなぁ〜〜……!!(*˘︶˘*)