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※さて、どこまで話したかな。そうそう、狂座が宇宙最強最悪の支配者になってから迄だったね。
――この宇宙に狂座の敵は、最早存在しなかった。愉しむ事が行動原理のノクティスにとって、現状は退屈でしかない。
ならばどうする? 現状に敵が居ないのなら、この宇宙を探すのではなく、世界自体を遡ればいい。
そこでノクティスが最も信頼し、彼の片腕にも足り、狂座の技術の要とも云える人物――『花修院 春樹』に、あるものを造らせた。
そう、狂座管理部門統括――コードネーム『霸屡』の事だ。以前は『ハル』と呼ばれていたがね。
ハルは稀少な特異点で在り、そして優秀な科学技術者でもあった。何より『新人類創成計画』に於いて、彼はプロジェクトチームの重鎮の一人であり、ノクティスを生み出した最も足る功労者だった。
ハルはノクティスの『生みの親』、と云っても差し支えない。だからだろうか、ノクティスはハルだけは特別視し、またハルも常にノクティスの傍らに居り、御互い確かな信頼関係で結ばれていた。
――かつて人類の夢であり、永遠の課題の一つであった『時を自在に行き来する』事。
ハルの持つ頭脳技術と、ノクティスの持つ能力により、それは現実のものとなった。
時空融離――時間そのものを逆行し、時を遡れる所謂『タイムマシン』と云う装置の開発と完成だ。
人類の到達点は、本当はこれだったのかも知れないね……。歴史が終わってより後に実現するとは、何とも皮肉なものだ。
さて――その『タイムマシン』での行き先だが、狂座が選んだのはやはり地球の過去。
過去を変え、歴史を修整するという訳じゃない。あくまでノクティスにとって重要なのは、愉しむ事。歯応えが無ければ、遡っても意味を為さない。
そこでノクティスが選んだのが、人類の有史以来、最も多くの――最も強力な特異点が密集していたとされる、現代で云えば四百年以上前の時代に於ける日本。それが狂座の目標地となった。
ノクティスの目的は二つ。一つは稀少な特異点を、出来る事なら自分の配下に置きたい事。
そしてもう一つが、それが叶わぬのなら、特異点との闘い自体を愉しむ事。
ノクティスにとっては、どちらに転んでも良かった。それ以外でも、歴史を暇潰しに淘汰するという愉しみも有る。
――現代より四百年前の日本と云えば、丁度戦国時代が終わり、泰平の世になった頃だね。
表の歴史には決して記される事は無いが、裏では狂座と特異点――それに肩を並べる人外なる者達の、熾烈な闘いが行われた。
それでもやはり、狂座の力は強大だった。
闘いに破れ、狂座の配下に納まった者。そのまま朽ち果てた者。特異点を筆頭とした人外達は、様々な末路を辿ったが、結果的にノクティスの思惑通りに事は運び、狂座の圧勝という結果に終わる。
狂座に――ノクティスにとって、この時代にもう用は無い。次なる時代にでも巡り行くのみ。
……の筈だったが、折角の時間逆行。どうせなら“暇潰し”の余興に、全てを無にしてから次へ移行するのも一興と考えたノクティスは、表の世にも食指を伸ばした。
結果どうなると思う?
もし、ノクティスの思惑通り、表の世に狂座が侵食していたのなら、今この世界自体が存在しない事になる。
今この世が存在しているという事はとどのつまり、四百年前に狂座の野望は潰えたという事だ。
未来で人類の歴史が終わり、過去でも人類の歴史が終われば、平行世界そのものが消失する事を意味する。
全てが終わる筈だった四百年前、狂座の野望を挫いた者が居た。
その者は現存した最後の特異点で在りながらも、まだ元服も迎えぬ少年に過ぎなかった。
つまり狂座は、このたった一人の少年の手により、事実上壊滅する事になったのだよ。
――その者と狂座の対決は苛烈を極め、両者の闘いは時空を超えて拡大していった。
特異点の少年は純粋な“生体”で在りながら、神を超える為に創られたノクティスと同様、臨界値『400%』超を自ら突破し、遂には狂座を――ノクティスを倒した。
神を超えた者を倒せるのは、同じ領域に在る者のみ。つまり四百年前に、既に人は神を超える事を実現していたのだ。
ノクティスはこの闘いで命を落とし、勝利した少年もまた、同時に命を落とした。
詰まる所、両者の闘いに本当の意味で勝者は居らず、結果共倒れという形で闘いは幕を閉じた。
これにより平行世界も終わる事無く、今尚も世は存在し続ける事になり、形としては『めでたしめでたし』という訳で現在に至る――。
――だが、それで話は終わらない。寧ろ始まりに過ぎなかった。
両者は確かに命を落とし、この世を去った。だが摂理を超えた存在である両者は、残留思念永久体として再びこの世に存在する事になる。今度は永遠の存在としてだ。
再び合間見えた両者は……闘わなかった。闘った所で無意味な事を理解していた。
それに両者は敵同士ではあったが、唯一無二というその領域に在る者しか理解出来ぬ、奇妙にして確かな絆というものを、御互い生前となる以前より抱いていた。
――また何時か、確実に訪れる未来での終焉。
その時まで御互い協力し、人間の根本を正しながら結末を見届けようと。違った未来になるのか、それとも……。
両者は手を取り合い、同じく彼等以外で唯一、残留思念永久体として再存在する事になったハルと共に、裏より表の世を正す――新成『狂座』を設立。
それから四百年もの間、人の世の業を裏で断ちながら、狂座は再び君臨し続けた……――。