テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――そう。四百年前、最初となる狂座を倒したのは他でもない、この私だ……。
四百年。存在し続けてみれば、随分と永い年月だったね……。
私達はずっと、裏から表の歴史を見てきた。それは正そうとしても修整が効かぬ程、愚かな争いの歴史をね。
『人類を救う為、狂座と闘ったんじゃないのか』――だって?
何か大きな勘違いをしているようだが、私は生前から『人類の平和を守る』と云った御題目の為に闘った事等、一度足りとも無い。それ処か、人類は死に絶えても構わないとさえ思っていたよ。
かつて敵対していたとはいえ、御互い命を掛けて闘い合った狂座の者達には、尊敬の念を今も抱いているが。
人類の為でも無い――それでは何の為、再び狂座を創ったのか。
人は滅びの道を歩む。これは間違いないし、避けられない運命だ。
私の本当の目的は、今も変わらずただ一つ。
四百年前、かつて私は一人の女性を守る為だけに狂座と闘った。
特異点で在るがゆえに世を隔離され、存在意義の無かった私に、初めて存在理由を与えてくれた彼女だけは……。
だが特異点すらも超え、摂理を超えた残留思念永久体で在る私と彼女とでは、棲んでいる時間も次元も違い過ぎる。
彼女の死後、何時か再び世に転生したその時、彼女の魂が幸せな生を全うさせる為、私は存在し続けてきた。
その為には滅亡の道を辿る運命等、有ってはならない。
その少女はアミと云った。彼女が今現代に転生したのが――『水無月 亜美』。今の彼女の姿だ。
普通は転生前の記憶は持たず、魂レベルで刻まれたまま、それが表に出ないのが常だが、何故か彼女は目覚めてしまった……。
君達には自覚は無いだろう? かつて転生する前の記憶等。
それもそうだろう。誰もが皆覚醒したら、今を生きる者としては不都合が有り過ぎる。魂は同一とはいえ、今を生きる者には何も関係無いのだから。
君達もそうだよ。時雨、琉月。いや、私達以外の狂座の面々は皆、かつて関わりがあった転生体なのだ。
驚くのも無理はない。それを知り得るのは、私達以外有り得ない事なのだから。
奇しくもこの時代に集結し、再び狂座として共になるのは、何という運命の悪戯か。この時代の現代こそ、狂座は歴代でも最強の面々が揃っていたと云っていい。
――そして……幸人。君こそがその中でも特別な、生体で唯一無限の可能性を持つ――“私の転生体”だ。
************
「俺が……お前の転生体……だと?」
核心を突く事実に、雫は放心したように呟いた。
「そんな……」
「俺達もかよ……」
雫だけではない。琉月と時雨も同様、衝撃は大きかった。
皆、過去に狂座と繋がりが有り、それは今現代に至るまで続いていた。
「信じる信じないは、君達の自由だ。何故なら君達は君達自身。過去に囚われず、今現代を生きるのが正しい」
フォローするエンペラー。昔と現在で優先すべきは、当然今。自分は他の誰でもない、唯一無二の存在だという事。
「そんな事、急に言われてもよ……。じゃあこの力は何だ、過去の遺物だって事だろ? 訳分かんねぇよ……」
それでもまだ、受け入れられそうもなかったが。
「……お前の事だ。この期に及んで、嘘や冗談を言うつもりも無いだろう。認めたくもないし、自身を改めるつもりないが、まだ分からない事がある」
対称的に雫は冷静だ。否、全てを認める訳にはいかないが、これだと全ての謎が繋がる事も確か。
自分はエンペラーの生まれ変わり。そして亜美も、かつてエンペラーの恋人の生まれ変わり。奇しくも現代で、同じ魂同士が巡り合った。
それはいい。だがもう一つ、重大な謎――
「……悠莉の事だ。何故お前等は――」
エンペラーとノクティスが、雫以上に特別視する悠莉について問い質していた。
これまで語ってきたエンペラーの経緯からは、悠莉の存在自体が関わっていない。にも関わらず、エンペラーは悠莉をワールドとして。そしてノクティスは悠莉を、狂座の正統後継者としてだ。
だが二人は決して、真相に触れるような事はしなかった。
そこまで特別な悠莉の存在は、雫にとっても彼等にとっても最も気になる事だし、是非とも全てを語って貰わねばならない。エンペラーからも、ノクティスからもだ。
「やっぱり……ボクも誰か未来、もしくは昔の生まれ変わり……なの?」
悠莉が恐る恐る、誰にともなく訊いていた。
自分の事を一番知りたいのは、何より彼女自身。
「そうだね……。今更隠しても仕方無いか」
エンペラーは意を決する。もしかしたら、明かすつもりは無かったのかもしれない。
「悠莉……君だけは違う。未来でも過去でも無い。いや、人が神へと昇華し、神を超えようとした以上に禁じられた業。悠莉……幸人。そして君達も心して聞きなさい」
だが今更隠しだてする必要は、もう無くなった。エンペラーは語り始める。
「本当の運命は他でもない――」
全ての真相と、悠莉という存在に繋がる、驚愕の運命への道標を――
…