コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
白銀の女騎士と、俺との距離は僅か数メートル。 目の前に血を流して横たわっている人物に、俺は眩暈がするような気分に襲われた。
「お前が……やったんだな……」
俺の声は、わなわなと震えている。
ゴゥッ!!
反射的に刀を抜き、自分でも抑え切れないほどの蒼炎が吹き溢れる。
キィン!!
白銀の女騎士は、無言のまま俺の刀を易々と防いだ。
「剣筋が甘いな。我流だろう、貴様」
「うるっせぇ!!」
ボォ!!
刀が通じないのなら、と、蒼炎を噴出させる。
しかし、女騎士はスルリと背後に回った。
「攻撃が単調。いざとなればその蒼炎を、馬鹿の一つ覚えのように吹き出すと思っていたぞ。データ通りだ」
「クソッ……!」
「落ち着いて、優!! 緑さんはまだ息がある!! 私の治癒魔法ならきっと治せるから!!」
そのルリの言葉に、一瞬、冷静さを取り戻すと、学の瞳が、驚愕に震えている姿が映る。
「学……?」
どうやら、学はただただ、白銀の女騎士を眺めている様子だった。
「どうして……姉さん……!」
「姉……姉さん……?」
女騎士は、学と向かい合うと、武器を下ろした。
「久しいな、学。お前もこんなところにいたら、処罰を受けるのも時間の問題だ。早く技術班へ戻れ」
「ちょ、ちょっと待て……! なんで学の姉ちゃんが、ババアを殺そうとしてるんだ……! なあ……!!」
「それは、学くんのお姉さんが、UT変異体の育成班所属で、誰よりも強いと認められているからですよ」
そこに現れたのは、大きな剣を持った大柄の男だった。
「誰だ……お前……」
「僕は、UT特殊部隊 総隊長 ビアンカ・D・ドレイク。そこにいるお姉さんに育成指導された者です」
「UT特殊部隊の……総隊長……!!」
「私は、アリス・F・マーマレード。UT特殊部隊の中隊長をしております」
更に、ビアンカの背後から青髪の女が現れる。
「UT特殊部隊、並びにUT刑務局を手足のように動かせ、このように総隊長や中隊長までも、彼女の指示に従わざるを得ない。それだけ、この任務が重要と言うことです」
そう言いながら、ビアンカはニコニコとババアに近付くが、俺は蒼炎で威嚇をしながら、その歩みを止めた。
「我々に歯向かうと……そういうことですか? もうすぐ刑務局の方々も来るでしょう」
「ババアは……ここで治療する……。絶対に殺させやしねぇ……絶対に……!!」
その言葉に、ビアンカは武器を構える。
「少し……本気を出しましょうか」
「本気を出してくれるのか、そいつは光栄だな」
そんな緊迫感の中で現れたのは、
「お前……ロディ……!」
「ほう……指名手配班のロドリゲス・B・フォードマンさんですね……。まさか貴方が加勢に来るとは……」
「ビアンカよ、久しいな。剣がよければ、剣で対峙してやっても良いぞ?」
ロディは、余裕の笑みを浮かべながら、何も持っていなかった手から、スルリと剣を出現させる。
「総隊長……ここは私が……」
アリスが武器を取った瞬間、炎が舞い散る。
ゴッ!!
「安心しなよ、中隊長さん……。アンタの相手は、ここにいるから……」
目にも止まらぬ速さで駆け付けたのは、ロスタリア・A・バーニスだった。
「早く……誰か早く、緑さんの拘束を……!」
そう叫んだ女騎士の背後には、鮪美。
「よう、司令官殿……? 死神の手は要るかい……?」
「鮪美……! 貴様まで裏切ると言うのか……!」
「白銀の女騎士、佐藤歩。俺たちB型世代の頃から、現在も尚、UT変異体の育成訓練に当たる強者……。久々にご教授頂きたいもんだ……」
それぞれが臨戦態勢を敷く中、ただ一人、武器を持たず、その白刃を縦横無尽に歩いていた。
「や、やめてくださいよ……皆さん……。姉さんも……姉さんは優しくて、格好良くて……他の皆さんも、口が悪かったりするけど、みんな優しい人で……」
学は、ボロボロと泣きながら、どこを見るでもなく、全員に訴えかけていた。
「学……」
「もう……やめてください……もう……やめてくださいよ!! 姉さんは優しかったじゃないですか!!」
学は泣きながら、女騎士、佐藤歩の甲冑を掴んだ。
しかし、バッ! と、その手を突き放すと、学は尻餅を突かされる。
「お前みたいな弱い弟、私は知らない」
そう告げると、総隊長 ビアンカに撤収の合図を向け、自身も武器をしまった。
「緑一派、UT刑務局の二人、そして、ロドリゲス・B・フォードマン。二日後、お前たち全員を処断する。刀の手入れでもしておくがいい」
そう言って、歩率いるUT特殊部隊は撤退した。
「二日後か、我々も準備をしないとな!」
ガチャリ
先導を切って発言したロディに、鮪美から手錠をかけられる。
「ロス、16時27分、β司教逮捕だ」
「あいっス、連行しておきます」
「ちょ、ちょっと待て、刑務局の者たち!! 今は我々とて手を組むしかないだろう!! 我々はこれから、UT特殊部隊を相手取るんだぞ!! ん……? 私のことを逮捕しているが、貴様らも犯罪者じゃないか!! ハーハッハッハッハッハ!!」
ザッザッと、いつもの砂利道を静かに歩く。
「ルリ、婆さん、どうだ?」
「無事。私は最強の魔法使いだから、それに、緑さんはなんとしてでも治すし……」
「そうか。学ー!」
学は未だ泣きじゃくり、反応がない。
「お前、姉ちゃんのこと、好きか?」
地面に座り込んで動かない学の横に、俺は座った。
「俺は、ババアのことを親のように思ってる。だから、今回の話を聞いた時、何をどうしたらいいか分からなくなっちまったよ」
そんな俺たちの会話に、ロディたちも黙り込んだ。
「僕の両親は小さい頃、何者かに殺されたんです……。それで僕ら姉弟は、UT開発局へ拾われました。それからは強い姉さんが、僕の母親代わりをしてくれたんです……」
再び、学はぐすぐすと泣き始める。
「そうか。じゃあお前にとってあの姉ちゃんは、姉ちゃんでもあり、母親でもあり……」
学がふと横を見ると、みんなが学の横に並んで座っていた。
「”大事な人”なんだな」
そうして、学の潤んだ瞳には、俺の笑った顔が映る。
静かに、俺たちは立ち上がる。
「ババア、今日の帰りは遅くなるから、夕飯は要らねぇ」
「皆さん……どうして……」
不安そうな学の目に、鮪美が答えた。
「さっき、監察から情報が入った。お前の姉ちゃんは踊らされてる。指令を出したのは警察庁長官に違いないが、そこに今回の情報を流したのは別の奴だ。ソイツの報告によればどうやら、『船橋・LU・緑は、異世界の侵略者たちの力を使い、UT技術の乗っ取りを企んでいる』というものだった。あの真面目な女騎士のことだ、逆らうこともなく、任務となったら即時即決で動きやがる」
「目を覚させられんのは、家族のお前しかいねぇよ」
そこに、意識を取り戻したババアは、なんとか上半身を起こすと、ニタリと笑い、まだ何十本も残ったタバコをぐしゃっと潰した。
「まったく、私も悪ガキ共の躾には毎度困らされるね。ガキ共、一丁、暴れておいで」
その言葉に返したのは、もう涙を溢してはいない、学だった。
「はい……行ってきます……!!」
そうして俺たちは全員、武器を背負った。
――
◇緑一派
鯨井・LU・優(蒼炎)
ルリアール=スコート(魔法)
佐藤 学(発明家)
船橋・LU・緑(元UT変異体育成班)
ロドリゲス・B・フォードマン(βの司教)
◆UT刑務局
鮪美・B・斗真(死線)
ロスタリア・A・バーニス(瞬身)
◇緑抹殺部隊
佐藤 歩(白銀の女騎士)
ビアンカ・D・ドレイク(UT特殊部隊 総隊長)
アリス・F・マーマレード(UT特殊部隊 中隊長)