げんぴょん
社会人パロ
◇
「ねー、終わったぁ?」
『原人先輩…』
私の頭に腕を乗せ、体重をかけてくる原人先輩。途端、ふわりと煙草の香りが鼻を掠めた。
今やってる!今やってます!!
「お前まじで効率悪ぃよなぁ」
『悪かったですね!効率が悪くて!』
こちとら普通の人間。先輩みたいな超人じゃないのだ。
『煙草吸うくらいなら手伝ってください!』
私の残りが終わらなければ、原人先輩は帰れない。なぜなら、私の仕事の最後の確認を任されているからだ。
だからさっきから手伝ってと言っているのに、先程は一服してくる〜、と逃げられた。
「んもー…そんなプリプリすんなよな〜!」
『誰のせいだと!!』
「あと俺とお前しかいないんだから」
『へ?』
原人先輩の言葉に驚いて、周りを見渡すとびっくり。本当に誰も残っておらず、数人のデスクに資料が置いてあるだけだった。いや終わらせろよ。何帰ってんだ。
『う、嘘ぉ…』
「早く終わらせろよ〜」
口でははぁい…と言いつつも、心の中で原人先輩に悪態をつく。
この人はいつも頑張れとか、早く終わらせろって言うくせに手伝ってはくれない。早く帰りたいなら手伝ってくれたっていいのに。
◇
『あ、あとちょっと…』
「お、もう終わる〜?」
何度目かの煙草休憩から原人先輩が帰ってきて、自分のデスクに座るところで、ちょうど作業が終わる。
『おわり、ました!』
確認お願いします、と言って原人先輩のデスクまで行くと、原人先輩はもうすでに私のつくった資料を見ていた。仕事が早い。
「ん〜…」
どうだろう。一応何度目かの作業だし、そこそこ自信はある。
「まぁ、いいかな」
『ほんとですか!帰れますか!?』
「帰れる帰れる。やっとね」
『やった〜!!』
ガッツポーズしながら時計に目をやる。
意外と早めに終わった…と思いたい……、…………待て。
『終電……』
「あ〜、もう無いね」
うっっっそだろ!!!
私の家はここから4駅ほどの距離がある。
つまり帰れない。いや、帰ればするのだが、タクシーに乗ってクソ高い金を払うか、足を犠牲に無料で帰るかしか選択肢がないのだ。
「なに、泊まるとこないの?」
『うぅ……はい……』
「じゃあうちに泊めたげる。会社から近いんだよね〜」
『……え?』
あれ、聞こえなかった?と原人先輩が私に聞くが、もちろん聞こえてましたよ、ええ、はい。そりゃもうしっかりとね。
『え………っと……理由……は…?』
「え、理由?困ってそうだから、だけど」
『いいん、ですか……??』
「おまえならいーよ」
なんだその別の人ならダメ、みたいな言い方は。
『やったぁ……!!』
さきほどスマホで確認したところビジネスホテルは全て埋まっているし、泊まるところも帰る手段もなかった。
『ありがとうございます。晩御飯くらいならつくります!』
「あ、ほんとー?ありがと。助かるわ〜」
ふたりで会社を閉め、並んで歩く。
なんか新鮮だなこれは。
というか、助かるということは普段先輩は自炊しないのだろうか。
まあ忙しそうだもんな。煙草休憩はするくせに。お昼もいっつもコンビニ弁当を食べてたり、社員食堂で食べてるところも見るし。
『先輩、自炊はしないんです?』
「基本しないかなぁ、めんどくさいし」
ほら俺、金は持ってるしさ?とニヤリとした笑みを浮かべて言われる。うざ。
『健康に悪いですよ』
「なに。おまえが弁当つくってくれんの?」
『え…まぁ……つくれと言うなら?自分のをつくるついでにできますし…』
「マジ?」
『マジです』
「なら頼もっかな〜」
『好きなものとか教えてくれれば、それたくさん入れたりしますよ』
いつもお世話になっているお礼として、弁当は丁度いいのでは?先輩自炊あんましないし。健康に気を遣わないといけない歳にもなってきたし。
「なにそれ最高」
『いつもお世話になってるんで』
「じゃあ月曜から頼むわ」
『任せてください』
そんな感じで話していると、原人先輩の家に着いたようだった。 まじで近いな。羨ましい…私もこっちに引っ越そうかな……。
なんて考えながらお邪魔しますと言って家に入る。一軒家やばくね?玄関からわかる、めっちゃ広いじゃん家。
私はここで寝れるのか……幸せだ………!!
「ミョウジ、先風呂入りな」
『え、いいんですか』
家主が一番に入るものじゃないの?
「いーよ。俺、ちょっと用事あるから」
服とか、俺ので悪いけど置いとく。あ、タオルはそこのタンスに入ってるよ。
そう言って、原人先輩はリビングと思わしき部屋に入って行った。
よし、お風呂に入ろう!!!
◇
つづきます