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ラボの中はかなり片付いていた。殆どが白一色で、幾つもの器具が並んでいる。俺たち以外の人は居ないように見える。


「ふふ、良くぞいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね」


「その予定はないな」


出来れば早く終わらせたいというのが本音だ。


「……普通、こんな可愛い女子高生に誘われたらもっと嬉しそうにしませんか?」


「普通の基準なんて人それぞれだ」


にしてもこいつ、自画自賛に躊躇が無いな。


「私、結構人気あるんですよ? 顔も可愛くて、頭も良くて、優秀で……」


すたすたと近付いてくる犀川。体が近付き、その手が俺の背筋を通り、首筋に触れる。チリチリと髪の毛に触れる感触がある。


「……どうです?」


上目遣いで尋ねる犀川の両腕を俺は掴んだ。


「どうもこうも無いが、髪の毛は返してもらおうか」


「むぅ、バレましたか」


犀川が諦めたように髪の毛を手渡したので、床にこっそり落とされた一本も拾っておいた。


「それと、だ」


「なんですか?」


俺は犀川を睨みつけるようにして、言った。


「アンタ、俺のこと覚えてるな?」


「気付いちゃいましたか」


隠しもせずに犀川は言った。


「一つは、センサーに引っかからずに素通り出来たこと」


校門には魔術によるセンサーのようなものがあったはずだ。なのに、俺は素通り出来た。


「あぁ、確かに私が細工しましたよ。お店に髪の毛一本落ちてたので、それから魔力の波長を読み取って登録しました」


「それって犯罪じゃないのか?」


俺が聞くと、犀川はきょとんとした顔で首を傾げた。こいつめ。


「一つは、俺に対する執着」


赤の他人の髪の毛をあそこまでして採取しようとすることは普通じゃない。


「さっきも言いましたけど、髪の毛一本は拾えましたから……色々、調査は出来たんです」


「……一応、結果も聞いておく」


犀川はニヤリと笑い、一枚の紙を鍵のかかった引き出しから取り出した。


「これ、見てください」


なんと、その紙には無数の単語が並び、その横に数字が連ねられていた。説明させよう。


「あぁ、良く分からん。説明してくれ」


「……魔術には精通してるのに、そういう知識は無いんですね」


犀川は目を細めてこちらを見たが、俺が表情を変えずにいると目を逸らした。


「まぁ、良いですけど……凄く簡単に言うと、人間では有り得ないレベルの魔素を取り込んでいることが分かりました。恐らく、現在確認されている中でこれ以上の魔素を含んでいる人は居ません」


「そうだろうな」


あっさりと答えた俺に、犀川はまた目を細めた。


「ここまでの階位に至るにはどれだけの魔物を殺す必要があるのか……老日さん、貴方って何者なんですか?」


「さぁな」


何故か記憶を保持していた以上、喋る訳にはいかない。


「そういうアンタは、どうやって記憶を保っていたんだ? 魔術の発動は完璧だった筈だが」


「別に記憶を失ってない訳じゃないですよ。詳しくは秘密ですけど……老日さんについて教えてくれるなら話しますよ?」


じゃあ、別に良いな。


「それで、俺をここに招いてどうするつもりだ?」


「良く分からないから調べたいが一番ですね。体をスキャンとかさせて欲しいです。勿論、報酬も出します。ちょっと寝てるだけで大金が貰えるなんて中々ないですよ?」


それはそうだが、乗り気にはなれないな。


「悪いが、断る。アンタが俺のデータを何に使うか分からないからな。犯罪に使われるかも知れない。俺のデータを公表するかも知れない。そのリスクがある以上、受ける気にはなれない」


「じゃあ、それはしませんよ」


あっさりと犀川は言った。


「魔術契約しても良いですよ。私は私自身の興味を満たす為と、私の研究に活かすため以外のことに老日さんのデータを使う気は無いので」


「……アンタの研究が犯罪に使われない保証も無い」


「はぁ。そんなこと言ったら何も出来ませんよ。包丁だって人を刺して殺せますし、悪用される危険性に怯えてたらなんの研究も出来ません」


犀川は初めて苛立ちのような表情を見せた。こういう口出しをされるのが嫌いなんだろう。


「そもそも、アンタは何の研究をしてるんだ?」


「異界接触現象が起きないようにする研究をしています」


なるほど、大きく出たな。


「それは……難しいんじゃないのか?」


「難しいですよ。なので、今はちょっと停滞気味です。とはいえ、これは死ぬまでに結果を出せれば良いと思ってるので、別に良いんです」


まぁ、そうだろうな。次元の揺らぎそのものを止めるか、それによって起きる現象を無効化するか、どちらも容易じゃなさそうだ。


「という訳で、現状進めてる研究は異界生物……魔物の駆除や異界の浄化に関するところですね。こっちはそこそこ結果も上がっているのでこうしてラボを頂けているという訳です。本当は偉い人からもっと凄いラボに移らないかって話もあったんですけど、自分の研究をしたかったので断りました」


「なるほどな」


自分で言うだけあって、優秀らしいな。


「そんな感じですけど……どうです? 協力してくれる気になりました?」


「いや……正直、金に関してはもう困る予定が無い。大金を貰っても、それを使う予定も無い」


俺がそう言うと、犀川はニヤリと笑った。


「じゃあ、戸籍についてはどうですか?」


犀川の言葉に、俺は思わず目を細めた。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

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