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素早く彼から自分までの人数を数えた。
―――イケる!
美穂は目を見開いた。
ダウトゲームはただポーカーフェイスを競う騙し合いのゲームじゃない。
記憶力と推理力、そして研ぎ澄まされた計算による策略のゲームだ。
そして今回は1位になる必要はない。
誰か、揺るぎのないビリを作ればいい。
アリス「①」
仙田「②」
花崎「③」
美穂は迷わずQのカードを掴んだ。
ここで自分が④以外のカードを出せば―――。
途中で誰かがダウトし、手札カードがわからなくなったとしても、自分の手元には④のカードが2枚残る。
ゲームが進めば嘘のカードの比率が上がる。
手札が少なくなってきたところで、④に当たった人にダウトを仕掛ける。
あとは誰が上がってもいい。
ビリにさえならなければいいのだ。
誰かにカードを大量に持たせた時点で、美穂の勝ち上がりは決まる。
「④」
美穂はQを出した。
「んんん!」
「―――――!」
美穂は顔を上げた。
「んんん!!!」
隣に座る尚子が、片目を目いっぱいに開けて、こちらを睨んでいた。
「ーーーはは」
仙田が笑う。
「”ダウト”、だってよ」
尚子が激しく頷く。
「ダウトらしいぜ、お嬢さん」
仙田が尚も笑う。
「―――この場合は……」
花崎がアリスを振り返る。
「んー。どうしましょうかね」
アリスは首を捻った。どうやら口の糸を取ってあげるという選択肢は彼にはないらしい。
「土井さんはちゃんと“ダウト”と発語できていないため、無効となります」
「……んんん!!」
尚子はカードを握ったままテーブルを殴った。
ホッとしながらも、美穂はポーカーフェイスを装いながら尚子の方を見た。
自分に対する逆恨みはいいとして。
なぜあんなに自信満々にダウトだと思ったのだろう。
④は今、美穂の手元に2枚ある。
彼女ももしかしたら2枚、持っているのか?
だからこの人数がいて、自分が2枚も持っているのだから、美穂が持っている可能性が少ないと思ったのだろうか。
そうかもしれない。
2枚は美穂。
2枚は尚子。
そうだとしたら―――。
尚子が悔しそうに自分のカードを出そうとしたその時……
「ダウトだ」
声が上がった。
慌てて顔を上げる。
仙田がニヤニヤしながらこちらを見下ろしていた。
「筒井さん、カードを捲ってください」
アリスが美穂を冷ややかに見る。
「――――」
美穂は内心舌打ちをしながら、カードを捲った。
もちろんそれはQ。
美穂はカードを4枚引き取った。
「うはは。本当に嘘ついてやんの」
仙田が笑う。
まあいい。まだたったの4枚だ。これから誰かに大量に押し付けるんだから別にいい。
美穂は追加になったカードを見た。
アリス→⑦
―――こいつ。
美穂はカード越しにアリスを睨んだ。
薄ら笑いを浮かべている彼と目が合う。
もちろん①を持っていなかった可能性だってあるが、彼は、はなから真面目にゲームをするつもりがないような気がする。
仙田→②
花崎→…………。
美穂は目を見開いた。
花崎→④……?!
つまり。
つまりつまりつまりつまり。
美穂はぐるっと人数を見て計算した。
貰った。
貰った……!!!!
このゲームは、
ーーーーアイツの負けだ。
◇◇◇
それからは誰からもダウトの声が出ずにゲームは進んだ。
尚子「ん(⑤)」
尾山「⑥」
アリス「⑦」
仙田「⑧」
花崎「⑨」
皆のカードや番号などどうでもよかった。
美穂「⑩」
ここでは本当に⑩を出した。尚子がまた何か言ってくるかは賭けだったが、彼女は何も言わなかった。
やはり先ほどの④に対するダウトは、自分が④を持っていて、この人数で美穂が持っていない可能性に賭けたものだったのだろう。
つまり今、④の3枚は美穂が持っていて、残る1枚は尚子が持っている。
尚子「んんんん(⑪)」
尾山「⑫」
アリス「⑬」
仙田「①」
花崎「②」
美穂「③」
尚子「④」
――――やった!
美穂は心の中でガッツポーズを取った。
ここまでカードが溜まってくると皆、保身に走る。
持っているなら本当の数字を出すのが当たり前になってくる。
ーーーつまり尚子は今、「④」を出した。
あとは誰もダウトの指摘をせずに、ここまで回ってきてくれれば―――。
大量のカードを抱えたものは、そこから這い上がれない。
ゲームに勝つのは誰でもいい。
間違いなくビリはアイツだ。
尾山「⑤」
アリス「⑥」
仙田「⑦」
でも―――。
それでいいのか?
美穂はちらりとその人物を見つめた。
先ほど、アリスが生き返りの話をしたときに、その人物は激しく首を振っていた。
もしかして生き返りたくないのか。
仙田が言ったように、自殺者はその人物だったのではないか。
確かに見た目にも幸福そうには見えない。
でも、
―――それならもう1回自殺すればいーんじゃないの?
美穂の中では、昨日会ったばかりの人間よりも、
浩一の方が100倍大切だった。