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⚠めちゃめちゃ長い
冬彰、微みずえなあり
冬彰はr18あり(ちょっとだけ)
死ネタあり
月明かりが差し込む王城の最上階。そこは、国王である冬弥の私室である。
「…冬弥様。ただいま戻りました。」
彰人は右腕をだらりと下げた状態で膝をついた。衣服の隙間から見える血の滲んだ包帯が痛々しい。今回も、数に勝る敵陣へ一人で突っ込み、自らを囮にして自軍を勝利に導いたのだ。
「……またか、彰人」
玉座のような椅子から立ち上がった冬弥が、静かな足取りで近づく。その瞳には、深い慈しみと、それ以上に強い怒りが宿っていた。
「俺は言ったはずだ。お前の身を第一に考えろと。なぜこれほどまで、自分を粗末に扱う?」
「オレは貴方の剣であり、盾ですから。貴方が統べるこの国が守れるなら、オレの指の一本、二本……」
その言葉が終わる前に、冬弥は彰人の体を引き寄せ、唇を塞ぐ。
「んっ…?!…ふ、冬弥様……っ」
最初は戸惑い離れようとした彰人も、暫くすると快楽に負け、ぐったりと冬弥の胸に倒れ込む。
そんな彰人を、冬弥は壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。
手に伝わる温もりが、確かに彰人が生きていることを実感させる。
「そんなことを言わないでくれ。俺は彰人が好きだ。俺が本当に守りたいのは彰人、お前なんだ。」
「とう、やさま……」
(本当はだめだ、こんなの。国の代表である王子と、ただの騎士が、こんな…)
冬弥は優しく、だが離さないよう力強く押し倒す。
「……彰人、だめか?」
「……っ、いけません、冬弥様。貴方は王子です。身分が違います。」
「俺は彰人がいい。」
もうこのやりとりも何度繰り返しただろうか。
その度に言いくるめられ、また今夜も歪んだ愛に溺れていく。
翌朝。目を覚ました彰人は、自身の身体につけられた赤黒い痕を見て、言葉を失う。
(……はは、凄い量の痕。)
これほどまでに冬弥が愛してくれていることに幸福感を抱くと同時に、既に前の関係には戻れないことを察する。
(冬弥に、この関係の終わりを告げよう。)
その方が冬弥も幸せだ、と自分に言い聞かせる。
そのとき、冬弥が2人分のティーカップを持って部屋に戻ってきた。
「ああ、彰人。起きたんだな。体は大丈夫か?」
「はい、お気遣い感謝します。」
「…昨日みたいに話してほしい。俺達しかいないのだから、敬語は使わないでいいだろう。」
「いえ、オレはただの騎士です。主人である貴方様にそのような無礼は働けません。」
「それに関しては大丈夫だ。彰人はもう、副団長の職は解任したからな。」
「………は…?」
理解できないという顔。冬弥は困惑する彰人に構わず淡々と続ける。
「彰人は戦いから戻る度に怪我をしてくるだろう?だから、次からは俺の目の届かない戦場へは行かせないことにした。」
「今日からはこの部屋で俺を護衛してくれ。二十四時間、ずっとだ。」
「……っ、ふざけるんじゃねぇぞ…!!」
「…そんな横暴な、…許されるわけがないだろっ…!!! 」
「俺が許す。国王である俺が決めたなら誰も反論はできないだろう。」
「これでずっと一緒だ、彰人。愛してる。」
「……っ」
狂ってる、そういいたかった。
だが、自分の中のどこかにそんな残酷な現実に安堵している自分がいて、冬弥だけを責めることができない。
冬弥をこんなふうにしたのはオレだ。
オレが冬弥の側にいなければ。
そんなことを考えながらも、堕ちていくしかない現実を受け止めるように、目を閉じた。
彰人が行方を眩ませてから3日は経った頃。
白騎士団の団長を務める天馬司は、行方不明の彰人を探すべく、城内を彷徨いていた。
普通なら王族と護衛以外は城内立ち入り禁止だが、司は貴族出身。冬弥とも幼少期から親睦が深く、騎士団長として国を支えている。
そんな司の優秀な右腕、副団長の彰人がいなくなったとなれば、部下思いの彼自らが探しに行かないはずがない。
(城内はほとんど探し尽くした。冬弥の部屋には、いるわけはないと思うが…。もしいなければ、街の方に出ているのだろうな。)
「冬弥!失礼するぞ!彰人を探しているんだが、こちらに来ていないか?!」
豪快なノックと共に、王の私室の扉が開かれた。
「……あ、司さん。どうされました?そんな慌てて…」
にこやかな笑顔で司は冬弥に問いかける。
「忙しい中すまない。こちらに彰人が来ていないだろうか」
穏やかな微笑を浮かべる冬弥の顔が、 彰人の名前が出た瞬間に反応したのを見逃さなかった。
「彰人……いるのか?」
冬弥が、一瞬チラリと背後にあるカーテンが引かれた巨大な寝台を見て、ゆっくりと答えた。
「…ええ。彼ならこの間の戦場の報告の後、その時に負った傷の影響で動けなくなったため、暫く俺の部屋で休ませているんです。」
「な、なんだと?お前の部屋で?! 」
一国の王が騎士を私室に留め置くなど、理由がどうであれ、誰かに知られたら大変なことになる。
(冬弥は優しいからな。弱ってた彰人を放っておけなかったんだろう。)
「そうか!彰人を保護してくれて助かった!後はオレが面倒を見よう。」
「…あ、それは……!」
司が一歩踏み出すと、途端に慌て出す冬弥。
「司さん、彼は今眠っています。起こさないであげてくれませんか…!」
(…なんだ?冬弥、何か隠しているのか?まさか、何かトラブルとか…)
まるで通したくないかのように立ちふさがる姿を見て不審に思った司は、冬弥の制止を振り切り、勢いよくカーテンを開いた。
「…あっ!」
「………は、っ……?!…あ…彰人、なのかっ…?!?!」
そこには、司の知っている勇敢な彰人はいなかった。
足を鎖で繋がれ、 はだけた襟元から見える鎖骨や首筋は、元の色がわからないくらい赤黒い痕で埋め尽くされている。
「……っ、…つ゛かざ……センパイ?」
こちらに気づいたようで、彰人が弱々しく顔を上げる。
声も枯れていて、まるで別人のようだ。
少し見ないうちにすっかり変わり果てた後輩の姿を見て、司は息を呑んだ。
「なっ、………なん、だ…どうしたんだ、彰人…。お前……その、体……」
「あ……、すいません…司センパイ。…オレ、…ちょっと冬弥様に、……捕まって…」
「……っ!! 」
諦めたように笑う彰人に、声にならない悲鳴が漏れる。
その笑顔に確かに潜むドス黒い愛情が、彰人を壊したのだろうということは、司にもわかった。
「…大丈夫です。…オレには、冬弥様がいないと……、冬弥様だって… 」
「っ……!!冬弥!!! 」
怒りに任せて王である冬弥の胸ぐらを掴む。
「お前っ、…!彰人に、何をした!!」
「何って…躾ですが。」
「冬弥!!貴様っ…!!!」
「離してください。」
動揺する司を平然と突き飛ばし、彰人の隣に腰掛けた。その姿に、一瞬安堵したような表情を見せる彰人。
「俺と彰人は愛し合っています。愛する人が毎度大怪我で帰ってくれば、不安になるのは当たり前でしょう。もう二度と彰人が傷つかないように、彼を思って閉じ込めています。彰人には俺がいれば十分です。」
「……本気で言っているのか、冬弥。彰人は、我が団の誇りなのだぞ……!」
「団より彰人の方が大切です。なので、探しに来るのはもうやめていただけませんか。」
「っ……冬弥、お前……っ!!!」
司の全身が、怒りと驚愕で震えていた。
幼い頃から見てきた、純粋で心優しい冬弥は、いつのまにか血も涙もない冷血な王となっていた。
司は腰の聖剣を引き抜き、その切っ先を冬弥へと向ける。
「その鎖を解け!今すぐにだ!さもなくば、たとえ国王相手だろうとオレは__」
「司さん」
冬弥のひとことで、周りの空気が凍りついた。
「……っ?!」
名前を呼ばれただけなのに、肌がビリビリと震える。
こいつは、もう可愛い幼馴染なんかじゃない。
「司さんのことは尊敬していますし、殺したくはありません。……だから、剣を収めてください。そして、俺たちのこと、黙っていてください」
冬弥が指をパチンと鳴らす。
影から音もなく 現れた数人の黒衣の隠密たちが、司の周囲を完全に取り囲んだ。彼らは王直属の暗殺部隊だ。
「……冬弥、貴様……!」
「もし、司さんがこれ以上彰人を連れ出そうとするなら……司さんだけでなく、天馬家すべてを反逆罪として処断しなければならなくなる。俺に、そんな悲しいことをさせないでください」
冬弥の瞳に、嘘はなかった。
「……くっ、……そ……っ」
司の剣が、屈辱に震える。
今の冬弥に逆らうことは、騎士団、そして家族の破滅を意味していた。
「…センパイ……ありがとう、ごさいます…。気持ちだけで、十分です……」
「っ…だが!!」
「ほんとは…もっと早くに離れとくべきだったんだ……。オレたちの運命に、アンタまで巻き込みたくない…」
彰人が思い詰めたように顔を顰める。
重い口を開いて、司は冬弥に告げた。
「………ああ。分かりました、陛下」
司は、そのまま逃げるように部屋を去っていった。
白騎士団の演習場。一人剣を振るっていた司のもとに現れたのは、団員の瑞希だった。
「お疲れ様、司先輩!…そんなに根を詰めちゃって、倒れちゃうよ?」
「…暁山か。団長たるオレがこの程度で音を上げるわけがないだろう!」
「ふーん……でも、大変だよね。弟くんの分の仕事、全部先輩が背負ってるんでしょ?」
「!」
瑞希の何気ないひとことで、あのときの記憶が脳裏に蘇る。
「え、あれ…?司先輩?」
「…オレは……」
「オレは…、どうすればよかったんだ…」
「え?」
張り詰めていた糸が、プツリと切れる音がした。
「………冬弥が、彰人を監禁している」
「えっ、ええっ…?!嘘…!!」
急な告白に、瑞希も動揺を隠せないようだった。
そのまま、ポツリ、ポツリと吐き出すように、冬弥の変貌と彰人の状況を司は語った。
「…へぇ、あの冬弥様が。…愛って怖いなぁ。でも司先輩。このままじゃ弟くん、本当に壊れちゃうよ?あの子、ああ見えて繊細なんだから」
「わかっている!だが、オレが動けば家族が……咲希が死んでしまう。オレには、どうすることも……」
項垂れる司を横目に、瑞希は言い出そうか葛藤するも、決心したように司に告げる。
「……ねぇ、司先輩。一つ、とっておきの解決策があるんだけど」
「解決策……?」
「…ボク、実は『黒騎士』の連中にツテがあってさ。……彼らと手を組んで、冬弥様を『排除』しちゃうのはどう?」
司の目が見開かれる。
「なっ、……黒騎士だと!? 敵国と通じるなど、それこそ大逆罪……」
「バレなきゃいいんだよ。彼らにとっても、有能すぎる王がいなくなるのは都合がいい。ボクたちが手引きして、冬弥様を暗殺する。その後、混乱に乗じて弟くんを連れ出せば……司先輩が守りたかったものは、全部手に入るよ」
瑞希の瞳には、冗談の色など微塵もない。
「……冬弥を、殺す……というのか」
「そうしない限り、あの執着からは逃げられないよ。……ねえ、選んでよ司先輩。友人を殺して弟くんを救うか、このまま弟くんが死ぬまで見殺しにするか」
司は、血が出るほど強く拳を握りしめた。
頭上では、不吉なカラスの鳴き声が響いていた。
「……わかった。暁山、その計画に乗ろう。オレは、彰人を見捨てられない」
司の絞り出すような決断を聞き、瑞希は満足気に微笑んだ。
(……大丈夫、これで救えるはずだ。)
(…待っててね、絵名)
一歩間違えれば死んでしまうかもしれない。
それほどまでに危険な賭けだとしても、絶対に助け出さないといけない。
瑞希はこの間見てしまった絵名の姿を思い出した。
弟が行方不明で涙を流す絵名に、自分では慰められない。
だけど、これ以上絵名が泣かないですむようにはできる。
自分の命をかけてでも、絵名を悲しませたくない。
そう思うほど、瑞希の中で絵名の存在は大きかった。
計画が動き出した夜。
瑞希は冬弥に呼び出しを食らった。
「暁山、こんな夜更けに呼び出してすまない 」
「いえいえ、ボクみたいな一段員に、なんの用ですか?」
「暁山は、最近よく城下へ出ているようだな。…東雲絵名という女性に会うために、」
「!」
動揺で体が硬直する。
「…なんだ、そんなことまで知ってるんだ」
「俺に隠し事など不可能だ。暁山、お前が彼女を想う気持ちは否定しない。だが、そのために司さんと手を組み、俺を排除しようとするのは……いただけないな」
冬弥がゆっくりと振り返る。
その瞳は、すべてを見透かしたように凪いでいた。
「黒騎士との接触、司さんへの提案。すべて把握している。……司さんは甘い人だ。お前に唆されて、自分が大逆罪を犯している自覚も薄いだろう。だが、お前は違うはずだ」
「……っ」
「警告だ、暁山。今すぐその計画を止め、司さんを説得しろ。……さもなければ、お前が守りたいと思っている彼女がどうなるか……想像に難くないだろう?」
「……っ、彼女には手を出すな!」
瑞希が声を荒げると、冬弥が薄く笑う。
「それを決めるのはお前だ。俺は彰人と静かに暮らしたいだけなんだ。そのためなら、東雲家も、天馬家も、お前も……すべて灰にすることに躊躇いはない」
(……あはは、だめじゃん。結局ボク、何も守れてないよ…)
「……わかったよ、冬弥様。ボクの負けだ。……これ以上、ボクの大切な人を傷つけたくない」
「賢い選択だ。司さんには上手く言っておいてくれ。……あの人は、やはり殺すのは惜しいからな」
瑞希は拳を握りしめ、冬弥の部屋を後にした。
一方、司は城に忍び込んだ黒騎士を追いかけていた。
司は迷わず聖剣を抜き放ち、黒騎士に斬りかかるが、相手はさらりと受け流し、司を一発でダウンさせた。
「く″ッッ、あ゛ぁっ!?」
腹部に鋭い衝撃を受け、司は石壁へと叩きつけられる。
殺される、そう確信した司。
「……おや。威勢がいいね。もしかして君が 瑞希の紹介かい?」
しかし、殺気なんて1ミリも感じない、楽しげな、それでいて冷たい声が聞こえてきた。
司が顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた男が立っている。
「……暁山の、……知り合いか」
「いかにも。僕は類。一応黒騎士だよ」
「……暁山から、話は聞いているはずだ。…彰人を救うために、協力してくれ。」
「ふふ、淡々と言うね。騎士団長自ら敵国と内通するなんて、重罪どころの話じゃないのに」
類は白騎士である司に対しても、敵国に対しても、驚くほど無関心に見えた。
どうして手伝ってくれるのか、不思議に思って尋ねると、類は微笑んで答える。
「瑞希はね、東雲くんの姉さんのことが好きなんだ。僕は彼の友人として、彼には幸せになってほしいと思っている。…だから、瑞希を泣かせるような原因は、僕が今夜仕留めてあげよう」
「今夜、だと……!? 準備もなしに、あの冬弥を……」
「白騎士の君たちにはいささか刺激が強いかもしれないけれど、僕たち闇に生きる者にとって、暗殺に準備期間なんて必要ないんだよ。……君はただ、事が終わった後に東雲くんを回収すればいい」
類は、まるで明日の天気を話すような軽さで、一国の王の死を口にした。
司は拳を固く握りしめる。
今だに怖くて仕方がない。
黒騎士の手を借りて、かつての親友を殺す。
だが、これも彰人を助けるため。
「……わかった。類……と言ったか。今夜、オレは王城の警備を一時的に緩める。……あいつを、彰人を……自由にしてやってくれ」
「わかったよ、白騎士の団長さん」
類は闇に溶けるように立ち上がり、窓の外へと消えていった。
瑞希が冬弥に脅されていることも知らず、司は「これしかないんだ」と自分に言い聞かせ、震える足で城へと戻っていく。
司の姿も夜の闇に混ざり、溶けていった。
「司先輩、待って!計画は中止だ、やめなきゃダメなんだ……!」
瑞希が血相を変えて司の元へ駆けつけた時、司はすでに王城の廊下を、取り返しのつかない決意を秘めて歩いていた。
「暁山……? 何を言っている、オレは類と会った。あいつはもう動いているんだぞ!」
「ダメなんだ、冬弥様にバレてる! このままだと絵名まで……ボクたちの居場所が全部なくなるんだよ!」
瑞希の悲鳴のような叫びに、司の顔が青ざめる。
二人は弾かれたように、冬弥の私室へと続く階段を駆け上がった。
その頃、上階の寝台の上では、冬弥と彰人が体を重ねていた。
司に詰められて、瑞希に命を狙われて、冬弥の心は疲れていた。
ただ、俺は彰人を愛していただけなのに。
「あ゛っ♡♡……あっ″、冬弥、♡…もぅ、っら゛め、……ッッ♡♡♡」
「彰人、愛してる。……誰にも、邪魔はさせない。お前は一生、俺だけのものだ……♡♡」
「…うん、オレも……♡」
(…もう、いい。結局オレは冬弥様がいないと生きていけない。だったらここで、ずっと_)
彰人の高い喘ぎ声が部屋に響き渡る。
その熱が最高潮に達しようとした、その時だった。
音もなく開いた窓から、一筋の銀光が走った。
「あ……?」
彰人の目の前で、自分を抱きしめていた 冬弥の胸元から、鋭い剣先が突き出す。背後から心臓を一突き。
「……ぁ……あ、き、と……」
冬弥の口から、血が溢れ出した。
彼は最期まで彰人を見つめたまま、その温もりを求めるように彰人の体に倒れ込む。
彰人は、何が起きたのか理解できなかった。
あまりに急な、愛する男の死。
昨日まで、たった今さっきまで、自分を壊すほどに抱いていた体から、急速に体温が失われていく。
「……おや。お取込み中だったかな」
闇の中から現れた類が、無造作に剣を引き抜いた。
冬弥の体が崩れ落ち、彰人の肌に、まだ熱い王の返り血がしぶきとなって飛び散る。
「…………」
彰人は声も出なかった。
ただ、血に濡れた手で冬弥の亡骸を抱き寄せ、絶望に瞳を見開くことしかできなかった。
「冬弥様っ!!!」
扉を蹴破って、司と瑞希が飛び込んできた。
だが、二人の目に飛び込んできたのは、返り血で全身を真っ赤に染め、事も無げに剣を拭う類の姿と、冷たくなり始めた王を抱いて廃人のようになった彰人の姿だった。
「類……! なんてことを……!」
「瑞希。君の頼み通り、障害は排除したよ。……おや、司くんも。約束通り、彼を回収するといい」
瑞希は膝から崩れ落ちた。
冬弥を殺せばすべてが解決すると思っていた。
だが、そこにあるのは、救い出したかったはずの彰人が、心まで殺されてしまったような、救いのない光景。
司もまた、抜いた剣を握りしめたまま立ち尽くしていた。
「……冬弥……。オレは、お前を……っ」
自由になったはずの彰人の足首で、鎖が悲しげな音を立てる。
冬弥を「しょうがねぇ」と甘やかし続け、彼の歪んだ愛を受け入れ続けた彰人にとって、この自由はあまりにも残酷な終わりだった。
「……冬弥様…。……冬弥……っ、」
ようやく絞り出した彰人の声は、死者に届くことは二度となかった。
翌朝、国中は国王、青柳冬弥の死亡でパニックになっていた。
司と瑞希は、震える声で国民に「真実」を偽って伝えた。
夜闇に乗じて侵入した黒騎士が、王の命を奪った。
彰人を守るために司たちが駆けつけたが、その時には既に逃げていた、と。
頼んで代わりに手を汚させた類には申し訳ない気持ちがありつつも、 すべての罪を「黒騎士」という抽象的な敵に押し付けることで、国民のパニックを落ち着けようとした。
その夜。
城下の広場には、全ての国民が集まり、冬弥の葬儀が始まった。
白騎士団長として、そしてこの悲劇の「目撃者」として、司は瑞希と共に民の前に立たないといけなかったが、 司の心は、すでに死んでいた。
自らの手は下さずとも、実質自分で殺したようなものだ。
もう何を守りたかったのかさえも、わからなくなる。
「……暁山、彰人は」
「……部屋に。あの子、誰の声も聞こえてないみたいだったよ。……当然だよね、あんな終わり方……」
司たちは、葬儀の間、彰人を城に一人残してきたことに不安を覚えながらも、儀式を止めることはできなかった。
(何もなければいいが……)
司は嫌な予感を感じていた。
その頃、静まり返った城の中。
彰人は冬弥を失ったことで、何も考えられない抜け殻のようになっていた。
足首の鎖は、司の手によって断ち切られ、彼は「自由」になったはずだった。けれど、冬弥という鎖がなければ、自分はどこへも行けない。
冬弥がいない世界で自由なんていらない。
「……冬弥。オレ、お前に『いいよ』って言ったんだ。……あの日も、あの日も……」
冬弥が死んだのは俺のせいだ、と何度も呟き、枕に突っ伏して泣きじゃくる。
「冬弥のいる世界にいきたい…」
彰人は、枕元に置かれていた燭台を手に取った。
冬弥がいない世界。
自分の中では冬弥が全てだった。
もういないというのに、そんな場所で騎士として生きることに、何の意味があるのか。
「……待ってろよ、冬弥。……すぐにいくから」
彰人が床の絨毯に火を放つのに、躊躇いなど少しもなかった。
瞬く間に燃え広がる炎。
思い出とともに自身も、一瞬にして真っ赤に染まりあがった。
「あっ、……つ、司先輩、!」
瑞希の悲鳴に、司が顔を上げると、 城下の広場から見上げる王城の最上階が、異常な速さで火に包まれている様子が見えた 。
「な……っ!? 彰人!! 彰人が中にいるんだ!!」
司と瑞希は、群衆を突き飛ばし、狂ったように城へと駆け戻る。
しかし、たどり着いた時にはすでに手遅れだった。
大きな城は跡形もなく、真っ赤に燃え上がっている。
「彰人ーーーっっ!!! 返事をしてくれ、彰人!!」
司が炎の中に飛び込もうとするのを、瑞希が涙ながらに引き止める。
「やめて、司先輩! もう無理だ、手遅れだよ!!」
崩れ落ちる城の塔。
国王、青柳冬弥の政治は完全に終わりを告げた。
王を殺し、友を殺し、そして救いたかった部下さえも失った。
真っ赤に燃える城を見上げながら、司は膝をつき、呆然としていた。
瑞希も成すすべがなく、ただ城の前に立ち尽くす。
すべてを灰にした後には、何も残らなかった。
ただ、冬弥の愛が、彰人を永遠に独り占めすることに成功したという、残酷な事実だけがそこに存在していた。
〈fin〉
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