バシ!!
行方から振り下ろされた二宮への手刀は、もう一つの影によって防がれた。
「え……? 行方くんが……二人……?」
二宮の背後の行方の手刀を止めたのは、もう一人の行方だった。
「目を覚ませ!! ここは幻覚の中だ!! 犯人は一年、No.6 六現夢結だ!!」
そう叫ぶと、背後の行方はニヤリと笑う。
そして、次第に女の声へと変わった。
「あの生徒会室で言ってたこと、本当だったんだ……ハッタリで言ってるのかと思ってたよ……ふふ……」
現れたのは、目を瞑った三嶋光希だった。
「行方くんが三嶋先輩に!? どうなってるの!?」
「三嶋は操られているんだ……!! すぐにその場から離れろ!!」
「無駄だよ、行方先生……」
次に微笑んだのは
「嘘……でしょ……?」
逃げようとする二宮を掴んだ、十二鳴美だった。
「ナル……嘘だよね……?」
しかし、十二は黙って二宮を押さえ付けていた。
「行方先生、夢結ちゃんが犯人までは分かってても、私も協力者だって……分かってた……?」
操られた三嶋と十二に挟まれる行方と二宮。
二宮は十二に捕えられている。
そんな絶体絶命の状態で、行方は答える。
「ああ、分かっていた」
パリン!!
その瞬間、三嶋の背後のガラスは大きな音で割られる。
「四波流……ニノ型……風烈波!!」
そこに現れたのは、高さ三階まで軽々飛び上がり、日本刀を構えた生徒会長、四波慎太郎だった。
日本刀を振るうと、風の斬撃が三嶋に襲い掛かる。
「今壊されちゃ困るんだよね」
十二は手を掲げると、音波を振るわせ斬撃を掻き消した。
「四波流……八ノ型……風乱絶!!」
その瞬間、十二の背後から更に風の波動が放たれた。
「志帆ちゃん!?」
そこには、先程、行方に気絶させられていたはずの四波志帆が、小さな両手剣を携えて立っていた。
教室中を勢い良く波動で揺らすと、三嶋はそのまま倒れた。
「そう言うことか……。流石だね、行方先生……」
そう呟くと、十二はゆっくり二宮を離し、その場から姿を消してしまった。
「何が起きているの……」
困惑する二宮に、行方は自分が着ていたコートを羽織らせ、静かに背中を支えた。
慎太郎はそのまま教室内へ入り、気絶した三嶋を抱え、志帆は静かに近付いて来た。
「お前が見ていた世界は幻覚。実際に、この二人は手刀により気絶させられたのも事実だ」
「三嶋先輩が操られてて、行方くんに見せられていて、二人が気絶させられたことまでは分かったけど……じゃあその気絶させられた二人はどうして無事なの……?」
「それは、事前に僕が二人に話してあったからだ。脳震盪を起こさせないよう、顎には見えにくいガードを付けていてもらっていた。しかし、実際に気絶していなければ悟られてしまう為、すぐに起きられる薬を飲んでもらった」
「でも、実際に気絶してたわけだし、まだ頭クラクラしてるわよ……」
溜息混じりに志帆は頭を抱えていた。
「これも全て、まずは三嶋を取り戻す為の作戦だった。檻口教諭の『檻』の異能は、この二人の『波動』の異能で脳を揺らさない限り、こちらから取り戻すことが出来ないんだ」
「僕の異能は攻撃主体。むしろ、救出するのに必要不可欠なのは、妹の志帆の『波動』の異能なんだ」
そう言うと、慎太郎は日本刀を納めた。
「二人は気絶していた、二宮も幻覚に落とされていた、三嶋も目を覚ますまで待つ必要がある。君たち四人がしっかり動けるようになるまでは暫しの休息だ。あいつらも今はまだ行動に移せない。その間に、九恩も連れてくる。最後に副会長を取り戻せば、あちらの計画はオジャンとなる」
頭がフラフラする中で、二宮は考えていた。
行方の予見の力、相手を上回る作戦力、そしてそれを実行して成功させる力。
全てにおいて、自分が出る幕はない非力感。
そして、友人だと思っていた十二が、本当は敵組織に加担していたという事実。
二宮の心の中は暗雲が差し掛かっていた。
「そうだ。まだ先の話だが、二宮も立派な探偵局員だ。この情報を先に知らせておこう」
「な……何……?」
クラクラする中で、行方の目を見遣る。
「十二を助けるには、お前の力が必要だ」
その言葉に、二宮の鼓動は激しく動く。
「ナルは……敵じゃないってこと……?」
「詳細に話せば、十二はもっと上、異能教徒ボスの側近により操られている。六現を捕えても十二は戻らないが、彼女の場合は操られていると言うより洗脳に近い。洗脳を解けるのは、友人であるお前だけだ」
その言葉は、今までの学校生活の全てが、嘘ではなかったと言うことに繋がる。
そして、二宮が安心する理由には十二分の情報だった。
「そういうの……先に言いなさいよね……」
「その為に、今は目前の敵に集中しろ。出来るな?」
「当たり前……でしょ……!」
約二十分後、三嶋は目を覚まし、九恩も到着していた。
「そうか……檻口の異能はそんな力だったのか……」
「お前が衝動的になってから気付いた。檻口の異能に既に掛かっている者は、衝動性の強さで分かる」
「だから……昴はあそこまで冷静さを欠いて……そんなことも知らずに……俺は……」
「三嶋、今は知らなかったことを嘆いている暇はない。生徒会長と三嶋の仕事は、副会長を確実に取り戻すことだ。檻口教諭の異能に深くハマっている副会長は、自分の異能を最大限に使用してくるぞ」
「なるほど、檻口先生の異能に掛かったばかりの三嶋の異能が発動しなかったのはそういうことか」
「生徒会長、お前、さっき自分の無力感がどうとか話をしていたな」
「は、はい……」
「ならば、今回の指揮、作戦は全てお前が決めろ。僕はその指示に従おう」
「そ、そんな……! 相手は異能教徒なんですよ!?」
「異能教徒を持ってしても、三嶋とお前は、あの六現よりも順位は上だ。あとは、頭脳と気合いだ」
「頭脳と……気合い……」
慎太郎は、少し黙ると三嶋と目を合わせた。
三嶋は顔色を変えずに慎太郎を見つめていた。
「檻口先生の異能『檻』で捕えられている生徒数は未だ不明……。昴は『鋼鉄』の異能……。十二さんは……音波で僕たちの波動を掻き消せる……。六現さんの異能は……操ること……」
「六現夢結が正式名称かは分からないが、彼女の異能は『ドール』だ。操るだけでなく、人間そっくりな人形を作り出す事もできる。あの場に参加していたのは、彼女の生み出した人形だ。それも、異能持ちのな……」
「じゃあ、その人形にも警戒を……!?」
「いや、その心配はない。何故なら、彼女が生み出せる人形は二体、操れる人形は一体。その一体は、現在、異能祓魔院が抑えてくれている」
慎太郎は、スゥっと息を吸い込む。
「では、今から生徒会長の名において作戦を指揮します。絶対に、この学園、及び生徒全員を守ってみせる……!」
慎太郎は、再び日本刀を携えた。
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