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いつの間にか残された令嬢は座っていた場所に戻っていた。お開きにはマイラ王女の言葉がいる。


「皆さん、刺されていませんね?蜂は見ました?」


マイラ王女が聞いているが、皆、首を横に振る。花には虫がつきやすいから見間違えたのね。


「小公爵夫人の騎士は忠実ですのね、夫人のために公爵令嬢に危害を加えるなんて」


アビゲイル様はまだ諦めないのね。


「ええ、お義父様がとても怖い方なのです、アビゲイル様はご存知ありませんのね。ゾルダークの後継を宿している私には誰も触れさせるなと命令されていまして、あのままお二人が私に近づいて触れでもしたら、騎士は叱られるだけでは済みませんわ。ハインス公爵様にはお義父様が説明されるでしょう」


私はアビゲイル様に向かい微笑む。ハンクの厳しさを知らない高位貴族はいない。


「ゾルダークで大切に守られて羨ましいです、私も小公爵様に守られたいですわ」


本気で言っているのかしら、愛人になれる年はそろそろ終わるんじゃない?閨が得意なのかもしれない、聞いてみたい。


「アビゲイル様は小公爵の近くに侍りたいと仰っているの?」


マイラ王女が問う。普通そう聞こえるわよね。茶会の始まりからカイランのことばかり。


「ええ…お世話したいですわ」


なんのお世話なのか、若い二人が消えたのだから包み隠さなくていいわよね。


「アビゲイル様が夫の世話を?夜のお世話のことですの?」


アビゲイル様の顔がほんのり赤くなる。王女のいる場で夜の話などしないと思っていたのかしら。私は笑みを続け聞いている。答えないとね。


「そんなにはっきりとは…」


もどかしいわね。


「わかりましたわ、夫に聞きます。それからランザイト伯爵に尋ねますわ。それでよろしいかしら?」


ローズ様が体を震わせて、小さな声で発する。


「小公爵夫人、アビゲイル様に酷いことは言わないでくださいな」


消え入りそうな声が届いた。酷い?


「ローズ様、酷いこととは何でしょう?」


「夜のお世話など、アビゲイル様はそんなこと言ってはいませんわ」


「ならば、夫のお世話とはなんです?身のまわりの世話なら使用人の仕事です。教えてくださいな。お仕事をお探しですの?」


マイラ王女が顔から笑みを消し険しい声を出して怒りを見せる。


「アビゲイル様、答えられないなら謝りなさい。それもできないのなら伯爵に抗議を入れます。新婚の、ましてや身籠っている夫人に対して夫の世話をしたいなど、愛人になりたいと聞こえましたわ」


アビゲイル様はもう何も言えないわね。何故マイラ王女のいる場で話すのかしら、印象が悪くなるだけなのに。何か必死さを感じるのよね。ローズ様のことは嫉妬とハロルドから聞いていたから注視しなかったけれど、この二人が繋がってる?ローズ様が唆したの?


「申し訳ありません、私は離縁をしてますから夫人が羨ましくて…つい心にもないことを言いましたわ」


自ら選んだ離縁でしょうに、同情を向けさせて終わらせるのね。それで終わるのならもういいわ。このやり取りに飽きてきたわ。


「離縁を、そうでしたの。アビゲイル様はローズ様の強い薦めで茶会にいらしたのよね?ノエル様」


マイラ王女に話を振られたノエル様は頷く。招待客を選別したのは彼女だろう。この茶会に年齢の遠い令嬢を招待することが失策だった。


「ローズ様の意図はわかりましたわ、私の茶会を利用するなんて驚きだわ」


ローズ様は俯いたまま黙り込む。

マイラ王女はかなり怒ってらしたのね。それだけ今日を楽しみにしてくださっていた。


「お二人の家には私から書状が届きますから、お待ちください。それまでに父親に弁解でもなさって」


それは、未来の王妃の不信を買いました、の書状かしら。ローズ様は最悪婚約解消になってしまうわ。可哀想な気もするけど、彼女達が選んだ行動のせいよね、場所を考えたらよかったのに。マイラ王女が他国の人間だから甘く見たのかしら、味方のいない王宮では何もできないと思っていたの?

どのくらい時は経ったのかしら。会議はいつ終わるのかしら。少し日差しがつらくなってきたわ。私はダントルに合図して大きめの日傘を差してもらい、喉を潤す。温い紅茶がちょうどいい。


「申し訳ありませんマイラ王女様。近頃はあまり外には出ていなくて、日傘を差しても構いませんか?」


怒りが消えるといい。愚かな人は痛い目を見ないと愚かとは気づけないわ。マイラ王女に、この国を好きになってもらいたいのに、今日の茶会の人選を代えていればと悔やむわ。辺境から来たノエル様には荷が重かったわね。


「ええ、もちろん。日も傾きましたわ。アビゲイル様、ローズ様、お帰りください」


名指しで帰りを催促されるなど、もう茶会には呼ばないと言われたようなもの。仕方ないわね。

二人は侍る使用人に促され庭園から離れていく。


「キャスリン様、ごめんなさいね。招待する令嬢を間違えたわ。小公爵の愛人を狙っている方が入っているとは、精査を厳しくするべきだったわ」


私は首を軽く横に振る。


「慣れない国です。伯爵家の令嬢の願いなどわかりませんわ。私は夫が人気者だと教えてもらいましたわ。ただそれだけのことです」


貴族令嬢の会話などそんなもの、人の噂を面白おかしく盛り上げて楽しむ、深く考えてはついていけない。もっと遠回しに言われることもあるわ。アビゲイル様はわかりやすく教えてくれただけ扱いやすい。


「気軽に茶会をしたかっただけなのに、残念ね。当分したくないわ」


早くこの国に馴染んでほしいのに。


「お義父様の許可を頂ければ私が参りますわ」


マイラ王女は笑顔になり私の手を握る。


「嬉しいわ。私も陛下にお願いしてみるわ」


陛下は許可をくれるはず、問題はハンクね。私は頷く。






執務室に呼ばれたソーマはカイランを見下ろし立っている。

いつかは呼ばれるだろうと待ってはいたが、予想よりも遅かった。神妙な顔で発する言葉を考える姿は若い時の主に似ている。


「茶会の令嬢の思惑をなぜ僕に教えない。ハロルドはキャスリンに伝えに来ていた。たまたま僕がいたから聞けた。僕は夫だろ」


主からは特にカイラン様へ告げろと命じられなかった、ただそれだけのこと。私が答えないでいると焦れ出し、ため息をつく。


「主従関係なく答えてくれ。不敬なんて言わない怒りもしない、真実を知りたい。僕に教えてもお前が父上に怒られないものでいい」


ふむ、隠すなとも言われてはいない。感情的にならないと言われるならいいだろう。


「カイラン様には女性に気をつけて頂きたいと後日話すつもりでした。愛人、第二夫人狙いが多いので、耐性があるとしても大量に盛られてしまえばどうなるかわかりません。禍根は避けたいですから」


「キャスリンに起こることも知りたいんだ。得た情報は誰が持ってきたんだ?かなり細かい内容だろ」


情報元は気になるだろう、でもそれは主のもの。カイラン様には言えない。


「旦那様の情報屋です。ゾルダークは沢山の情報を得なければなりません、そこから裏を取れるものは少ないですが、警戒はできます。キャスリン様も対応ができます」


「父上が自ら雇っているのか。他に僕に報せていないことは?」


「過ぎたことでも知りたいと?」


今さら知ってもどうにもならないが、知っていると後で役に立つこともある。


「頼む」


「カイラン様が婚姻後スノー男爵夫人から再三お願いの手紙が来ていました。私が旦那様の許しを得て読みカイラン様には報せませんでした」


「そうか」


「王宮の夜会のドレスと本日のドレスは旦那様が用意なさいました」


これには驚かれているな。普通は夫が贈るもの、カイラン様はなぜか遅い。


「あれは父上が。僕のは断られたよ」


悲しげな顔をされるが、そこが間違っているのだ。


「カイラン様が申し出た時では間に合わないとキャスリン様は仰っていました、急いで作らせた物が良いものとは思えません。私から見ますと、カイラン様はキャスリン様を大切にしているように見えますが、婚姻してからドレスなど贈られましたか?今キャスリン様がお召しの普段着は旦那様が用意しました。カイラン様は何をしているのです、トニーに言われなければわかりませんか?歩み寄ると言うわりには夫らしいことはしていません。少し夫を勉強したほうがよいのでは?」


言い返せないだろうな、夫として余りにも未熟。キャスリン様が言わなければわからないのか。


「カイラン様に話せるのはそのくらいです」


もうよろしいですか?と退室を願い出る。カイラン様は黙してしまった。漸く休みを頂いたのに…


「カイラン様には謝らねばなりません。セシリス様の行いに気づけず申し訳ありませんでした。私の能力不足です」


頭を下げる私にカイラン様は言葉を発する。


「気にするな、僕自身婚姻前まで忘れていた。子供ながらに母上は頭がおかしいとは思っていた」


退室の許可を頂きたい。


そこに執務室の扉を叩く音が聞こえる。トニーが開けるとアンナリアが私に火急の用があると伝えたようで、私は頭を下げ執務室から退室する。

珍しい、何かあったかとアンナリアに問う。


「大旦那様から旦那様に急ぎの手紙です」


これはよくない。旦那様が当主になられて今まで、大旦那様から急ぎの手紙など届いたことがない。内容が気になるが、主がお帰りになるまで保管しなければならない。


「届けた者は?」


急ぎならばゾルダークの者が直接早馬で届けたのだろう。アンナリアの後ろに続き話を聞きに行く。馬で急げば日が出ている間に辿り着ける。しかし、屈強な体を持ち休憩を入れず天気も良くなくては成せないが。その者は休ませるため使用人棟にある空き部屋へ案内されていた。疲れているところ悪いが話がしたい。


「ご苦労だったね。いつ向こうを出た?大旦那様の様子は?」


疲労困憊している男は寝台に腰掛け答える。


「昨日の朝に大旦那様から手紙を任され、それから直ぐに準備を、暗くなる迄に王都に入れず、馬も限界に。近くの宿を取り朝日と共に王都へ駆けました。大旦那様はいつもと変わらず過ごしていらっしゃいます」


休んでくれ、とソーマは告げ部屋を出る。

主が王宮から戻るまで、一刻と半時はかかかるだろう。





貴方の想いなど知りません

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