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【裕仁のターン】
付き合っている時期に彼女の両親へ挨拶に行く行為。本音を言えば行きたくない。
ゆめのことが好きだ。だからこそ付き合いを続けるにしろ結婚するにしろ両親と、特に父親と対峙することは必須である。避けて通れない強制イベントである。それは十分に理解しているが、会わなくて良いなら会いたくないものである。
これまで挨拶に行ったことはある。あるからこそあの独特な空気と緊張感を思い出して俺の足は震える。
当たり前だがどのお父さんも普通の人間だ。
もし会社やその辺で会ったりしてたら普通に挨拶して普通に接することが出来る自信はある。
だが、一度彼女の父親と言う称号を背負った瞬間、どんな冴えないおじさんでもとてつもない力を持った強者へとランクアップする。
並みの勇者じゃ敵わない最強の魔王といっても言いすぎではない存在。彼女の父親という称号を得た時点で、異世界になんていかなくても最強になれるチートスキルを手に入れたことになる。時期と対象が限定されるのがネックではあるが、勇者にさえ効果があればいいのである。
今回は「付き合ってます」って顔見せするのが目的だけど、これが「結婚させて下さい」とかだったら本当に殺されるんじゃないかと要らぬ想像をする。
今現在、ゆめと付き合って大体4ヶ月。1度顔を見せに行く、これで俺はゆめの両親にとって「謎の人物」から「彼氏の裕仁」へとランクアップ出来るわけだ。
この行為、ゆめと両親の為でもあるが今後の自分達の為でもある。
顔を知ってもらえれば今後旅行に行くとか、お泊まり時でもスムーズに行く。
そう言う打算が今回の挨拶に無いわけではない。したたかにいきる男、裕仁である。
そうは言っても会いに行くのは緊張するけど。
なので世の彼氏諸君は挨拶に行くことをオススメするよ。彼女に本気を見せるチャンスでもあるしね。
では現実に戻ろう。
***
「でどうかな? 俺だけで決めれることじゃないし、ゆめはどう思う?」
ゆめがうどんをくわえたまま目を丸くして俺を凝視している。とりあえず食べるように促してから落ち着かせる。
なんか今日はいつも以上にボーっとしている気がするけど、やっぱり体調悪いのかな。
挨拶の話するのは今日じゃなかっただろうか。
自分のことを優先したことに申し訳ない気持ちが芽生える。そんな俺をチラッと見たゆめが躊躇しながらゆっくりと口を開く。
「えっとね。ちょっと前にお母さんもひろくんに会いたいたいから連れて来なさいって言われたんだ。お父さんも気になるって言われてたから、話さなきゃって思ってたの」
水を飲んで落ち着いたゆめが言うには両親も会いたがってると言う。なんという偶然! タイミング的には丁度良さそうだ。
「私もひろくんをお母さんたちに紹介したい。だから私の方こそお願いします」
ゆめがペコリと頭を下げる。これで挨拶は決定、あとは日程の調整をすればいい。
とりあえず近々会いたいとゆめからお母さん達に伝えてもらうことをお願いしておく。
ホッとしたけど、同時に緊張感が増してきた。だがここで怖気づくわけにはいかない。ゆめとのこれからの日々を得るためにも成功させねばならない! 俺は気を引き締め残りのうどんをかみしめる。
このあとは町に出てまったりとデートを楽しんだ。挨拶に行くことが決まり、ゆめとの関係が一歩進んだ気がして嬉しい1日だった。
────────────────────
【夢弓のターン】
私こと夢弓は我が家のベットでゴロゴロしています。
ひろくんが会いたいと言ってる事をお母さん達に伝えたところ、お母さんはすごく喜んでくれたけど、お父さんはムスーーってしてた。怒ってるんじゃなくて拗ねてるって感じだと思うけど。
「はあ~」
本日何度目かのため息をつく。
挨拶に来てくれるってことはひろくんは真剣に私のことを思ってくれてるってことだよね。
私はこれで良いのかなぁ。ひろくんの誠実な行動を見ていると自分の不甲斐なさと、中途半端な見栄を張ったことに対して穴を掘って埋まりたくなる。
こんな私だけど仕事はちゃんと出来てると思う。だけど料理だけは苦手なんだよね。
不器用なのは前提にあるとして、台所に立つと、こう色んな事がぐるぐる回って気がつけば見た目も味も悪い料理が完成してしまう。
思えば高校1年の時に告白されて浮き足だった私は2日後の動物園デートにて張り切って作ったお弁当を持って行って
「何だよこれ……気持ちわるっ、嫌がらせかよ?」
って言われた時から自分の料理下手さは認識はしているんだよね。
下手くそな玉子焼きはもちろん、冷凍の唐揚げを解凍した後に落として、それを水道のお湯で洗って入れてぶよぶよにして、デザートがいるかもってチョコ入れたら溶けて、お弁当の中の食べ物がセルフでトッピングされてカオスなことに……
カオスなお弁当に感想をもらって、それでそのままそこでお別れとなる……
金曜日の放課後に告白されて日曜日のお昼で別れると言う驚きのスピードだった。
実質付き合って過ごした時間なんて移動を含めて4、5時間じゃなかろうか。
それ以来私は美味しく作ることに必死になった。料理本からネットなど様々なものを使い美味しいと言われるものを試したりして研究した。
だが元の不器用さも手伝って次々に不味いものを作り始める。
お母さんやお姉ちゃんに怒られ作る料理は益々方向性を見失い、そのうち何が美味しいか分からなくなる。
そして何よりも私は味覚に自信がない。チョコトッピングの唐揚げでも食べれない事はなかった。世間の人が美味しくないというものでも大体の物は食べれる自信がある。
不器用さ味音痴に加え、何か思い付いたらとりあえずやってしまう自分が嫌になる。
練習しても料理のスキルが上達することはなく、シーフードカレーを最後にお母さんから一人で料理することのストップがかかってしまった。
それでもこっそり練習してたけど怒られて段々やらなくなる。
そのうちたまに手伝いをするぐらいになってしまい今に至ってしまう。
この間もお母さんがカレーを作っているのを何度も見たことあるし、記憶の中では簡単そうだったから出来そうって思ったんだけど結局お姉ちゃんを頼ってしまった。
やっぱりダメなのかな。心が折れて泣きそうになってしまう。
それでもひろくんの為に作れるようになりたい。
だからやらなければいけないことがある。
***
次の日の朝、私は早く起きて台所の冷蔵庫を開けて献立を思案する。中にあるもので作るのが前提だ。
『食パン+鯖の切身+レタス』
と言ったところかな。食パンを半分に切って焼いた切身を挟む。ハンバーガー的な?
ハンバーガー……味はソース? いやケチャップかな? 食パンを半分に切ってトースターへ。
鯖を焼こうとするとパックに付いているラベルが目に入る。『塩』と書かれている。
塩+ケチャップ……塩が邪魔っぽい。
塩を落とすために鯖の切身を湯煎する。身が縮まる、1枚じゃ足りないかな? 2枚投入。
その後フライパンで焼く為に油を探すが見つからない。とりあえず冷蔵庫を開けて捜索を続ける。
すると冷蔵庫の隅に牛脂を発見する。牛脂の「脂」って「脂」て読めるから油の仲間なはず。牛脂をフライパンへ投入し湯煎した鯖を投入。鯖の身がフライパンにこびりつくのでヘラで剥がすが身がぼろぼろになってしまう。
この時点で中々にひどい匂いがしている。
もしかして牛脂と魚は合わない? 牛と魚は仲良くできないのかな? そんことを思いながら焼けた食パンにレタスを敷いてケチャップをかけ鯖を置いたらレタス、パンの順で挟む。
変な匂いがする……味音痴であっても匂いはちょっと気になる。少し食べてみる生臭い。魚と牛の油が混ざって口の中がベトベトする。これは味音痴の私でも不味いと思う。
そんな匂いにつられたのかお母さん達が起きてやってくる。
「ゆめ、あんた朝からなんしようとね? 二階まで酷い臭いのが匂うっちゃけど」
お母さんが鼻を押さえながら台所の様子を見ている。
「ねえお母さん、私料理出来ない」
「は? だから練習してるんじゃないの?」
「うん、そう。練習すればすぐにどうにかなると思ってた。でも今の私はおっちょこちょいで、直感的に考えてしまうし更に味音痴……」
お母さんがさっきまで眠そうにしてた目を大きくして心配そうに見ている。
「私分かった」
お母さんとお父様が心配そうに私の言葉を待っているのを感じる。
『私はメシマズだ!!』
「えっ?」
私の心からの叫びと渾身の告白……に対して両親の反応の薄いこと。
娘が悩みに悩んでその答え出し、打ち明けたと言うのに。
「え、あ、うん。そ、そだねぇ……」
そしてこのお母さんのなんとも言えない顔。
「更に決めました! 私はひろくんにこの秘密を打ち明ける!」
そう私は今ここで「メシマズ」宣言をする。一世一代の告白だ。
嫌われるかもしれない。
でもこのままじゃ駄目だ!
ひろくんは真剣に考えてくれている。私が偽るのは卑怯すぎる。
少し冷めた目で見る両親の元、私は決意する。本当の私をひろくんに見てもらうことを。
その日の夜、仕事が終わった私はひろくんに大切な話があること、直接会って話したいことを電話で伝えるのでした。
生臭いサバーガーですが私とお父さんで頑張って食べました。
お父さんには食べなくていいって言ったんだけどもったいないと言って必死に食べてくれました。……本当にごめんなさい。
#ほのぼの