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チャイムが鳴り、教室のざわめきが消えた。
放課後――まだ誰もいない教室に、善逸はひとり残っていた。
机の上で手を震わせ、心臓の音を抑えようと深呼吸する。
「……僕、本当に大丈夫かな…」
小さく呟き、視線を落とす。
そんな彼の背後で、音楽室の扉が開く音がした。
「遅いじゃねぇか、雷坊主。」
低く響く声に、善逸は思わず飛び上がった。
「ひぃっ!? せ、先生っ!! もう、びっくりさせないでくださいっ!」
宇髄天元が、手に楽譜を持って堂々と音楽室に入ってきた。
その姿は教室で見るよりさらにド派手で、金色の髪が光に輝く。
腕まくりのシャツから見える筋肉に、善逸は思わず目を逸らす。
「今日からここで、お前の“声の才能”を本気で引き出してやる。」
宇髄はそう言いながら、ピアノの前に腰を下ろす。
「せ、先生の指導…僕、音痴じゃないですけど、そんな…」
善逸は小さく震える声で言う。
「音痴じゃない? ならいい。だが、お前の声はまだ眠ってる。雷みたいに、ド派手に弾ける声を出すんだ。」
宇髄の言葉に、善逸は鼓動が早くなる。
「わ、わかりました……!」
意を決して声を出すと、思ったより小さくしか響かない。
「ほら、もっと胸から出せ! 怖がるな、心の中まで声に乗せろ!」
宇髄が隣に立ち、善逸の肩を軽く叩く。
その瞬間、善逸の顔が真っ赤になる。
「ひ、ひゃっ!? な、なにするんですかっ!? 触らないでくださいっ!!」
「触ってねぇよ、指導だ。」
宇髄は軽く笑い、ピアノの鍵盤に手を置く。
「さあ、最初の曲だ。リズムに合わせて、声を解放するんだ。」
善逸は震える手で楽譜を開き、ゆっくりと歌い始める。
声はまだ小さいが、徐々に胸から力が湧いてくるのを感じた。
宇髄は隣で優しく、しかし的確に指示を出す。
「その調子だ。もっと強く。お前の声には芯がある――出さないともったいない。」
善逸は頑張って声を伸ばすと、ふと気づく。
隣にいる宇髄が、ただの怖い先生じゃなく、自分の才能を信じてくれている存在に見える。
「せ、先生……ありがとうございます…」
小さく呟いたその言葉に、宇髄はにっこり笑った。
「礼はいい。次は笑顔も忘れるな。声は心に届くもんだからな。」
善逸はピアノの音に合わせて、少しずつ大きく、自由に声を出していった。
教室でのビビリな自分ではなく、先生と一緒に音を楽しむ自分。
胸の奥が熱く、心が少しずつ軽くなっていく。
「お前……なかなかやるじゃねぇか。」
宇髄の声に、善逸は思わず顔を上げる。
「ほんとですか!? 本当に僕、上手くなってますか!?」
「当たり前だ。俺と一緒なら、まだまだド派手にできるぞ。」
音楽室の窓から差し込む夕日が二人を包み、放課後の静かな空間に、ほんのり甘い空気が流れた。
こうして始まった、雷の少年とド派手教師の放課後特訓。
次第に、ただの生徒と先生の関係を超えた距離が、少しずつ縮まっていく――。