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今年の夏は観測史上最高の暑さになると、連日の天気予報で報じられていた。
その予報通り暑い日が続いていた7月下旬、私は大学病院を訪れていた。
ここはひなの乳糖不耐症を診ていただいていた病院だ。
「森勢さん、見えますか? ここに袋が見えますね。チカチカしているのが心臓。子宮内の妊娠で間違いありません。おめでとうございます」
先生がエコーの画面を私にも見えるように動かし、説明される。
心音も力強く聞こえている。
「ありがとうございます」
「では診察室の方でお話ししますね」
ひなの協力と子作り蜜月が続いた結果、コウノトリはちゃんと私たち家族の元へ赤ちゃんを連れてきてくれたらしい。
私は二人目を授かった。
現在妊娠七週目。予定日は3月上旬だそうだ。
「ここの小児科で娘を診ていただいていたので、できればこのままこちらで出産したいのですが」
二人目も乳糖不耐症とは限らないけど、小児科のことも含めて考えるなら、この大学病院で出産したいと思う。
「出産もこちらで希望ですね。わかりました」
診察が終わり、外来を出たところで後ろから年配の看護師さんが追いかけてきた。
「森勢さーん!」
「はい?」
「ごめんなさいね。そのファイルに処方箋を入れ忘れたの。はい、これ」
「あ、すみません! ありがとうございます」
「貧血が酷いので鉄剤は忘れずに飲んでね。もしその鉄剤で気分が悪くなるようなことがあれば外来に電話をください。他にも鉄剤はあるから無理しないで」
「はい、わかりました」
「つわりはある?」
「つわり……主に眠気ですね。朝は少し気持ち悪いですけど、嘔吐くほどではないです」
「そう。まあ二人目だものね。対処もわかるでしょう。上の子の抱っこはなるべく控えてね。じゃあお大事に」
「ありがとうございます」
私は処方箋が入ったファイルを手に1階の会計へと向かった。
二人目かー! まさか私が二人目を授かるとは。
シングルマザーだった期間があるだけに、今の幸せが信じられない。
鷹也、喜ぶかな? ひなもきっと喜ぶわね。
ひなの時もすっごく嬉しかったけど、今はこの喜びを分かち合える家族がいることが何より嬉しい。
家に帰ってから報告しようかな。それとも電話しちゃう?
そんなことを考えながら、会計窓口へ行くため下りエスカレーターに向かった。
エレベーター足を踏み入れた瞬間、後ろに気配を感じた。随分と近くに乗る人がいるのだな、と思った瞬間――。
「あんただけムカつくのよっ!」
「え?」
「死ね!」
ドンッ!!
私は、後ろから思いっきり突き飛ばされた。エスカレーターを下へ落ちる中、聞こえる声――。
「光希! やめろっ!」
キャー!!
うわっ!!
周りに居合わせた患者さんたちの悲鳴が聞こえる。
――――――そこで私の記憶は途絶えた。
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