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「……そうまでして、私のプライベートに干渉がしたいんですか?」
ハァと疲れたようにひと息を吐いて、低く声を落とし尋ねる彼に、
「息子が、母の言うことを聞くのは当然です」
もっともらしくそう口にすると、その人は空になったカップへ僅かな心の動きすらも見られない風で、手にしたティーポットから紅茶の一杯を淀みなく注ぎ入れた。
「まだ、そんなことを……。あなたは、私の母親なんかじゃない。
……誰も愛せない、ただのくだらない人間だ」
口をつけることもなく冷め切った紅茶へと目を落として、彼がそう吐き捨てる。
けれど──
「あなたは幼い頃から私の父である先代にも、言いつけには従うようにと言い聞かせられたはずでしょう」
彼のそんな切ない胸の内すら、全く聞き入れられることもなく、
「あなたも、元来医師の家系というコネクションがあるのですから、開業医などとわざわざリスクのかかる手段を選ばず、私のように勤務医に就けばよかったものを」
話題をすり替えるかのように苦言を呈して、わざとらしくため息をついて見せた。
「……私は、初めからあなたと同じ領域では、働きたくはなかったので……。
いくらリスクやコストがかかろうと、独立して開業医になるつもりでした……。
そして、それは……父も賛成をしてくれていたことです」
絞り出すように打ち明けられた、我が子であるはずの切ない心情さえも、
「あの人までがハイリスクな開業に賛同をしていたなど、信じられませんね。まったく甘いとしか……」
何ひとつ受け入れることもなく、ぶつぶつと自らの苛立ちだけを口にする母親に、
「あなたに言われる筋合いはない」
今度こそ親子の縁を断ち切る様な強い拒絶を示して、彼は一切の口をつぐんだ──。