テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第51話「エルフと暮らすと長生きするのか問題」
森野リリカの部屋。
午後八時四十分。
水原香織が聞いた。
「レオンと私が一緒に暮らしたら」
「……」
「私の寿命も延びる可能性があるんですか?」
森野。
答えられない。
神崎レオンも。
黙る。
相沢直人が。
キッチンから。
戻ってくる。
「まだ」
「分からないんですよね?」
森野。
「はい」
ようやく答える。
「分かっているのは」
「はい」
「アリアと百年以上暮らしている修一さんが」
「……」
「百二十五歳まで生きていること」
「はい」
「エリアスさんの昔の伴侶も」
「……」
「百十八歳まで生きたこと」
水原。
「二人だけ」
「そうです」
「それじゃ」
「偶然かもしれません」
「……」
「生活習慣かもしれない」
「はい」
「もともとの体質かもしれない」
「はい」
森野。
はっきり言う。
「だから」
「……」
「エルフと暮らせば長生きできるとは」
「絶対に言えません」
水原。
「そうですよね」
神崎が。
水原を見る。
「香織さん」
「何?」
「もし」
「うん」
「それが理由なら」
水原。
「何が?」
「私と暮らす理由が」
「……」
「長生きできるかもしれないからなら」
水原。
神崎の額を。
指で。
軽く叩く。
「痛い」
「馬鹿」
「……」
「そんな理由で」
水原。
「百四十七歳の面倒くさい男と暮らさない」
森野。
吹き出す。
神崎。
「面倒くさい?」
「面倒くさい」
「どこが?」
「昔の婚約者を六十八年引きずって」
森野。
「香織さん」
「何?」
「もっと言ってください」
神崎。
「リリカ」
水原。
「甘いもの買いすぎるし」
「それは関係ないでしょう」
「冷蔵庫にケーキ三個」
「三個くらい」
「一人暮らしで?」
「日持ちします」
森野。
「レオン」
「何です」
「それは多い」
「あなたに言われたくありません」
相沢。
「森野さんもプリン三個」
森野。
「私の話はしてません!」
水原。
笑う。
「私は」
神崎を見る。
「この人と暮らしたいから暮らす」
神崎。
耳。
赤。
「寿命は?」
「長くなったらラッキー」
「……」
「ならなくても」
少し間。
「それはそれ」
神崎の耳。
さらに赤くなる。
森野。
「レオン」
「何です」
「耳」
「見ないでください」
その夜。
四人。
夕食。
話題。
引っ越し。
家事。
家具。
生活費。
そして。
同棲経験三週間。
森野。
先輩面。
「プリンには名前を書いたほうがいいです」
相沢。
「それ一番?」
「重要です」
水原。
「レオン、勝手に食べそう」
神崎。
「食べません」
森野。
「この人、昔から甘いものには弱いです」
神崎。
「百年前の話をしないでください」
水原。
「聞きたい」
神崎。
「香織さん」
森野。
「昔」
「リリカ」
「レオンが」
「やめなさい」
「お祭りでもらった飴を」
神崎。
「やめろ」
全員。
止まる。
神崎。
停止。
森野。
「今」
相沢。
「言葉遣い」
水原。
「やめろ?」
神崎。
耳。
真っ赤。
「……」
森野。
爆笑。
「百年ぶりに聞いた!」
神崎。
「帰ります!」
翌日。
大学病院。
研究協力検討委員会。
森野。
高橋。
月島。
神崎。
アリア。
エリアス。
議題。
『エルフとの長期共同生活と人間の寿命』
高橋が言う。
「このテーマは」
「はい」
「非常に慎重に扱う必要があります」
森野。
「なぜ?」
「もし」
高橋。
資料を置く。
「エルフと暮らすことで人間が長生きする」
「……」
「そんな情報だけが」
「……」
「先に社会へ出たら」
森野。
理解する。
「まずいですね」
「はい」
月島。
「エルフと交際したい人が増える?」
高橋。
「可能性があります」
神崎。
「恋愛目的ではなく」
「長寿目的」
「はい」
アリア。
「嫌ね」
森野。
「ものすごく嫌です」
高橋。
「さらに」
「はい」
「企業」
「……」
「研究機関」
「……」
「富裕層」
森野の表情。
変わる。
高橋。
「エルフの身体的特徴に」
「商業的な価値を見いだす人が」
「現れる可能性があります」
沈黙。
エリアス。
画面。
『だからこそ』
全員。
見る。
『今は』
『外へ出すべき情報ではありません』
森野。
「隠す?」
『違います』
エリアス。
『確認できていないことを』
『事実のように発表しない』
森野。
「……」
『科学として』
『当たり前のことです』
高橋。
「同意します」
研究。
次の段階。
エルフと。
長期間暮らした人間。
過去の記録。
匿名。
本人または遺族の同意が得られるものだけ。
調べる。
結果。
一か月。
二か月。
少しずつ。
事例。
集まる。
三十二年間。
エルフと暮らした人間。
死亡年齢。
八十九。
四十一年間。
九十四。
五十五年間。
百一。
二十八年間。
八十六。
ばらばら。
森野。
「やっぱり」
高橋。
「はい」
「分かりませんね」
「分かりません」
明確な法則。
見つからない。
森野。
少し。
安心する。
なぜか。
相沢。
「安心した?」
帰宅後。
聞く。
森野。
「少し」
「長生きしてほしいんじゃないの?」
「してほしいです」
「じゃあ何で?」
森野。
考える。
「私と一緒にいることで」
「うん」
「あなたの身体が変わる」
「……」
「そういうの」
「うん」
「少し怖いです」
相沢。
「そっか」
「私と付き合うことに」
「うん」
「特殊な意味が増えるのが嫌」
相沢。
「俺は」
「はい」
「もう十分特殊だけど」
森野。
「何が?」
「彼女百四十三歳」
「年齢は関係ありません」
「耳長い」
「個性です」
「元婚約者百四十七歳」
「過去です」
「母親二百九十一歳」
「母です」
「友達八百十二歳」
森野。
「エリアスさんは友達というより長老です」
相沢。
笑う。
森野も。
笑う。
そして。
相沢。
「でも」
「はい」
「俺が森野さんといる理由は」
「……」
「長生きじゃないよ」
森野。
「知ってます」
耳。
動かない。
一週間後。
高橋から。
新しい連絡。
『森野さん』
「はい」
『少し』
「何ですか?」
『方向が変わるかもしれません』
森野。
「どういう意味ですか」
『修一さんの追加検査で』
「はい」
『気になる結果が出ました』
大学病院。
会議室。
修一。
アリア。
ユウ。
森野。
高橋。
高橋。
資料。
「修一さん」
「はい」
「以前」
「はい」
「七十代後半から」
「老化関連指標に変化が出たと」
「はい」
「説明しました」
修一。
「覚えてます」
高橋。
「さらに昔の記録を」
「……」
「確認しました」
アリア。
「それで?」
高橋。
「変化が始まった時期」
資料。
指す。
「おそらく」
「……」
「今から五十二年前から」
「五十年前?」
アリア。
考える。
修一。
当時。
七十三歳。
アリア。
百歳。
森野。
九十一歳。
高橋。
「その時期」
「何か」
「生活上の大きな変化は?」
修一。
考える。
「特には」
アリア。
「引っ越した?」
「その少し前」
「仕事?」
「退職したのは後」
ユウ。
「僕はまだ生まれてない」
「そうね」
沈黙。
アリア。
突然。
「あ」
森野。
「何?」
アリア。
修一を見る。
「あなた」
「何?」
「五十二年前」
「うん」
「倒れた」
修一。
「……」
「肺炎」
修一。
「ああ」
アリア。
「かなり危なかった」
高橋。
「肺炎?」
「はい」
「入院?」
「一か月くらい」
修一。
「医者に」
笑う。
「覚悟してくださいと言われた」
高橋。
資料。
確認。
「記録があります」
森野。
「それが関係する?」
高橋。
「分かりません」
アリア。
「でも」
「はい」
「そのとき」
止まる。
森野。
「何?」
アリア。
「私」
「うん」
「ずっと病院にいた」
修一。
「毎日来てたね」
「うん」
「ほとんど寝てなかった」
森野。
「それは」
アリア。
「あと」
何か。
思い出す。
「……」
高橋。
「何です?」
アリア。
「昔のエルフの習慣」
森野の表情。
変わる。
「アリア」
「リリカ」
二人。
見る。
相沢には。
まだ。
話したことがない。
エルフの。
古い習慣。
森野。
「まさか」
アリア。
「やった」
高橋。
「何を?」
アリア。
少し迷う。
「エルフには」
「はい」
「昔」
「……」
「重い病気になった家族に」
「……」
「自分の血を」
高橋。
表情。
変わる。
「輸血した?」
「違います」
アリア。
自分の指先を見る。
「ほんの一滴」
「……」
「口に含ませる習慣があったんです」
森野。
「今は禁止されてます」
高橋。
「なぜ?」
森野。
「迷信だからです」
アリア。
「長生きのおまじない」
修一。
「ああ」
笑う。
「思い出した」
森野。
「修一さん?」
「苦かった」
アリア。
「血なんだから当たり前でしょ」
高橋。
笑わない。
「一滴?」
「はい」
「本当に?」
「本当です」
「それ以外は?」
「ありません」
高橋。
長く。
黙る。
森野。
「先生」
「はい」
「まさか」
「分かりません」
高橋。
すぐ言う。
「一滴の血液で」
「人間の老化速度が変わる」
「そんなことは」
「現段階では」
「到底言えません」
森野。
「ですよね」
「ただ」
高橋。
資料を見る。
「確認する必要はあります」
森野。
嫌な予感。
その日の夜。
エルフ緊急会議。
榊原。
顔。
険しい。
『その習慣について』
『外部には』
『絶対に話さないでください』
森野。
「でも」
『森野』
「はい」
『昔』
榊原が言う。
『その迷信のために』
『エルフが狙われた時代があります』
森野。
黙る。
相沢は。
隣。
初めて聞く。
榊原。
『エルフの血を飲めば』
『寿命が延びる』
『若返る』
『病気が治る』
『そんな話が』
『何度も人間社会に広がった』
森野。
「だから」
『はい』
「私たちは」
『隠れるようになった理由の』
『一つです』
部屋。
静か。
森野は。
自分の腕を見る。
初めて。
耳を隠していた理由より。
もっと古い。
エルフたちが。
存在そのものを隠してきた理由。
そこへ。
高橋から。
メッセージ。
『研究チーム内から、この件について外部照会がありました』
森野。
読む。
顔色。
変わる。
相沢。
「どうした?」
森野。
スマートフォンを見せる。
次の一文。
『情報がどこかから漏れている可能性があります』
森野の耳が。
ゆっくり。
下がった。
今までとは。
違う問題が。
始まろうとしていた。
コメント
1件
うわ、これはまたとんでもない展開になってきた……! 前半の水原さんと神崎さんの甘いやりとりで和んだのに、後半で一気に世界観の根幹に触れる話に。エルフの血を一滴飲ませるおまじない、そしてそれが「狙われた歴史」に繋がるっていうのがゾッとしたよ。森野さんの耳が下がる描写、すごく胸にきた。ただのラブコメじゃない物語の奥行きを感じた回でした。続きが気になる……!