「あつい〜〜〜〜…」
あれから二ヶ月ほど経ち、季節は七月。制服は夏服に変わった。それにしても暑い。
居酒屋の2階でこさめは机に突っ伏していた。「can we jazz?」の譜面には、水色の字で様々な書き込みがしてある。この曲のこさめはあざと可愛いキャラを演じる。“全力で可愛く!”“ファルセット意識!”全て黒羽による書き込みだ。字が綺麗なので読みやすい。
「エアコン27度やけど…?」
黒羽が心配そうにこさめの顔を覗き込む。熱があるんとちゃうん?と額に手を当てられる。ひんやりとした黒羽の手の皮膚は、おもったよりも堅かった。
「こさめちゃ〜〜〜〜ん……おでこ熱いねぇ…」
黒羽は冷蔵庫から何かを取り出し、こさめの前髪をガッとオールバックにした。
「…?」
意識が薄くなっていく。急に額に冷たいものが貼られた。黒羽が冷えピタを貼ったのだ。
「…つめたいぃ〜〜〜…」
急速に頭が冷える。机に置いてある麦茶を飲む。
「熱中症かなぁ…」
今他のメンバーは一階で昼食を摂っている。こさめは食欲が湧かなかったので、二階で待機していた。
「もしかして昨日、夜更かしでもしたんか?」
黒羽は優しくこさめの髪を撫でながら尋ねた。こさめは弱々しく頷いた。
「レポートがあって…」
「そっか、頑張ったんやな。でも、ちゃんと休まなあかんで。今日はもう練習せんでもええから、ゆっくり休んどき」
黒羽の言葉に、こさめは安心したように微笑んだ。冷えピタのおかげで少し楽になった気がする。
「ありがとうございます…先輩…」
「なんもないよ、元気になってくれたらそれでええんや」
黒羽はニッコリと笑い、冷蔵庫から冷たいタオルも取り出してこさめの首に巻いてやった。
「これで少しは涼しいやろ?」
「うん、涼しい…」
「よかった。ほんま、無理せんといてな。みんなも心配してるし」
その時、階下から皆の声が聞こえてきた。どうやら昼食を終えて戻ってきたようだ。
「こさめ、大丈夫?」
LANが階段を上がりながら尋ねた。
「うん、大丈夫…」
「よかった。無理せんと、今日はゆっくりしとき」
皆が心配そうにこさめを見つめる中、黒羽は彼らに向かって頷いた。
「さあ、今日はちょっと早めに解散にしようか。こさめも休んで、また元気になったら一緒に練習しよ」
その言葉に、皆は安心したように微笑んだ。
「こさめちゃん歩ける?」
黒羽はこさめの背中をさすりながら言った。こさめはぐったりと机に突っ伏し、他メンバーは心配そうに見つめていた。
「…怠い…しぬぅ〜〜…」
「うち泊まってくか?」
黒羽の提案にこさめはゆっくりと頷いた。
「じゃあ他メンは先帰っててええよー」
そういうと他メンバーは心配そうに去っていった。
「ほんま、大丈夫か?歩けるか?」
黒羽はこさめを優しく抱き起こしながら尋ねた。こさめは力なく頷き、ゆっくりと立ち上がった。
「よし、無理せんと、ゆっくり歩こうな」
黒羽はこさめを支えながら、一歩ずつ慎重に階段を降りていった。涼しい夜風が心地よく、少しだけこさめの体温を下げてくれるように感じた。
「お疲れさん。あとちょっとやからな」
黒羽の声に励まされながら、こさめは一歩ずつ進んだ。やがて居酒屋を出て、夜の街へと足を踏み出した。
「さあ、うちまであと少しやで」
黒羽の家は居酒屋の隣にあった。二人はゆっくりと歩きながら、夜の静けさを楽しんだ。
「夜風が気持ちいいね」
黒羽は夜空を見上げながら言った。。
「ちょっとは楽になったか?」
「うん、ありがとうございます…」
「ええんやで。先輩やねんから。」
黒羽の優しい笑顔に、こさめはほっとした気持ちになった。やがて黒羽の家に到着し、こさめはベッドに横たわった。
「ゆっくり休んどき。明日は元気になるからな」
「うん…おやすみ、先輩」
「おやすみ、こさめ」
黒羽はこさめの髪を優しく撫でながら、そっと部屋を後にした。夜の静けさの中、こさめはゆっくりと眠りに落ちていった。
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