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──無限城、最深部。
闇の中にうごめく、数えきれない腕と脈動する肉壁。
空間が歪み、時間が削れるような気配。
その中心に、鬼舞辻無惨は立っていた。
凩 侃は、無惨の正面に立つ。
全身に深い傷を負いながらも、刃を握る手はぶれていない。
その剣先は、風のように静かで、凛としていた。
「また一人……柱か」
無惨が嘲るように呟く。
「君たちは、何を望んでここに来る? 死か? 栄光か?」
「望んでるのは、誰かの未来だ」
侃の声は、静かに響いた。
「俺の命と引き換えでもいい。
ここでお前の動きを止めれば、誰かが“決める”」
「滑稽だな。命を燃やして死ぬことが、人間の“強さ”だとでも?」
侃は、わずかに笑った。
「違う。“繋ぐこと”だ」
⸻
――戦闘、開幕。
無惨の攻撃は、数千の手と鞭のような血肉が混じり、絶え間なく襲いかかる。
侃はそれらすべてを見切るのではなく、“風のように受け流す”。
「霜風の呼吸・伍ノ型――『凍霞(いてがすみ)の乱』!!」
空間を凍らせるような斬撃が、無惨の触手を“鈍らせ”、一瞬の静寂を生む。
そこに──義勇、伊黒、実弥らが突入。
「今だ!!」
炭治郎が無惨の背後に回り、ヒノカミ神楽を放つ。
だが、その直後。
無惨の反撃。
すべてを吹き飛ばすかのような爆発的な血鬼術が、周囲を薙ぎ払う。
侃は、それを見た。
炭治郎に向けて飛ぶ一撃。
間に合わない。
──だから、迷わなかった。
「……このために、来たんだ」
⸻
身体が裂ける音。
刺さる感触。
吐血。
視界が霞む。
だが、その一撃を──凩 侃が、受けた。
「な……っ、凩さん! 、凩さん!!」
炭治郎が叫ぶ。
「……お前が、生きろ」
侃は微笑んだ。
⸻
時間が止まるような刹那、
彼は夢を見る。
雪。
あの日、救ってくれた男の姿。
猗窩座が、子供の自分に手を差し伸べていた。
でも──今は違う。
自分が、誰かに手を伸ばしている。
(ようやく……届いた……)
⸻
最後の一撃。
己の命を霜のように絞り出し、
無惨の再生核に向けて振り抜く。
「……霜風の呼吸・終極ノ型――“凛月・断章 終ノ響(しゅうのひびき)”」
無惨の動きが、止まる。
再生が一瞬だけ、間に合わなかった。
その隙が――決定的な“勝機”となった。
⸻
夜明け。
鬼舞辻無惨は、消滅した。
戦いは、終わった。
だが、侃の姿はそこにはなかった。
血の跡も、残っていない。
風だけが、吹いていた。
⸻
数日後。
凩 侃の刀が本部に戻された。
鍔は割れ、鞘は凍り、柄には小さな札が結ばれていた。
「俺の剣が、誰かを守れていたなら──それだけでいい」
「凛柱として、最後まで生きられて幸せだった」
⸻
柱たちは黙して語らず。
だが皆、こう語る。
「彼の命が、勝利を繋いだ」と。
そして──
「最期の一太刀は、まるで月が凍てつく音のようだった」と。
⸻
― 完 ―
『凩 侃、最後の選択』