🌸「ここで合ってるかな。」
そしてデート当日、おれは紙に書いてあった通りの場所に来ていた。
念の為、護身用のナイフは持ってきているけど。
運が良ければ今日殺せる。
最悪殺せなくてもチャンスはまだあるし、何か情報を得ることができるかもしれない。
ここまで相手を探るのは少し癪に触るが、今回ばかりは仕方ないだろう。
慎重に、少しずつ弱点を見つけていけば良い。
そんなことを考えながら、彼を待っていた。
モブ「ねぇ君。ここで何してんの?」
知らない男の人に声をかけられた。
身長のこともあって、おれを女の子とでも思ったんだろう。
哀れな人だな。
思ったことはたったそれだけで、おれはその人を無視した。
モブ「ちょっとぉー。無視するとか酷くなーい?」
男の人は親そうに、おれの肩に腕を置いてきた。
…この人、かなりめんどくさいタイプかもしれない。
本来、蹴り飛ばせば一瞬で片付くんだろうけど、こんなに周りに人がいる中、騒ぎを起こすのもあとでめんどくさくなるだけだ。
それじゃあどう対処しようかな。
そんなことを呑気に考えていた頃、わざとらしい大きな足音が聞こえた。
🌟「…遅れちゃってごめんね。じゃあ行こっかーって、あれー?笑」
今着いたのか、彼はおれたちを見るなり、明らかにわざとらしくそう言った。
モブ「あぁなんだ、彼氏さんいたんだ。てっきり彼女さんフリーかと思ったわ。」
🌟「へぇ。それは残念だったね。”彼”は僕だけの彼女だよ。」
モブ「…え、彼って、。」
🌸「勘違いしないでくんない?おれ、これでも男だから。」
それと、そもそも付き合ってないし。
そう訂正を入れようと思ったけど、今の状況的には否定も肯定もしない方が、楽に対処できる気がしてやめた。
モブ「…出直してくる、」
🌟「行ってらっしゃい、もう来んな。」
その男の人は、慌ただしくどこか遠くへ走り去って行った。
🌟「あーあ、一発殴りたかったな。」
🌸「騒ぎになるからやめて。」
🌟「それはそうなんだけどさー。…あれ、全身真っ黒じゃん、笑」
突然彼が言い出したのは、きっと服装のことなんだろう。
プライベートだからとはいえ、私服などのちょっとした情報でもマフィアからすると渡したくない。
でもそれは相手もそうみたいで、彼も上から下まで、全身真っ黒だった。
おまけにサングラスまでかけてある。
彼の青い瞳は光に弱い。だからサングラスをかけているのかな。
もしそうだとしたら、おれの推測も割と当たっているかもしれない。
🌟「…それはそうと、お店の中に入ろうか。」
ようやくおれたちは、目の前の立派なご飯屋さんの中に入った。
🌟「何が食べたい?」
🌸「…どれでも良いけど…、これにする。」
おれが選んだのは日替わりのメニュー。
本当にどれでも良かったし、これならおれの好物だって分からないだろう。
🌟「警戒心丸出しなの、かわいーね。」
🌸「…それはどういう意味。」
🌟「そのままの意味だよ。だって好物を知られないためにそれにしたんでしょ?」
🌸「それはどうかな。」
やっぱりこの人、察する能力が高い。
この前もそうだけど、彼は相手が何を考えているのか、まるで占い師のように当てる。
おれは人が次に行動することを考えたりすることはあるけど、何を考えてるかなんて察したりはしない。
相手が次にする行動を察するか、考えていることを察する、どちらの方がマフィアにとって平均的に役立つかといえば、きっと前者なんだと思う。
だから、彼のこの優れた能力は、戦いの場に置いてはあまり役には立たない。
…でも、この状況では優位に働く。
だって今は戦いではない、相手を探る段階だ。
きっとおれは、彼にどんどんおれの情報を渡してしまうのだろう。
そして彼は何を思ったのか、ニヤリと笑った。
おれがこれまで考えていたことを、彼が全て察することができていたのなら、なんて人間味がないことなのだろう。
🌸「…で、何頼むの。」
まだ決めていなかった彼に、そう問いかける。
🌟「どれが良いと思う?」
🌸「さぁ。どれでも美味しいんじゃないの。」
🌟「それはそうなんだけどね。…あ、このステーキにしようかな。」
🌸「…注文決まったし、店員さん呼ぶから。」
🌟「うん。ありがとう。」
そうしてようやく店員さんを呼んだ。
店員「ご注文は以上ですか?」
🌟「はい、大丈夫です。」
店員「では、ごゆっくりどうぞ!」
注文が終わって、あとは料理を待つだけになった。
机には空のコップ二つと水の入ったポット、箸やフォークなどが入った容器だけ。
おれはそこに置いてあったコップに水を注いだ。
🌸「はい。」
🌟「…え、良いの?」
🌸「何のためにおれが二つ水を注いだと思ってるの。…毒も入ってないから。」
🌟「…ありがとう、助かるわ。」
彼はおれに、ふわりと微笑んだ。
その姿が少しだけ、本当に少しだけ可愛く見えた。
🌟「さくらって、気配りができるよね。」
🌸「…何急に。」
🌟「店で見てた時から思ってた。相手のことを考えて行動できてて偉いなって。」
🌸「別に、。」
普段そんな風に言われることが無いから、少し顔が赤くなってしまう。それを隠すようにおれはそっぽを向いた。
彼の考えていることが全く読めない。
どうして敵を褒めるのか。
それにどうして彼はそこまでおれに警戒心が無いのか。
そんな疑問が頭の中でぐるぐると回る。
だけど答えは一向に出てこない。
そうこう考えていると、自然と沈黙が続いた。
店員「お待たせ致しました、こちらご注文の品です!」
この少しの間の沈黙を破ったのは、おれでも彼でも無く、店員さんだった。
🌟「ありがとうございます、めっちゃ美味しそう、笑」
店員「それは良かったです笑、こちら熱いので、お気を付けてお食べ下さいね!」
店員さんはにこやかにそう言うと、そそくさと去って行った。
🌟「食べよっか。」
🌸「うん。いただきます。」
そう呟いてご飯を口に運ぶと、彼はもう一度おれに微笑んだ。
だけど、その意図がおれには全く分からない。
彼は謎の行動をすることが多い。
おれは気にせずご飯を口に放り込んだ。
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