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えれめんたる
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いつからだろう。いないはずの者が見えるのは。
私が住む場所には、大きな神社がある。とても大きく、色鮮やかな、いや、不気味と言ってもいいほどの赤色を放つ桜が目印の神社だ。不気味サクラなんて言う人もいたり、血ザクラなんて言う者もいる。そんなせいか、ざくろ神社という名前である。
それは、夕暮れの赤で辺りが染まるような日だった。大学の帰りによくざくろ神社を通るのだが、今日は何かが違う気がした。 ふと思い、パッと顔を上げて神社に繋がる階段を見ると、狐面に白衣、紫色の袴を着て、白髪を一括りにした男性が立っている。この神社に、こんな人はいただろうか?私は不思議に思い、彼から目が離せずにいた。すると、ゆっくりと首が動き、狐面越しにだが彼と目が合った気がする。
サァーッと音を立てるように風が吹き、ざくろ色の花びらが舞う。あまりの風の強さに一瞬目を瞑るが、開けた時には先ほど確かに居たであろう狐面の彼はどこにも見当たらない。夢?いやそんなはずはない、しかし、確証も無いためその場を後にし、夕暮れで染まる道を帰る。
ピピピッ、ピピピッ、ピーッ。何度も目覚まし時計の音が鳴る。煩わしさを感じながら、ベッドから体を起こして支度をする。
昨日の不思議な体験を思い出しながら朝食を摂り終えて、通い慣れた大学の道を進む。あれはなんだったんだろうか。そんなことを考えていると、あの赤い桜が見えてくる。今日もいるかもしれない。神社の前に通りかかり、あの階段を見上げたが、昨日の彼の姿は見えず、ただ赤い桜が乱れるように咲いている。
いつもの窓側の席に着き、講義を受けながらも神社での光景が忘れられない。彼は誰なんだろう、なんだったのだろう。一日中、狐面の彼の姿そしてざくろ神社に咲くあの桜が忘れられず、とうとう帰宅時間になり、自然と神社の前で足が止まる。階段に居た彼は今日もいない。しかし、彼への興味が収まらず一段また一段、赤いカーペットを敷いているような花びらが敷き詰められた階段を上る。上り終えると、境内の中は広く、本殿が目の前に立っている。赤い桜は次から次へと、散っていくが、まったくと言っていいほど咲き終わることを知らない。そんな光景が目から離れずしばらく眺めていると、木の下で何かが動いたように見えた。
「 こんにちは。この神社に参拝客なんて珍しいなぁ。」
狐面の彼は木の影から姿を露わにしてそう言いながら、近づいてくる。
「あ、こ、こんにちは。神主さんですか?」
私は咄嗟に彼に聞く。
「まぁ、そんなところかな。君、昨日もここに来たでしょ。」
「は、はい。き、気づいてたんですね。」
私がそう言うと、彼は狐面の下からクスクス笑って、まぁね、君のことずっと見てたから、なんて少し不気味なことを言ってくる。彼の言うずっととは、あの日の目があった瞬間のことなのだろうか、それとももっとずっと前からのことを言っているのだろうか。そんなことを考えているうちにも彼は目の前から消えており、いつの間にか本殿から手招きをしている。
「あ、あの、ここを一人で管理しているんですか?」
「そうだよ。僕しか管理できないからね。」
と彼は答えて、なぜか楽しそうに笑っている。
「えっと、お名前を聞いてもいいですか?」
「うーん、僕のことはキツネって呼んでいいよ、可愛いお嬢さん、ふふ」
彼はクツクツ仮面の下から笑いながらそう言い、彼のお嬢さん、という言葉に言われ慣れていないため恥ずかしくなる。彼はそんな私の様子を見てさらに笑って、私の髪についた赤い花びらを白く長い指で取り去った。
「キ、キツネさん、あ、あの桜はなんであんなに赤いんですか?」
私は必死に紅潮した顔を隠すために、顔を桜の方に向け話を逸らす。
「あれはね、たくさんの人間の血を吸って育ったからだよ、真っ赤な花で綺麗でしょ?君の頬みたいだね、ふふ」
彼の言葉に一瞬凍りつく。
「じ、冗談ですよね?」
狐面で読み取れない表情がさらに先ほどの言葉を恐ろしくさせ、ドキドキと脈を打ちながら聞く。
「ふふ、怖がらせちゃったね。ごめんね、ただの言い伝え。昔の人は、異なっているものや変わったものを見るとなんでも悪く言っちゃうところあるでしょ?ただのちょっと色素の強い桜だよ」
それを聞き、胸を撫で下ろし安心する。どうやら、キツネさんの話を聞いてみると、この桜の木やその周りでたくさんの人が死んだようだ。ある時代では、客に裏切られた遊女が首を吊ったり、別な時代では武士が自らの腹を切り無念のなか死んで行ったり、はたまた戦争時代では、この木の下で自決する者が多かったと言う。
「そ、そんなことがあったんですね。で、でも本当なんですか?」
「ふふ、本当だよ。なーんて言ったらまた怖がらせちゃうかな、でもね、嘘とも言い切れないよね。」
キツネさんが嘘とは言い切れない、と言った瞬間、桜の木が答えるようにさらに赤くまるで血のように染まった気がした。
「さあ、お嬢さん、暗くなってきたよ。今日はもう帰ったほうがいい。あまり暗くなると、良くないものを引き寄せるからね。」
といつもの調子で笑って言うが、彼の言葉に引っかかる。よくないもの?なんのことだろう、ストーカーとか?と思って聞き返そうとして、彼の方向へ振り向くと、キツネさんは居なかった。