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テラーノベル(Teller Novel)
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燃え盛る、破壊された街で話し声が聞こえる。


――――――何でこんな事をするんだ…

「何でって、逃げ回るお前にはここまでしないと分からないだろう」

リンドは関係ないだろ…!

「お前と関係ある限りあるだろう?お前のせいでこうなったんだよ!分かるか?惨めだなぁ、ハハハハハッ!」

殺してやる…絶対に…

俺が死ぬまで………絶対に!!!!!!


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


メイドの不器用な旅路


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




――春。

出会いと別れの季節。

あたたかくてどこか落ち着くこの季節。

そんな日に、私は小さい頃からの夢の初仕事へ赴こうとしていた。

掃除用具を鞄に詰め、スカーフのような体毛を手入れし外へ出る。

家の前で、改めて予定表の手帳を確認する。

XX月XX日の午前10時、種族はフライゴンのファルって人の家へ向かう…

よし、覚えた。

自分の家がある街を抜け、丘の上になる小さな家の前に立ち止まる。

看板には確かに「ファル」と書いてある。

…準備として、深呼吸を1回。

どこか朽ちたような扉に2回ノックをする。

重い扉を開けるのに苦労しながらも、扉がギギ~…という音を鳴らし部屋に入る。

そして、挨拶を。

チーノ「どうも!依頼を受けたトリノタウンポケモンメイド社、チラチーノのチーノです!」

チーノ「掃除の依頼を承っております!」

ファル「あー、お前がポケモンメイドの?じゃあ早速掃除してよ!この家汚くて嫌になってたんだよねぇ」

チーノは、フライゴンの「ファル」の態度に不満を感じながらも、仕事なので素直に返事をする。

チーノ「……はい、ではお邪魔しますご主人様!」

チーノ「まず掃除の必要がある場所を教えていただ…き…!?」

ファルの家の中に入ってみると、それはもう地獄絵図のようなものだった。

部屋内には50…いや60、だろうか。狭い家なのにとんでもない量のゴミ袋が積んである。

さらに汚れのせいか、壁が不自然に灰色になっていて、床にもシミや油汚れがついている。

まるで何十年も掃除していないかのようだ。

チーノ「なに…これ…」

驚きのあまり”なにこれ”という言葉が口から飛び出す。普通に失礼である。

ファル「俺、掃除苦手でさ~」

チーノ「(苦手ってレベルじゃないような…)」

チーノ「と、とりあえずゴミ袋から片付けますね~」

持ってきた台車にゴミ袋を乗せ始める。だがここである事に気付く…

チーノ「…ゴミの分別ってなされてます?」

ファル「ブンベツ?」

チーノ「……なんでもないです」

なんとゴミ袋には分別がなされていなかった。

何十個もあるゴミ袋を分別して捨てる作業を繰り返すのは、流石に気がおかしくなりそうだ。

夢の初仕事が散々である。

チーノ「(だけど私はめげない…私は負けない!)」

チーノ「まずゴミ袋から掃除しますね!」

ファル「ああ」

気合でどんどんゴミを捌いていく。そして持ってきた台車に詰め込む。

そして、わずかな時間で分別&ゴミ捨てを終える。

チーノ「次!床!」

床の厚い油汚れにギロリと目を向ける。

…試しに水拭きしてみるが、まるで効いていない。

これは薬品を使っても十中八九取れない気がする……

そこで、チーノは自らのスカーフのような毛で汚れをふき取る。

すると、魔法のようにみるみる汚れが取れていく。

チーノ「よし、行ける!」

チラチーノの体毛から出る脂は、汚れを絡めとる成分が入っているのだ。

また、毛の繊維自体も汚れを絡み取りやすい。

そして床も掃除をし終える。

チーノ「次は…」

次は壁、と言おうとしたところでポンポンと肩を叩かれる。

ファル「まだやんのか?もう昼メシの時間だぜ」

はっ、と時計に目をやる。

いつの間にかもう2時前だ。床の掃除で時間を食ってしまったのだろうか。

ファル「昼メシは俺が作るぜ」

チーノ「そんな、申し訳な…」

今気付いたが、メイドならばご飯を作ってやるのが普通なのだろうか。

「手伝います」と言おうとした時にはファルは既に調理に取り掛かっていた。

なんだか近寄りがたいし、チーノはスカーフ体毛を洗って素直に待つ事にした。


ファル「完成だ!」

そう声が響くと同時に机に置かれてきたラーメンは、とても美味しそうとは言えないものだった。


チーノ「いただきます…」

割りばしを割って、麺を頬張る。

チーノ「………」

ファル「どうだ?」

チーノ「……失礼ですが…美味しくないです」

ファル「はっはっ!だろうな」

チーノ「それに何…?入ってる麺も具材も市販のものより不味く感じるのですけど」

ファル「全部自家栽培だからだよ」

チーノ「自家…えっ!?」

ファルはゆっくり立ち歩いて言う。

ファル「食材も料理も困りごともなるべく自分で完結して生きていきたいんだよ、俺は」

チーノ「はぁ…なのに掃除は苦手でメイドを呼ぶの?」

ファル「うるせー!苦手なもんは苦手だ」

ファル「んで、敬語は?」

チーノ「(ビクッ)……いいでしょ、もう」

チーノ「にしても、食材くらい買いに行っても良いんじゃないの?」

ファル「嫌だよ!」

ファル「……何より…面倒事が起きかねないからな」

ファルは壁をじっと見る。

チーノ「?」


ボゴォォォォン!!!

チーノ「ひゃあぁぁぁぁぁ!?!?!?」

ファルが見ていた壁に突然大きな穴が開いたかと思えば、穴に人影が立っている。

確かあの種族は…ズルズキン!

ズルズキン「報酬はいくらになるかな…」

ズルズキンが、チーノを目掛けて襲い掛かる。

チーノ「ヒィィィィィ!!!」

これ絶対死――――――

ドゴォン!!

チーノ「うぅ…あれ?」

生きている…と思えば、なぜか自分は今上空にいる。

ファル「あ~あ、壁の修理代も頼まねーとな」

チーノ「ファル……………さん!?」

ファル「落ちるなよ、お前」

ズルズキンが殴る前にファルがチーノを背中に乗せ、壁の穴から上空に飛んでいったのだ。

ズルズキン「ッチ…絶対仕留めたと思ったんだがな」

ファル「昼メシ邪魔すんなよなドブ野郎」

ズルズキン「ゴチャゴチャうっせーんだよモブが…モブはモブらしく勝手に死んどけ」

ズルズキン「”とびはねる”!」

ファル 「うお」

攻撃を間一髪で躱す。

チーノ 「(というか、なんでこの人たちは襲ってきて、ファル…さんはこんな冷静なの!?)」

ズルズキン「…? …!!」

ファル達を見つめたズルズキンが何かに気付く。

ズルズキン「ックク…『失敗作』だけかと思えば追加でとんだ獲物もいたもんだ」

ズルズキン「”滅んだ王家の落ちぶれ”がな!!」

チーノ 「なっ!!!!」

様子を見て、ファルはズルズキンと少し距離を取って飛行する。

ファル「お前、あいつと関係あんのか?」

チーノ「…分かんないけど、たぶん…昔、私の故郷を襲った集団の一人……」

ファル「そうか」

ズルズキン「ゴチャゴチャ何を喋ってる」

ズルズキン「ああ、報酬が待ちきれない…こいつらを狩ればやっと…」

ズルズキン「とっとと早めに終わらすぞ!」

その瞬間、ズルズキンの身体が光り出す。

チーノ 「!?」

ズルズキン「グギッグギギギッ…フー…!」

ズルズキン「ギガシンカ!!」

光が霧散すると同時に立っていたのは、ズルズキンの変化した姿だった。

ファル 「やっぱな!”だいちのちから”!」

ギガズルズキン「無駄だ」

ズルズキンは地面を大きく踏み鳴らし、大地の力を相殺する。

ファル 「あ~あ…めんどい奴だな」

ファル 「じゃあメイド、さっき昔の事教えてくれた代わりに俺も自分の事を教えてやる」

チーノ 「今!?」

ズルズキン「とっとと終わらすぞ…“とびはねる”!」

ファル「俺は十年前、とある博士により造られた破壊兵器の『意思を持った失敗作』!」

ファル「そのせいで失敗作じゃないやつ……今回のズルズキンみたいな奴らから追われの身になってる…そして」

チーノ「!?まぶしい!」

今度はなんだ。ファルの身体から光が溢れだす。

そして、光が止むと…

ファル「そしてあの博士が作ったモノの特殊能力が…これだ」

ファル「ギガシンカ…X!!」

ファルの身体は変化していた。

チーノ「…!?!?ファル……だよね!?」

そんなチーノの言葉を無視して、ファルは攻撃する。

ファル「スケイルショット!」

ズルズキン「そんな遅い攻撃当たらんわ!」

鱗の弾撃を軽々と躱す。

ファル「どうかな」

ズルズキン「ッ!? うおぉっ…」

なんと、鱗が並んで地面に刺さったことによりズルズキンの真下で地割れが出来る!

空中で身動きが出来ず割れた地面に落ちるが…

ズルズキン「(この俺が…こんな雑魚敵ごときに…失敗作なんざに…)」

ズルズキン「殺されるかァ! ……あ!?」

壁を蹴り穴から脱出するも、穴の上にいたのは完全に力を溜め終えたファルだった。

ファル「世の中…お前みたいな奴が死ぬんだぞ」

ファル「ギガバースト!!」

ズルズキン「ッッぐぁぁぁあああああぁあああああああああああああああああぁぁ!!!!」

発射された巨大な光がズルズキンを襲う。

チーノ「ひえぇ……」

ズルズキン「(クソっ……心臓…やられ…)」

ファル「一件落着っと」

ファル「……ま、俺はこういう追われの身だが」

何故か姿が戻っているファルが、地面に降り立つ。

ファル「朝も言った通り俺は掃除がちょっと苦手だ」

チーノ「(だから”ちょっと苦手”ってレベルじゃ無いような…)」

ファル「だから、お前みたいな奴が必要なんだ」

ファル「汚い部屋で生活したくないし、明日もここに来てくれないか?」

チーノ「へっ!?……」

チーノ「……わ、分かったよ…一日だけね」

ファル「ありがとな~」


別れの挨拶をして、帰路につく。

ファルは何も考えて無さそうな笑顔で手を振ってくる。まったく…

自分がまったく知らなかった外の世界。また見てしまったポケモンの暴れる姿。突然姿が変わる現象。

知らなかったこと、分からないことばかりでどうかしちゃいそうだが、

今日は帰って早めに寝ることにした。


……そして、私はまだ知らなかった。

これから途方もない大きな出来事に巻き込まれる事に――――――

メイドの不器用な旅路

第1話:終

【メイドの不器用な旅路】

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