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⧉▣ FILE_028: 父? ▣⧉
噂の出処が掴めず、AはLの部屋へと向かい、ノブに手をかける。
ぎぃ、と軋む音とともに扉を開くと、薄暗い室内にひときわ目を引く光景があった。
粉々になった──ノートパソコン。
Aがかつて怒りに任せて破壊してしまった、自分の唯一の通信端末だった。
「……そうだ……壊したんだった」
思わずため息をつく。今さらながらに後悔が押し寄せる。
「……使えないや。これしかなかったのに」
パソコンに近づいても、再起動の見込みなどあるはずもない。割れたディスプレイからは、いまにも破片が崩れ落ちそうだった。
代わりの端末を探そうと辺りを見渡すと──床に無骨な筐体がひとつ。
重厚な金属フレーム。背面には複数のLANケーブルが這っている。
「……これ──」
側面にラベルが貼られていた。
【W-HOUSE COM/CRADLE-CORE】
認証済:SYSTEM LINKED TO WAMMYSERVER
見覚えのある型番だった。
ワイミーズの主端末。
Lがかつてここで使っていた──
『スーパーコンピュータ』。
Aはケーブルの本数に目を丸くした。電源、回線、独立端末、監視システム、さらには衛星通信まで接続されている。
あまりにも仰々しい。
Lが使っていた“中枢”。絶対に触れるなと子供たちに念を押されていたはずの……“本体”だ。
けれど、今は──使うしかない。
モニターの前に座り、ゆっくりと手を伸ばす。
「L、怒るかな……」
電源ボタンを押すと、低く重たい駆動音が室内に響いた。数秒の沈黙の後、ディスプレイが明るくなり、起動画面が表示される。
Aは思わず目を丸くした。
「……パスワード、かかってない……」
信じがたいほど簡単に、Lの中枢へ通された。恐る恐るマウスを動かすと、あっけなくデスクトップが展開される。画面上には、いくつものフォルダとショートカットが整然と並んでいた。
AはLの特設サイトにログインし、メールを開いた。
A: >「ワイミーズハウスにて、噂の出処を探りましたが、特定には至りませんでした。出所不明のまま、拡散のみが進んだ形跡があります。以上、取り急ぎご報告まで」
送信を終えた直後、返信が即座に届いた。
L:>「了解しました。別の手を打ちます。明日の6時、再度こちらに来ていただけますか?」
Aは「了解」とだけ返信し、タブを閉じた。
──ふと、左下の隅にある黄色いフォルダへと目を向けた。
Lのファイル──
「……」
躊躇はあったものの、興味本位でファイルを開いてみた。
そこにはLが関わった数々の事件が時系列順に並んでおり、未解決事件、アーカイブされた調査記録、個人的メモ、証拠資料の断片──どれも濃密で、重みのあるファイルばかりだった。
「すごい……」
Aは敬意のため息をつきながら、ゆっくりとスクロールした。
「……ん?」
すると、その中に──異質なファイルがひとつ混ざっていた。
《Father?》
奇妙なファイル名だった。
形式も他と異なり、アイコンも色が違っている。
(父親……?)
Aは躊躇いながらも、思わずクリックしてみた。
──が、すぐにポップアップが表示される。
《PASSWORD REQUIRED》
【▶︎********】
「……っ」
パスワードがかかっていた。
それも、スーパーコンピュータ内の他のどのフォルダよりも、強固なアクセス制限。
「……さすがに、無理か……」
Aは肩を落とした。
“Father?”
Lが、そんな名前をファイルにつけるだろうか?
それとも、これはワタリに関する何かか。
あるいは──もっと別の、知らない何か──
けれど今は、考えても意味がない。
Aはそっとウィンドウを閉じた。