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夜は長かった。
熱が引かない。
むしろ、
時間が経つほど悪化していく。
「っ、ぁ……」
Pizza guyは荒い呼吸で身を捩った。
手首の鎖が鳴る。
じゃら、じゃら、と冷たい音。
首筋が熱い。
疼く。
吸血痕が、
まるで心臓みたいに脈打っていた。
「くそ……っ」
ベッドへ頭を押し付ける。
苦しい。
喉が渇く。
ノスフェラトゥの唾液が欲しい。
あの熱を鎮める感覚を、
身体が勝手に求めている。
そんな自分が嫌だった。
「ぁ……っ」
耐えきれず、
背中をベッドへ擦り付ける。
熱を逃がしたい。
少しでも誤魔化したい。
だが全然足りない。
首筋の疼きは消えない。
むしろ、
刺激されて酷くなる。
「っ、ぅ……」
鎖を引く。
逃げたい。
いや違う。
何から逃げたいのか、
自分でも分からなかった。
その時。
カタン。
窓が開く音。
冷たい夜風。
Pizza guyが顔を上げる。
月明かりの中、
窓辺に女が座っていた。
長い黒髪。
金色の瞳。
ストリガ。
「……また、お前か」
声が掠れる。
ストリガはすぐには近づかなかった。
ただ、
拘束されたPizza guyを眺める。
「ふふ」
愉しそうに笑う。
「かわいそう」
「うるせぇ……」
彼女はゆっくりベッドへ近づく。
だが、
触れない。
首にも、
身体にも。
代わりに。
しゃら、と鎖を持ち上げた。
冷たい鉄へ、
赤い唇がそっと触れる。
ちゅ。
「っ……」
その音だけで、
身体が震えた。
ストリガはくすりと笑う。
「本当に飼われてるみたい」
また鎖へ口づける。
今度はゆっくり。
わざと見せつけるように。
「やめ……っ」
「嫌?」
「……っ」
嫌だ。
なのに、
呼吸が乱れる。
脳が勝手に、
“その先”を期待してしまう。
ストリガはそれを見逃さなかった。
「可愛い」
金色の瞳が細くなる。
「触ってないのに、そんな顔するのね」
「ぅる、さい……」
ストリガは拘束具へ指を滑らせる。
「ノスフェラトゥって本当に意地悪」
「壊したくないくせに、こんな風に閉じ込めるんだもの」
彼女の爪先が、
鎖の繋ぎ目をなぞる。
カチ、と小さな音。
「助けてあげましょうか?」
その囁きに、
Pizza guyの心臓が跳ねた。
外せるのか。
この鎖を。
逃げられる。
この苦しさから。
だが同時に、
脳裏を過った。
ノスフェラトゥの顔。
「嫌われても、お前を死なせる方が嫌だ」
あの低い声。
不器用な手。
農園へ向かっていった背中。
「……」
ストリガが覗き込む。
「ねぇ、人間」
「本当に、あんな化け物の言うこと聞くの?」
Pizza guyはしばらく黙っていた。
熱で視界が滲む。
苦しい。
今すぐ、
誰かにこの熱をどうにかしてほしい。
それでも。
「……あいつ」
掠れた声が落ちる。
「ピザ、焼いてる途中なんだよ」
「…………」
ストリガが瞬きをする。
「は?」
「今頃、多分めちゃくちゃにしてる」
苦しそうなのに、
Pizza guyは少し笑った。
「だから……」
鎖が鳴る。
「勝手に逃げたら、怒るだろ」
数秒。
ストリガはぽかんとしていた。
そのあと。
「っ、あはははは!!」
突然笑い出した。
腹を抱える勢いで。
「なにそれ!」
「そんな理由!?」
「はぁ……っ、ほんと変……!」
笑いながら、
彼女は目尻を拭う。
だが次第に、
その笑いは静かなものへ変わった。
「……そっか」
金色の瞳が、
少しだけ細くなる。
「もう、“帰る場所”になっちゃってるのね」
その言葉に、
Pizza guyは答えなかった。
答えられなかった。
ストリガは最後にもう一度、
鎖へ軽く口づける。
「じゃあ今日は取らない」
黒い霧が身体を包む。
「そろそろ行くわ」
消える直前。
「ピザ、焦げてないといいわね」
その声だけ残して、
彼女は夜へ溶けた。