テラーノベル
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限界だった。
苦しい。
呼吸すらまともにできない。
「ぅ、ぐ……」
Pizza guyはベッドの上で身体を反らせた。
シーツへ爪を立てる。
背中を擦り付けても足りない。
首を掻こうとして、
鎖に止められる。
耐えられない。
ストリガの残り香。
ノスフェラトゥの毒。
両方が混ざって、
身体の中で暴れていた。
「っ、ぁ……!」
痒い。
噛まれたい。
牙が欲しい。
頭がおかしくなる。
その時。
扉が開いた。
ノスフェラトゥだった。
マントに夜風の匂い。
そして手には――
皿。
「…………」
Pizza guyはそれを見る余裕もなかった。
「ノ、ス……」
掠れた声。
ノスフェラトゥの目が細くなる。
「悪化したか」
「早く……」
鎖が鳴る。
Pizza guyは震える手を伸ばした。
「早く外せ……!」
ノスフェラトゥが一瞬止まる。
赤い目が揺れる。
「だが今外せば、お前は――」
「いいから!!」
悲鳴みたいな声だった。
「もう無理……っ」
その瞬間、
ノスフェラトゥの表情が変わる。
迷い。
葛藤。
だが最後には、
小さく息を吐いた。
カチャ。
鎖が外れる。
次の瞬間。
「っ――」
Pizza guyの方から飛びついた。
ノスフェラトゥの服を掴み、
勢いのまま深く口づける。
「ん……っ、ぁ……」
自分からした。
それを自覚した瞬間、
羞恥で頭がくらくらする。
だが止められない。
必死に。
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貪るみたいに。
ノスフェラトゥの唾液を求める。
舌が触れた瞬間、
熱が少しだけ和らぐ。
「っ……」
ノスフェラトゥが息を呑む。
だがPizza guyは止まらない。
逃がさないように首へ腕を回し、
何度も口づける。
「ん、ぅ……っ」
熱い。
でも、
やっと呼吸が出来る。
発作が少しずつ落ち着いていく。
ノスフェラトゥの手が、
ゆっくりPizza guyの背中へ触れた。
壊れ物みたいに。
「……遅いんだよ」
唇が離れる。
Pizza guyは肩で息をしながら、
ノスフェラトゥを睨んだ。
「クソ吸血鬼」
数秒。
ノスフェラトゥは黙っていた。
それから。
額を押し付けるように近づき、
低く呟く。
「……その顔で罵るな」
「は?」
「理性が死ぬ」
「知らねぇよ……」
だが声に力は無かった。
しばらくして、
発作はようやく落ち着き始めた。
Pizza guyはぐったりしたまま、
ノスフェラトゥへ寄り掛かる。
その時。
ふ、と匂いがした。
「……なんか焦げ臭くね?」
「…………」
沈黙。
嫌な予感。
Pizza guyがゆっくり顔を上げる。
テーブルの上。
そこには――
少し歪で、
端が若干黒いピザが置かれていた。
「お前……」
「炭にはなっていない」
「ギリギリな」
ノスフェラトゥは真顔だった。
だがよく見ると、
トマトソースが妙に偏っている。
チーズもでこぼこ。
形も若干楕円。
そして何故か、
バジルだけ異常に多い。
「なんだこれ」
「……お前がいつも入れているだろう」
「入れすぎなんだよ!」
Pizza guyは思わず吹き出した。
笑うつもりじゃなかった。
でも、
あまりに不器用な出来で。
「ははっ……なんだよこれ……」
ノスフェラトゥがじっと見る。
「……そんなに酷いか」
「いや、酷い」
即答。
「でも」
Pizza guyはピザを一切れ掴む。
端は少し固い。
焼きムラもある。
だが口に入れると、
ちゃんと味はした。
トマト。
チーズ。
じゃがいも。
少し塩が濃い。
「……食えなくはない」
「褒めているのか?」
「ギリギリな」
ノスフェラトゥが静かに息を吐く。
少しだけ、
肩の力が抜けたように見えた。
Pizza guyはもう一口齧る。
それから、
ぼそっと呟く。
「農園、荒らしてねぇだろうな」
「……トマトを二つ潰した」
「やっぱりか」
「バジルも少し」
「お前ほんと不器用だな……」
呆れながら笑うPizza guyを、
ノスフェラトゥは黙って見ていた。
その赤い目が、
少しだけ柔らかい。
「……なんだよ」
「いや」
ノスフェラトゥは静かに答える。
「お前が笑っているなら、それでいい」
Pizza guyは数秒黙った。
それから、
照れ隠しみたいにピザを押し付ける。
「……お前も食え」
「お前のために作った」
「一緒に食事するんだろ」
その言葉に。
ノスフェラトゥは一瞬だけ目を見開いた。
それから、
小さく笑った。
今度はちゃんと分かる笑みだった。
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