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5月14日 02:00 東名高速道路港北PA付近
「きやあ!」
ゆり野は、バイクの後ろに乗るのは初体験だった。
フルフェイスマスクを被るのも初めてで、磯海が運転する黒バイが加速する度に悲鳴をあげた。
ゆり野は、両親が行方不明のままの現在、自分も消えてしまいたいという衝動に打ち勝つ自信もなく、 ひとりぼっちの自宅ではいつも泣いていた。
想い出が溢れ返る家にいると、心が潰されそうで嫌だった。
だから、蕎麦屋に毎日出掛け、慣れない仕事に精を出していたのだ。
偽造した通行証は、20万円で買ったもので、その日は 罪悪感に苛まれて、一日中泣いて過ごした。
「自分は犯罪者なんだ」
と、もうひとりの自分が責め立てる。
それでも毎日働いた。
家族はいずれ戻ってくると信じていたからだ。
磯海の背中が、父親のやさしさと重なる。
その声が、風に煽られて途切れ途切れに聞こえる。
「ー町田だから…なかなか…急ぐよ…」
黒バイの赤色灯が回転してサイレンが鳴った。
ゆり野は驚いて叫んだ。
「ええ!ダメダメダメ~」
黒バイは、ぐんぐん加速して行く。
ゆり野は、重力に耐えきれなくなって、磯海の腰に腕を回した。
男の人の匂いがした。
涙がこぼれ落ちた。
偽造通行証を使っている自分が、たまらなく嫌になった。
白い月が、ふたりの後を追いかけてくる。
ゆり野はそっと、磯海の背中に顔をあてた。
ヘルメット越しでも、鼓動の音はちゃんと聞こえていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
ゆり野は別れの挨拶代りに、ヘルメットの中でそう呟いていた。
上空を過ぎる人工衛星の光。
妖しくうねるオーロラが、ゆらりと不気味に舞っていた。