一方、昨年のアキマツリで初めてこの里を訪れ、二ヶ月ちょっと前にハルマツリで再訪していたレイブの周りには、里の子供達、十数人が取り囲んでキラキラとした瞳を覗かせながら、思い思いに言葉を投げ掛けて来るのである。
「ねえねえレイブ兄ちゃん! 何を持って来てくれたんだよぉ! 春に約束してくれたカブトムシは? ねえ、美味しいんだよね? ねっねっ?」
「そんな物よりアタシに話して聞かせてくれた緑の石よ! グリーンアメジスト、だったよねぇ? 髪飾りを作ってくれるって言ってたじゃないのぉ、持って来てくれたんだよね? ねぇレイブぅ?」
「手裏剣は? 手裏剣、手裏剣っ! レイブあんちゃんっ! 手裏剣を見せてくれるっ、約束だろう?」
子供たちに話し掛けられ続けたレイブは視線をチラリと師匠バストロに向け、彼が大楊(おおよう)に頷き返したのをしっかりと確認してから返事を返す。
「ああっ! カブトムシの幼虫は軽く干したヤツを、沢山持って来ているよぉ! グリーンアメジストの髪飾りもマロンの分だけじゃなくて女の子全員分を作ってきたから安心してね! 手裏剣もね、見せるだけじゃなくて君ら用のヤツをあげようと思って準備してきたしね! それよりももっと良いものもあるんだよ? 大きな蜂の巣を見つけてねぇ♪ 皆に食べて貰おうと思ってさっ、幼虫の一夜干しとちょっとだけだけどね、蜂の蜜も持って来たんだよぉ? 甘いぞぉ! 一口づつだけど舐めてごらんよぉ!」
「「「「「「わあぁ!」」」」」」
きゃっきゃっ! わあわあと騒ぎ捲る子供たちに向き合うレイブは楽しそうな笑みを浮かべ幸せの絶頂に生きている、そうペトラの目には映ったのである。
終いには虎の子のドングリや変わった形の石ころまで子供たちに惜しみなく譲ってしまったレイブは満足気な笑みを顔面に浮かべて言い放ったのである。
「はいっ、お終いぃー! 又、次の春にねぇー、皆、僕の妹、ペトラにもリクエストをして置いた方が良くないぃ? ほらほらぁ、早い者勝ちだよぉ? ねっ! ペトラぁ! 出来るだけ聞いてあげて覚えていてぇ、出来る限りね、次の放浪、次の春が訪れた時にさぁ、持って来て上げてくれないかなぁ? だめぇ?」
ペトラは驚愕の表情を瞳にもその全身の戦慄(わなな)きにも表しながら何とか答えた、声は震えたままである。
『わ、判ったわ…… お兄ちゃん…… 次の春に、皆の期待に答えられる為にだよね…… う、うんっ! アタシっ聞くよ! さあさあ、子供達ぃっ! 次の訪問に何を持ってきて欲しいのぉ? 今アタシっ! 絶賛募集中だよぉっ! 早い者勝ち、遅くなった子の話とか覚えられないかも知れないんだからねぇ! ほらほら、早く来て聞かせてご覧よぉ! 早い者勝ちだよおぉ!」
小さなペトラは、まだまだ歪(いびつ)な知識しか持たないながらも、『放浪者』の存在意義、その入り口の意味を理解してくれた様である。
大きな声で里人を魅了し続けるバストロとレイブ、その二人の姿を眩しそうに見つめながら、小さな小さなペトラの初めての放浪は成功裏に終わりを迎えたのであった。
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