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とは言え、未だ五箇所の集落を残している『魔術師』の道行きである。
ペトラは今回×6の経験を余儀なくされてしまうのであった。
言うまでも無く、この時代に生きているニンゲンの数は、決して多いとは言えない。
だと言うのに、生き延びてペトラたちを迎える集落の人々の様子には、打ち合わせ済みなの? としか思えない様な思いやりと優しさ、同じ様なやり取りのリプレイ、それだけが繰り返し見えていたのである。
最後の集落は湖沼(こしょう)に包まれた小さな里であった。
その里での商売を無事済ませた一行は、満足気な表情で道を進んで行く。
トップリと暮れ始めた夕焼けを顔に照り返させながらレイブはペトラに聞く。
「最後のリクエストはあの小さい女の子、ジェスだったよね? ねえペトラぁ、あの娘、なんだってぇ? 何が欲しいって言っていたのさぁ!」
ペトラは俯(うつむ)きながら歩き続けていた顔を僅(わず)かに上げて答える。
『う、うん…… ジェスがアタシに求めた要求、だよね…… あの、あれだって…… 冬が過ぎたら又来てねってぇ…… 次の春までに考えて置くから、だってぇ…… う、う、ううううぅぅ、ああああーん、アンアンアンアンアーン! それしか無いって言っていたよぉ! うぇーん、グスグスゥ……』
レイブは笑顔を浮かべたままで、小さなペトラの頭頂の薄っすらと生えた漆黒の鬣(たてがみ)を撫でながら答える。
「そうかぁ、んじゃあ、何としてもこれから訪れる冬を乗り越えなくっちゃならないねぇ! 約束してしまったんなら仕方が無いよねぇ、良しっ! 頑張って生き残ろうね、ペトラッ!」
横を歩く巨大なヴノの背からギレスラも大きな声を掛けてくれる。
『グガ、グガガガァ! グガッグアッ! ガアアァァァッ!』
『う、うん、ありがとうギレスラ兄ちゃん…… アタシももっとちゃんと考えてみるねぇ、あんがとぉ』
ペトラの取り敢えずっぽい声に答えたのはでっかいでっかいヴノの低い声である。
『ムホホフォォ! 儂等ボアやディアはニンゲンや竜に比べて子供の期間が長いからのぉー、ペトラが即答出来ないのもせん無き事じゃわい! ムホホホフォ! ゆっくり考えれば良いのじゃぁ! ムホホフォフォォッ! ブフォッオオオォォッ!』
最後に訪れた湖沼(こしょう)に隣接した集落の子供たちに見送られたペトラは、七十を超えるリクエストの半ば少し前で、覚え切れる訳無ぇーだろ? あぁっ? そう思いながらも鬱々(うつうつ)と歩き続けていたのでこの大いなる巨猪(きょちょ)ヴノの言葉には大いに勇気付けられてしまうのであった。
故に笑顔で答えたのである。
『う、うん、そうだよね! ありがとヴノぉ! ゆっくり考えるよぉ! そうするねぇ♪』
『そうじゃぞいっ! ムフォフォォ! それで良いんじゃぞ、む? む? むむむむぅっ?』
ご機嫌でペトラに言葉を返していたヴノが、突然その歩みを止めて怪訝(けげん)そうな声で唸るのと、バストロが一行の先頭に踊り出て両手を大きく開き立ち塞がるのは同時であった。